景色やスポーツだけじゃない、4K放送はテレビショッピングの常識も変えていく

 

2018.07.23

今、テレビ関係者の間で「4K」というワードがしきりに飛び交っている。なぜならば、12月1日から超高精細の4K・8K技術による実用放送「新4K8K衛星放送」がスタートするからだ。すでに17チャンネルの開始が決まっており、その中でも開始初日から「365日24時間生放送」を打ち出しているのが、テレビショッピングでおなじみのQVCジャパンである。同社では現在、4K放送開始に向けて放送設備の刷新が進行中。ショッピングチャンネルが4K放送に注力する意義はどこにあるのか。千葉市美浜区のQVCスクエアで代表取締役社長の内田康幸氏、グループ全体の放送技術部門を統括するQVCグローバルエンジニアリング バイスプレジデントのジョセフ・ミクーチ氏に話を伺った。

※2018年6月21日時点の取材を元にした記事となります。

ピュア4Kによる24時間365日生放送に挑む

アメリカ合衆国のペンシルバニア州に拠点を置くQVCは、テレビショッピングを中心としたビデオコマース分野において世界最大の企業。現在7つの国に現地法人を有し、日本法人であるQVCジャパンは三井物産との合弁企業として2000年に設立された。昨年1月に子会社のQVCサテライトを通じて、総務省からBS4K放送の基幹放送事業者の認定を受けたQVCジャパンは、新チャンネル「4K QVC」を開設し、ピュア4K(特定超高精細度テレビジョン放送)による24時間365日生放送を行うと発表。NHKの4K放送局でさえ開始時のピュア4K率の割合を90%としている中、「4K QVC」ではピュア4K率100%の放送に挑む。

 

――フルハイビジョン(2K)の4倍も解像度の高い映像が楽しめるという4K放送ですが、まだ世間ではスポーツ放送や音楽放送といった娯楽的なコンテンツを見るものという印象ばかりが浸透しているように感じます。その中でQVCのような通販事業会社が4K放送を行う意義はどこにあるのでしょうか。

 

内田氏:「新しいものをいち早く取り入れるのは、QVCグループが持つ価値観の一つである「パイオニア精神」の表れで、2004年にテレビショッピングを生放送で24時間365日にしたのも日本では我々が初めてでした。新しいことがお客様にとってメリットになるならば実現する。12月からの4K放送という新しい取り組みにチャレンジすることも、QVCの基本姿勢の現れと自覚しています」

株式会社QVCジャパン 代表取締役社長 内田康幸 氏

――具体的には、4K技術の導入に対してどのような効果を期待していますか。

 

内田氏:「まずは、4Kの技術で非常に綺麗な映像を提供できるということが一番です。4Kの導入が売上に直結するとは考えていませんが、お客様に正確な情報をお届けすることで映像と実物とのギャップがなくなり、顧客満足度の向上にも繋がると期待しています。また、我々が商品をありのままの形でプレゼンテーションできるというのは、商品を提供するベンダーの方々にも大きなメリットを感じていただけると思います」

 

――映像技術の向上以外ではどんなところにメリットを感じていますか。

 

内田氏「我々は、スカパー!や全国のケーブル局では24時間放送のショッピング番組を配信していますが、BS放送での24時間放送はこれまで実現できていませんでした。今回の事業認定によって新しいBSの帯域で24時間放送が可能となるので、特にQVCを毎日長時間見てくださっているロイヤルカスタマーの方々には喜んでいただけるはずです」

 

――4K放送開始に向けて社内ではどんな準備が進んでいますか。

 

内田氏「事業認定を頂いた後から社内に横断的なタスクフォースを結成し、そこに放送機材のエンジニアのほか、マーチャンダイジングや営業の担当も集めて、技術面やマーケティング面で必要なことを話し合っています。また、その中にはベンダーマーケティングというチームもあり、4K放送開始の前にベンダーの方々にどんな啓蒙活動が必要かを考えています。夏の終わり頃には4K放送用のスタジオも完成するので、実際にベンダーを招いたプレゼンのトレーニングやカメラテストを行っていく予定です」

