イチロー選手、3000本安打達成を支えた 女性下着のノウハウとは

提供元:株式会社ワコールホールディングス

2016.08.30

ワコールと言えば、まっさきに思い浮かぶのはやはり女性用下着。だが実はスポーツタイツのパイオニアでもあるのだ。イチロー選手はじめ多くのアスリートにも愛される、コンディショニングウェアという意味を持つ「CW-X」ブランド。なぜワコールがスポーツタイツだったのか? CW-Xの開発チームに在籍後、現在は同ブランドの事業企画課長を務める清家 望さんに伺った。

ワコール ウェルネス事業部 清家 望さん

ゼロからスタートしたスポーツタイツ開発

「CW-X」という商品をご存知だろうか?

ワコール社が展開するコンディショニング・ウエアブランドで、中でもテーピング技術を応用したスポーツタイツは、プロアスリートはもちろん、一般のスポーツ愛好家にも高い評価を得ているベストセラーだ。

“ワコールと言えば女性用下着。なぜスポーツタイツを?”。真っ先に浮かんだそんな疑問をCW-Xの開発チームに在籍していた清家さんに訊ねてみた。

「きっかけは、社員の家族が経験した些細なケガだったそうです。スキー中に足を痛めてしまい、その場でテーピングを施した結果、なんとか無事に下りてくることができた。そんなエピソードがヒントとなり“タイツにテーピング機能を落とし込めないか”という発想が生まれたんです」

1980年代後半。まだこの世にはスポーツタイツという概念すらなかった時代だ。そんな、まったくの新しいジャンルに挑戦するために、大いに力となったのが、これまで培ってきたガードル(補整下着)作りの技術だった。
「本来、人間の体の形を整え、美しく見せるためのガードルを、体の動きを整える方向に持って行けないかと考えたんですね。それがCW-Xの元々の始まりです」

タイツにテーピング機能を落とし込むためには、衣服圧のコントロールが不可欠。保護したい部分には、パワーの強い生地を使うことで衣服圧を高くし、他の部分と区別しなければ効果が期待できないからだ。

「それには、ガードル作りのノウハウが大いに生きました。お尻の一部分だけを持ち上げたりということを長年やってきていたので、そういった異素材を組み合わせたりするのは得意分野だったんです」

ワコールの知財でもある補正下着の技術が詰まったCW-X

ある意味、女性用下着ブランドだから、実現できたのだ。ワコールがスポーツタイツのパイオニアになったのは、必然だったとも言える。
とは言え、これまで誰もそんなものを作ったことがない世界への挑戦。最初は衣服圧を計りながらの開発。効く、効かない以前に、どういう計測方法をすれば良いのか、それすらも手探り状態だった。パイオニアという存在ゆえの辛さだ。

「うちの会社には1964年に発足した“人間科学研究所”という研究機関があります。発足当初は日本人女性のカラダにあった下着を開発するために体型計測をすることがメインの機関でしたが現在ではヒトのカラダの動きの研究や動きを衣類で変えていくための基礎研究も行っています。その中で培われた分析ノウハウも大いに役に立ちました」

もちろん、数値上だけでは終わらない。運動に効くということを証明するために、実際に社員自らが運動をし、筋電図を見ていく。
「僕もスクワット300回とかしてましたよ(笑)。体を動かすと筋肉は電気を発するんですね。疲れてくるとその電気が弱まってくる。その様子を、サポートラインのないスパッツのみ、サポートラインが入ったスパッツ(CW-X)、何もつけない状態という3種類で比較していくんです」

アジア人初のMLB通算3000本安打を達成したイチロー選手

イチロー選手にとって欠かせない存在へ

そうやって、パイオニア特有の生みの苦しみを伴って誕生したCW-Xは、世界初のスポーツタイツとして、世界中に広まっていく。その人気ゆえ、いまでは他社からも似たようなコンセプトの商品が発売されたりもしている。

