2018年5月、クラウド環境での運用監視サービスを提供する米Datadogが、日本オフィスの開設とカントリーマネージャーに中川誠一氏の就任を発表した。2010年のサービス提供後、世界7,000社超の企業に導入されてきた同社が、まだ知る人ぞ知る存在の日本でクラウド市場に攻勢をかける。その第一歩となる「AWS Summit Tokyo 2018」で行われた中川氏の講演概要とインタビューをお届けする。
AWSシステムの可視化、監視、ログ、分析を一元化!
Datadogは、SaaSベースのデータ分析プラットフォームだ。管理データや状態を可視化することで運用・開発部の市場開拓スピードを速め、アプリケーションの稼働時間を確保して生産性向上と効率化を測る。世界では7,000社以上、国内でもサイバーエージェント、ソニー、楽天などのエンタープライズ企業に導入されており、その信頼の高さが伺える。
「開発運用・監視ツールの環境構築やメンテナンスコストを軽減できるのがDatadogです。お客様のインフラ監視、アプリケーションのパフォーマンス測定、ログ収集機能などを一つのエージェントに一括できる点が特徴で、システム管理者の情報収集と管理の効率化はもちろん障害にも対応できます」
クラウドサービスの提供側、監視運用などマネージドサービスの提供側、双方に有用なツールであることを強みに、日本でのサポート強化を進めるという。
切り込み役は3月発表の「Datadogログマネジメント」で、「(1)豊富なAWS連携機能で障害発見のための検索と可視化を実現」「(2)ログの自動収集とタグ付けやインデックス・アーカイブ化」「(3)ダッシュボードによるログ可視化とタグによるアラート」「(4)過去のDatadogのインフラやアプリケーションデータとの連携」が特長だ。アプリケーション“トレース”、インフラやミドルウェアの“メトリック”、コンポーネントから日々生成される“ログ”の一括管理という、Datadogが提唱する「システムの可視性における三本柱」によりコスト削減と業務の効率化が実現できる。
導入の際は依頼者の職種や業務を鑑み、三本柱の一部もしくは複数の管理の改善計画を立てるという。ベライゾンの例では、導入前は度重なるM&Aでシステム環境がサイロ化し、経営層からの稼働状況への単純な質問にも複数ツールを使い調査して回答する状況だった。そこでDatadogを導入しクラウド環境や自社の技術スタックの可視化を行った結果、調査コストの削減とコアプロダクトへの集中、モニタリングプラットフォームの統一による60チームの協業、問題解決時間の短縮が実現した。
「Datadog Infrastructure Monitoring」では、アプリケーションの処理能力や遅延を監視する「Datadog APM」、分析と協業のための可視化・情報共有用ダッシュボード「Datadog Dashboards」、死活監視やメトリック監視のほか機械学習監視もできる「Datadog Alerts」、タグの全データ横断分析などができる「Datadog Analytics features」、保管ログの絞り込み調査ができる「Datadog Log Management」など日本のクラウドデータ運用者を支える機能が盛りだくさん。さらにクラウドサービスで問題にされがちなセキュリティやプライバシー処理にも対応し、GDPR対応やSOC 2 Type II レポート対応済みなど安全性の高さも強調した。
Datadogの強みである「市場へのサービス投入と改善スピードの強化」「クラウドへの移行失敗リスクの除去」「運用と開発のための時間と人的コスト削減」「カイゼンのために必要な全チームのシステムの視える化」を40分の講演の中で強力にアピールし、日本市場での期待感を高めた。
「知る人ぞ知る」ツールから誰もが知るツールへ
講演を終えた後、中川氏は日本におけるDatadogの状況を改めて語った。
「日本の、特にエンタープライズ企業には、意識せずともDatadogユーザーというお客様が多いのです。例えば、私が以前在籍したアイレットでは2年前にDatadogを導入しましたが、このようにMSPが導入すると運用先のお客様も自動的に利用することになるからです」
とはいえ、まだ「ビジュアル型監視ツール」の特長による、ブランド指名される知名度には至っていない。また運用技術者はオープンソースのZabbixやNagiosによるアラートのみの確認が一般的で、複雑なメンテナンスやモニタリングのためのモニタリングなどで運用・人的コストは増える一方だ。
「Datadogをご紹介すると大半のお客様は興味を持ってくださいます。そこでサイロ化した複雑なシステムを一元化し業務効率を上げませんか、というご提案を改めてしようと決めたのです。日本オフィス開設により日本語サポートはもとより、日本独自のマーケティングによる市場展開も可能になりました」
日本企業は、世界的に見ても慎重だと評されることが多い。外資系企業が参入する際は、そうした日本人の国民性や企業精神、ビジネスの形を知ることが必須だ。
「私は日本で信頼を担保する責任者として、そして日本市場の常識を活かしたチームビルドと業務展開を行うために指名されたのです。Datadogに限らず、海外のSaaSベンダーやアメリカ企業が日本に参入するハードルはかなり高いとされています。その原因の一つは、日本のエンタープライズ企業はシステム運用を他社に外注していることです。Datadogは自社運用商品ですが、アメリカの本社ではこの構造が理解しにくいため切り込み方が難しいのです。でも、私たちが率先して上層のお客様に入り込み、運用現場のパートナーさんとも接することで状況は変えられると考えています」