――では、4K放送を始める上で課題に感じている点があれば教えてください。

 

内田氏「『見えすぎる』というのはひとつの課題と捉えていて、焦点の合わせ方など撮影の巧みさが今以上に必要になると感じています。その課題感をベースとして、よく見えることをどうやって活用していくかというトレーニングも進めていきます」

 

――4K放送のスタートは、QVCグループが拠点を置く7か国の中でも日本が初めてと聞きました。ミクーチさんが担当されている技術面ではどんな準備を行なっているのでしょうか。

 

ミクーチ氏「今は2Kの放送技術を4Kに拡大するために施設を拡充していますが、現在放送している2Kの放送を止めることなく4Kの放送技術を入れていくのはとても難しいことです。例えば、現在ある生放送の司令室である2つの副調整室とともに、4K用の新しい副調整室を2つ作らなければならない。編集室や収録用スタジオも4K用に新しく作っているところです」

QVCグローバルエンジニアリング バイスプレジデント ジョセフ・ミクーチ氏

4K映像が見せる、色の再現率と階調の広さに驚き

ミクーチさんの言う通り、ただカメラを4K撮影用のものに変えれば4K放送ができるようになる……、ということではない。24時間通じてピュア4Kのライブ放送を行っていくためには、副調整室のほかに、生放送を監視するマスターコントロールルーム、番組宣伝用やインサート用などの映像を作る編集室、そして収録用スタジオなど、ありとあらゆる放送設備を刷新しなければならない。現在、QVCスクエアでは4K放送開始に向けた準備が急ピッチで進められており、この日は完成前のその一部を見学することができた。

今回の刷新では伝送システムも大きく変わる。解像度が4倍ということは送られる情報量も4倍ということになり、従来使っているSDIケーブルでは伝送に遅延が生じてしまうという。そのため、QVCではIP(インターネットプロトコル)を活用した最新の伝送システムに変更。ミクーチ氏は「これによって施設内で動画などをよりスムーズに伝送できるようになり、外部に対しても今後新たなプラットフォームが台頭してきた時にIPからIPヘすぐに転送することが可能になります。私が知る限り、この規格と設計でこうしたIPテクノロジーを使うのは当社が初めてなので、とてもエキサイティングで大きなチャンスだと思っています」と説明する。

 

その一方、2K用のライブコントロールルームや編集室の見学後には、テスト用のスタジオに置かれたモニターで実際の商品の2K映像と4K映像を比較。黒のワンピースを参考にして両者を見比べたが、実際に目にしてみるとその違いは一目瞭然。特に驚きは色の再現率と階調の違いで、同じ黒でありながら4K映像の方は滑らかな黒のグラデーションが感じられ、刺繍のディテールなどもはっきりと映っていた。また、併せて用意されていたフルーツも瑞々しさは歴然の違いだった。

バッグの鮮やかさは遠目でみても一目瞭然(左:4K、右:2K)
4Kテレビの画面を撮影した一枚。まるで本物のカバンの一部を捉えたようなリアリティだ

QVCジャパンでは8月下旬頃までにすべての設備を整え、12月1日の放送開始に備える予定。スタートを4ヶ月後に控え、内田氏は「これまでにないショッピング体験を提供していきたい」と意気込み、ミクーチ氏は「このプロジェクトで得た知識と経験を他の国のQVCにも生かしていきたい」と語る。果たして4Kの導入がテレビショッピングの常識をどう変えていくのか、放送開始を楽しみに待ちたい。

株式会社QVCジャパン

代表者:グレゴリー・ベルトーニ
設立:2000年6月
URL:https://qvc.jp/
住所:千葉県千葉市美浜区ひび野2丁目1番地1
概要:テレビショッピングを主体とした通信販売業