ネット広告業界の救世主「CHEQ」が、中東のシリコンバレーから到来。アドテクノロジーの常識を打ち破る独自のシステムとは

PROFILE

犬塚洋二

1995年に立教大学を卒業後、商社勤務を経て2000年にエキサイト株式会社に入社、広告営業部長などを務める。その後、2011年グラムメディア・ジャパン株式会社に移り、アドバタイジングセールス・ディレクター、執行役員を歴任。2018年5月よりCHEQ AI Technologiesの日本法人であるCHEQ Japanに所属し、カントリーマネージャーを務める。

電通が毎年発表している「日本の広告費」によると、2018年のインターネット広告費は1兆7589億円となり、総広告費の約4分の1以上を占め、地上波テレビの広告費(1兆7848億円)に迫る勢いを見せている。2000年代以降から急速に拡大し、いまや成長市場から成熟市場へと移りつつあるネット広告市場だが、その裏で高まっているのが、すべてのブランド広告主が安心してネット広告をマーケティング活動に活用できる万全なブランドセーフティの必要性だ。

その領域において、ブランドセーフティという独自の技術で注目を集める企業が、イスラエルに本拠地を置くアドテクノロジー企業・CHEQ AI Technologiesだ。今回は同社の日本法人でカントリーマネージャーを務める犬塚洋二氏にインタビュー。リアルタイムアドセーフティがもたらすメリットと同社が目指す世界観などについて伺った。

目次

「中東のシリコンバレー」イスラエルから上陸したサイバーセキュリティ企業CHEQ

ーーまずはCHEQ AI Technologiesという企業の成り立ちから教えてください。

「CHEQ AI Technologies(以下、CHEQ)は、2010年にイスラエルのテルアビブで設立したアドテクノロジー企業です。創業メンバーはイスラエル軍の国防部隊でサイバーセキュリティに携わってきた人物が中心で、デジタル広告が自由に楽しめるエコシステムの維持をテーマに事業展開を行っています。現在はニューヨークと東京にも拠点を置き、40名強のスタッフが在籍しています」

ーーイスラエルは「中東のシリコンバレー」などと言われ、スタートアップの集積地として国際的知名度を獲得しつつありますが、イスラエル企業ならではの強みはどこにありますか。

「最近ではイスラエルに拠点を置くハイテク企業のことをイスラテックと呼んだりもしますが、周囲に国際問題を抱えているイスラエルは、インターネットの無い時代から情報傍受や分析の技術に多額の国防費を投入してきた国家です。AIに関しても先進的な研究開発を行い、情報分析をいち早く展開するなど、世界トップレベルの技術を有してきました。当社のソリューションも基本的にすべてAIの力によるものですが、NLP(自然言語処理)を中心とした複数のAIの組み合わせによって言葉の持つ意味や文脈まで理解できるという独自的な技術も、こうした軍事レベルの技術を基盤としています」

ーーCHEQが次世代のアドテクノロジー企業と呼ばれる所以はどんなところにありますか。

「当社のイノベーションは、デジタル広告にとって永遠の課題であった『ブランドセーフティ(広告主にとって不適切な広告の排除)』と「アドフラウド(ロボットを使ったクリックなどの不正行為)』を、リアルタイムアドセーフティというプラットフォームによって解決している点にあります」

ーーCHEQのリアルタイムアドセーフティとは、具体的にはどのような技術を持った仕組みなのでしょうか。

「これまでのネット広告では、ネガティブコンテンツなどへの表示を完全にシャットアウトするのは技術的に不可能といわれてきました。そして、それを前提とした従来のアドベリフィケーション(デジタル広告のリスク検知)では、広告主に好ましくない場所での表示や詐欺などの被害によって『どれだけの損失があったか』をレポーティングで出すのが通例でした。

つまり、掲載後でなければ損失額が分からないというのが常識でしたが、当社のリアルタイムアドセーフティは広告配信されるページの安全性を、高度なAIを活用して即時に分析し、クライアントに損失が発生する前に回避することでその常識を打ち破ることができます。

ミリタリーレベルの最新技術を使って非常に透明性の高い形でネガティブコンテンツ、フラウドトラフィックの双方をブロックすることが可能です。この2つの課題に対して、高い正確性のもとで広告主のリスクをレポートではなく、除去できることが、リアルタイムアドセーフティの特徴といえます」

CHEQのリアルタイムアドセーフティがもたらたすのは「産業革命に匹敵するインパクト」

ーー犬塚さんから見て、今の日本におけるデジタル広告のセキュリティをどのように感じますか。

「昨年、NHKで『ネット広告の闇』という特集番組が放送され、アドフラウドという言葉が大きくフィーチャーされた影響もあって、日本の企業のネット広告へのセキュリティ意識は非常に高まっていると感じます。

ただ、本来あるべき姿、という意味からすると、まだまだスタートラインに立ったばかりのところだと思っており、今後はブランドセーフティやアドフラウドへの対策をやっているかどうかよりも、精度そのものの質を問う段階に移り変わっていくと考えています」

ーー「質」とは具体的にどんな部分が挙げられますか。

「例えば、防犯会社が加入者から月額料金をもらっておきながら週に一度の見回り程度だったらがっかりですし、大問題ですよね。従来のアドベリフィケーションではそれと似たような状況があると我々は考えており、しっかりアドベリフィケーションに対するコストを払っているのにネガティブコンテンツやロボットに広告が表示されているということが起こっています。