「他の物との明確な違いは?」という、ちょっと意地悪な質問をしてみると「フィット感ですね」と清家さんは即答する。
「例えば2種類の素材を組み合わせるというようなことは、下着メーカーだから元々得意です。部位によってどれだけ伸縮性を持たせるのかでフィット感は大きく変わってきます。縫い目もできるだけ抑えることで、着用感も良くしています。そのための素材選びのノウハウ、そして縫製技術が、女性下着を作り続けてきた弊社と、他社との決定的な違いだと考えています」

それを裏付けるエピソードとして、メジャーリーガーであるイチロー選手が愛用しているという事実がある。2002年からCW-Xとイチロー選手はアドバイザリー契約を結んでいるのだが、実はそれ以前からイチロー選手は自らCW-Xを選び着用していたのだという。いまでは、トレーニング中も試合中も常にCW-Xを着用している。

「イチロー選手に言われてうれしかったのが、「自分のパフォーマンスを最高の状態で発揮するために必要なもの」という言葉でした」

いまではCW-Xが無い状態で体を動かすことはしない、とまで言っているそうだ。それは試合に限ったことではなく、例えばTVCFの撮影の時でも、体を動かすシーンがあれば、必ずCW-Xを身につける。
もちろん、CW-Xはプロアスリートのためのものだけではない。実際に数多くの人が、様々なスポーツの場で着用しているのを見かける。

「UNDER WEAR BY CW-Xなど新しいシリーズの展開も始めましたが、今後は、そういったライトユーザー向けのCW-X商品をさらに充実していきたいと思っています。作る上でのポリシーとしてあるのが、過剰なサポートをしないというところなんです。あくまでも自分自身の体が基本としてありつつ、ケガの心配や、疲れを軽減することで、みなさんがもっと楽しくスポーツに取り組めるようにする。それがCW-Xのポリシーです」
イチロー選手をはじめ、さまざまなプロアスリートを支える一方で、CW-Xは趣味でスポーツを楽しむ人も優しくサポートし続ける。

進化を続けるCW-Xの未来

スポーツタイツのパイオニアとしてスタートしたCW-X。今後はどのような展開をみせるのかが気になった。開発時期から改良に改良を重ね、いまでは豊富なラインナップを展開するCW-Xは、相当に完成度が高いはずだという思いからだ。

「僕は、いまは開発から外れてるんですが、実はちょっとホッとしてるんですよ(笑)。ボトムの方は、ここから新しいアイデアを出すのはかなり難しいというくらいに完成度が高いと思います。サポートラインを新しくするというのは、なかなか難しいですが、新しい生地だったり、縫製技術の進化だったりはまだまだ余地がある。いまある商品をより良くする方向ですかね。全く違うものを作ろうとしすぎると、いまある良さを殺していってしまいかねないですからね。ただ、上半身はまだまだやれることがあるかもしれません。上半身のほうが動きが大きいし、複雑なので。その分、難しさもありますが、可能性も残されていると思います」

清家さんは開発から外れたからホッとしているなんて言うけれど、きっとそんなことはない。CW-Xの今後を語る清家さんは、今回の取材の中でもっとも楽しそうに話してくれた。きっとそれはワコールという会社の社風だったりもするのだろう。
パイオニアだから凄いのではない。継続する力、進歩を諦めない姿勢。そここそが、イチロー選手のような一流アスリートから、一般ユーザーまで幅広い支持を得られている源なのかもしれない。

ワコールの経営理念にこんな言葉がある。
「失敗を恐れず成功を自惚れません」
CW-Xは、そんなワコールの理念の結晶のひとつなのだ。


文:櫻井卓  写真:田中郁衣

株式会社ワコールホールディングス

代表者: 塚本 能交
設立: 1949年11月
URL: http://www.wacoal.jp/
住所: 京都府京都市南区吉祥院中島町29
概要: インナーウェア(主に婦人のファンデーション、ランジェリー、ナイトウェア及びリトルインナー)、アウターウェア、スポーツウェア、その他の繊維製品および関連製品の製造、卸売販売および一部製品の消費者への直接販売を主な事業としています。