海外や楽天のように社内に運用チームがある日本企業が稀であることは、CEOのオリヴィエ・ポメルも理解しているという。APACの基点がシンガポールにある外資系企業が多い中、日本にのみカントリーマネージャーと営業チームを置いている点からも同社の熱の入れ方がわかるだろう。
「当面の目標は、エンタープライズシフトを実現するための、基幹案件となるエンタープライズセールスの推進です。積極的な顧客開拓を軸に、主要なビジネスパーソンに業務環境、状況きめ細かく分析して提案に繋げられる力を持つ。そんな新規顧客開拓型の営業チームづくりが任務だと感じています」
2011年、AWS Japanの立ち上げに参加しクラウドサービスを拡大、また前職のアイレットではDatadogを採用しパートナー企業側からのクラウド市場の拡大にも尽力してきた。ツールを知り尽くし、サービス側、パートナー側と長年交流してきた中川氏にしかできないことばかりだ。
「MSP勤務の経験でユーザーの想い、販売や展開の方法も知っている。その意味では皆さんに相談していただきやすい存在だとも思います」
同社の理念は「シーズよりニーズ」。そのニーズの第一にあるのは「お客様の声」だ。理想は、お客様に寄り添って考え、提案することで「Datadogなら」と選ばれる存在。時には他社との連携を含めた提案も考える。曰く「PagerDutyはうちと連携するとより便利になる」。Datadogに用意された250ものインテグレーションは、そうした監視対象以外の連携ソリューションも含めた結果なのだ。
さて、日本のクラウドビジネスはまだ成長途中とも言えるが、その市場に切り込む魅力とはどのようなものだろうか。
「人における医者と同じで、Datadogの運用ツールは絶対に必要でなくならない存在だという点です。システムを運用する限り必要だということは、安定した需要が見込めるという意味でもありますからね。また、モニタリングとログ収集が中心なので発展性に疑問を持たれる方もおられますが、お客様のシステム環境のログデータの活用方法を提示することで将来性も見出せるかと思います」
AWS時代ならクラウドをインフラにしたいと答えていた、と語る中川氏。一方Datadogを日本で率いる今は、そのインフラの管理メーターとして、クラウド化を推進するサポート役になりたいと意気込む。
自動化で運用・管理部署の存在感を高めるDatadog
では、その管理メーターとなりうるDatadogは、各社の問題をどのような形で改善してくれるのだろう。
「運用・管理の自動化です。MSPもSIerも事業会社のIT部署も問題はほぼ同じで、案件やシステムが増えると運用に人を増やす必要がありますが、それは自動化でコストを削減できます。運用レポートの作成に煩わされることもありません。マシンラーニングを用いた次世代のモニタリング、SlackやPagerDutyといったチャットやインシデント管理のデファクトツールも併せて利用することで省コストをすすめ、それによりコアな施策に集中して取り組む環境を作ることができます。リスクヘッジの研究やより効果的なレポート作成、データ分析に時間が割けるようになります」
これらはビジュアライズされたダッシュボードの力も大きい。先のベライゾンのように、システム状況をマーケティングや経営層に即、明確に伝えられる。経営層と現場の情報共有と意思疎通が早くなるということだ。
「また、導入の決定権は経営層にあることが普通ですが、目に見える特質があると現場からも『効率化したいからDatadogにしたい』と要望を出しやすいのではないでしょうか。運用チームって基本減点法です。動いて当然、 失敗したら怒られる、と得がない。ですが視覚的に伝えることが運用チームの存在感を強め、加点式に変えられるとしたら、すごくすてきなことですよね」
今後、企業のグローバル化は進む中で、止まらず安定的で確実なクラウドによるデータ管理は大きな鍵となっていく。
「24時間365日運用ですと3交代が普通ですが、自動化が実現できれば人的コストの省力化が可能になります。また、DatadogのモニタリングのVisual化はこの省力化を実現し、さらにモニタリング、ログ、APMを一元化したのは障害の解析時のスピード化も実現しています。Webサービス系だとアクセス数の増加による『原因不明だけど遅い』とのご相談で導入をお勧めすることも多いです。最初はインフラのモニタリングから、他の機能も追加することでシステム関連はDatadogだけで把握できるようになります」
ただAPMの利用に関しては、エンタープライズ企業のパッケージソフトウェアを対象とした場合はパッケージ会社の協力が必要なため、今後はそうした部分も含めて他社との協業も進めたいと語る。
「お客様の声」を掬い、寄り添えるチームをつくりたい
業務も計画も山積みだが、営業担当と2人の現在だけに強いチーム作りが急務だ。セールスとセールスエンジニア、テクニカルエンジニア、テクニカルサポートと幅広い募集がある中、特徴的なのは「カスタマーサクセスマネージャー」。エンタープライズ契約では通年、Pro契約では必要時に顧客をケアする職種だ。同社のモットーが「お客様の声を聞く」だとは先にも書いたが、その理念を象徴する存在と言える。面接では、「案件に対しどのようなゴールを持ってアクセスするか、何を重要視するかを重視」すると語る中川氏。クラウドにおける定期契約案件を長期的に成長させ、伸ばすかという視点が必須だという。
「お客様のビジネスの成長がクラウドに期待としてかけられていると感じます。その期待をより大きくできるよう、運用管理面でサポートできる存在になりたいですね。そのためにも、すばらしい方々と出会えることを期待しています」
text:木村早苗