また、既存のシステムは悪質なアドフラウドのIPアドレスなどをデータベースにストックし、そのデータベースの中にあるものが表示されていないかを検知する仕組みです。
つまり、過去に捕まったアドフラウドは検知することができても、今まで見つかっていない新しいアドフラウドを検知することは不可能ですし、そもそも優秀なアドフラウドは常に形態を変化させます。

それに対して当社のシステムは、リスクのある広告配信を徹底的に排除しつつ、アドフラウドについてもシステムの中に罠をしかけ、悪意のあるプログラムを“現行犯逮捕”できる仕組みを提供しています。そうした点において、既存のアドベリフィケーションと比べて、産業革命に匹敵するくらいの違いがもたらせると自負しています」

ーーCHEQのリアルタイムアドセーフティを導入することで、広告主には具体的にどんなメリットがあるのでしょうか。

「まず、好ましくないページへの表示を自動的かつ未然に回避できることによって、今までアドベリフィケーションの常套手段だったブラックリスト対応(広告を表示したく無いサイトを人的作業で指定すること)を無くせることが大きいと思います。

これによって作業の効率化が計れるだけでなく、利用者に企業がリーチしたい層が多いにも関わらず、一部のネガティブな要因でブラックリスト化されてきたサイトにも広告配信が可能になります。従来はこういった媒体選別作業を人間が行なってきましたが、AIがより高度なやりかたで一瞬のうちに制御する、ということです。」


ーー今までアプローチしたかったけれど、リスクを恐れて手を出せなかった「かゆいところ」にも手が届くということですね。

「そうですね。デジタル広告は広い範囲に向かって膨大に配信されるため、その中に想定していなかった媒体が含まれてしまうこともあります。例えば、ハイブランドの化粧品の広告が、スキャンダラスな芸能記事の横に出されてしまうケースなどが代表的な例です。また、サイト単位ならブラックリスト対応でリスクを避けることが可能ですが、ページ単位でリスクを回避するとなると従来の仕組みでは対応できません。それらの点も当社のシステムはクリアできます」

ーー実際に、そうした効果が発揮された例はありますか。

「具体的な例としては、ある大手ハウスメーカーのケースがわかりやすいですね。大抵の場合、住宅を買う際に家庭内の決裁権者になるのは、日頃からニュースサイトを見ているようなビジネスマンです。企業としてはその層にリーチしたいところですが、その一方でハウスブランドとしては災害や事故のようなニュースの記事に自社の広告が載るのは避けたいという判断もあり、いくつものニュース媒体がブラックリスト化されていました。

そうしたジレンマを抱える中で当社にお話をいただき、リアルタイムアドセーフティをかけた上でテスト的にあるニュース媒体へ配信を試みたところ、実際には2割程度の記事しかブロックされないということが分かりました。この結果は従来のアドベリフィケーションが配信先を選り分けられないからこそブラックリストになってしまっているという現実を如実に表した例といえます」

アドベリフィケーションがクールに見える世界観を創る

ーー去年5月に日本法人を設立されましたが、CHEQが日本のマーケットに着目した理由はどこにありますか。

「当社のCEOが日本を旅行した際に、様々なプロダクトとサービスの完璧さに感銘を受け、当社の完全な形でデジタル広告の安全を提供する、という文化とフィットする市場と感じたことが日本進出のきっかけになったと聞いています。実際、日本人の私から見ても日本の企業はブランドリスクに対して厳しい目を持っていると感じます。

欧米の一流ブランドと比べても、緻密でリスクに対してちゃんと対応する国民性を持つ日本なら、当社のサービスを十分に理解していただける背景があると考えています。また、当社では現在、ネット広告最大手の株式会社サイバー・コミュニーケーションズとパートナーシップを結び、マシンラーニングによってAIの日本語の習得度を上げる試みを行っています。そこに至るプロセスにおいても、日本の企業から非常に細かな精査をいただきながら、世界最高水準の性能を獲得することができており、市場としても開発面においても日本は重要な拠点になっています」

ーーCHEQが今後描きたい世界観と目標を教えてください。

「ここ十数年の間におけるデジタル広告の役割は、どちらかというとコンバージョンやダイレクトマーケティングばかりにフォーカスされてきた印象が強かったと思います。しかし、これからはブランディングやブランド毀損リスクというところまで考えなければならない時代になり、よりマス媒体としての対応が重視される領域に入ってきているという実感があります。

そうしたリテラシーが広がれば、近い将来のうちに『デジタル広告にはリスクが付き物』という常識が取り払われ、ブランドや代理店が100%コントロールできる形で広告を出せる時が来ると私は思っています。おそらく、ここ数年の間に安全性を担保できるか否かが、デジタル広告業界全体のターニングポイントになるはずです。

CHEQは、様々なリスクから広告主や代理店を守る役割を果たしつつ、「セーフティ」の領域を広げながら、アドベリフィケーションやデジタル広告のリスクヘッジのような『ちょっとお堅い世界』がクールでイノベーティブな存在に見えるような世界観を創造していきたいと考えています」

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