次代の介護業界を担う2人のリーダーが考える「ヘルパーショック」解決の糸口とは

株式会社ガネット

全国100か所以上で介護資格の専門スクール「日本総合福祉アカデミー」を運営する株式会社ガネットの藤田達也氏。大手介護系企業で副社長などを務めた後、現在はコンサルタントとして活躍する傍ら、2年前に立ち上げた一般社団法人全国介護事業者連盟で専務理事を務める斉藤正行氏。今回は介護業界の次世代を担う二人のリーダーの対談をお届けする。それぞれが現在取り組む事業や目下の課題。そして超高齢社会がもたらす「ヘルパーショック」に対する思いや介護業界の未来について、ざっくばらんに語っていただいた。

PROFILE

  • 株式会社ガネット 代表取締役社長  藤田達也

    株式会社ガネット 代表取締役社長 藤田達也 1976年生まれ。2000年、大学卒業後、人材コンサルティング企業に入社。2004年に取締役営業本部長に就任すると同時に、関連企業のデジタルコンテンツ企業の代表取締役にも就任。2008年株式会社ガネットを設立し、採用コンサルティング事業と研修事業の2軸にて事業スタート。現在、関東、東海、関西地区を中心に、104校の教室拠点にて事業を展開している。

  • 一般社団法人全国介護事業者連盟 専務理事 斉藤正行

    一般社団法人全国介護事業者連盟 専務理事 斉藤正行 1978年生まれ。2000年大学卒業後、コンサルタント会社勤務を経て、2003年より介護業界に転身。大手介護事業者会社のマネジメントを2社経験した後、2013年に株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループを設立。2018年には法人種別・サービス種別の垣根を超えた介護事業者による横断的な連合会組織となる一般社団法人全国介護事業者連盟を設立し専務理事に就任。

法人の形やサービスの垣根を越えた横断的な全国組織を作り、現場の声をしっかり届ける

藤田氏
まずは二人の出会いについてのお話からです。斉藤さんと初めてお会いしたのは、今から7年くらい前のことになります。当時は前職の会社でデイサービスの運営に携わられていて、既に業界内で有名な方でした。その頃、私は「学校機能構築プロジェクト」を立ち上げようとマーケティング活動をしていた頃で、当社の株主を介してお会いして、事業展開などについていろいろなアドバイスをいただいたのが今に至るきっかけです。

斉藤氏
その頃は、前職の企業で副社長として働く傍ら、私も今と別の業界団体を立ち上げて活動を始めたところでした。藤田さんは当時からビジョンがしっかりされていて、コンサル時代に培われた高いコミュニケーションスキルを感じる方でした。それから何度かお会いするうちに事業を着々と拡大されていて、藤田さんご自身も業界の中で揉まれながら大きくなられた印象を持ちました。そこから一緒にいろんな取り組みをしていこうということになって、3年ほど前から定期的に意見交換をさせてもらっています。

藤田氏
斉藤さんには弊社のエグゼクティブアドバイザー的な立場として、月に一度、ミーティングの場を設けて様々なアドバイスを頂いています。今はコンサルタント、経営者など様々な顔をお持ちですが、その中で2年前には一般社団法人全国介護事業者連盟を設立し、専務理事を務められています。私もよく存じ上げている組織ですが、そもそもこの連盟はどういう思いのもとで立ち上げた組織なのか、改めて教えていただけますか。

斉藤氏
全国介護事業者連盟は「介護の産業化」と「生産性の向上」をテーマに、私たちが長年抱えてきた問題の解決のために結成した組織です。私は2003年から介護業界に身を置き、介護事業所の運営やマネジメントに関わってきました。そして、その中で強く感じてきたのが、介護保険の制度が事業者の経営に与えるインパクトです。2000年に始まった介護保険制度は3年ごとに制度と報酬の見直しが行われてきましたが、その変更が事業に与える影響があまりにも大きい。例えば、全国で800カ所以上のデイサービス施設を運営している私の前職の会社だと、保険の報酬が変わる度に、年間で億単位の利益の差が生まれていました。現場を知る人間としては、ルールの改正に事業者の意見が反映されていないと常々感じ、意見を提起していかなればならないと考えてきました。

藤田氏
全体を変えるには、やはり制度の面から根本的に変えていかなければならないということですね。
斉藤氏
そうですね。介護保険のルールというのは社会保障審議会の介護保険部会で話し合われ、介護報酬については同じ審議会の給付費分科会で議論されます。ただ、そのメンバーの顔ぶれを見ると、半分くらいが医療関係の方々で、他の3割くらいが経済団体や労働団体の方々。それに対して介護関係者は2割くらいしかいません。こういうところに介護の現場の声が届かない背景があるんだろうと。その上で、これらの業界関係者と関係省庁、法律を作る政治家の方々の三者の構造によって議論が行われるのですが、介護業界の場合は業界関係者の発言力・発信力というのが大変弱い状況にあるのです。

藤田氏
これまでも介護業界にはたくさんの業界団体が作られてきましたが、そうした声は挙がってこなかったのでしょうか?

斉藤氏
もちろん業界内では10年、20年と叫ばれ続けてきた課題でした。ただ、介護業界は法人格からして社会福祉法人や医療法人、株式会社と組織ごとにルールも利害も異なり、特養やグループホーム、訪問介護など業態の形も様々です。それに合わせて業界団体も細分化されすぎてしまい、ひとつひとつの声が小さすぎて届かないという状態でした。全国介護事業者連盟がやっているのは、そうした法人の形やサービスの垣根を越えた横断的な組織の中で意見をまとめ、ひとつの大きな声を政府に届けていこうという取り組みです。

藤田氏
異業種から介護業界に関わるようになった私も、社会福祉法人と株式会社では収益の取り方にしても事業の広げ方にしても、考え方に大きな違いがあると最初の頃から感じてきました。それでも両者の目的には通じるところもあると思うので、大きな意見を提言していくことは非常に大事ですね。それにしてもスタートからわずか2年で、かなり大きな組織になりましたね。

斉藤氏
足掛け5年ほどかけて一昨年の夏に立ち上げを果たし、今では全国で約700社6300事業所に加盟いただいている組織になりました。去年は北海道、関東、東海、関西に支部を作り、徐々に土壌が固まりつつあり、来年までに加盟事業者数を2万件に伸ばしていくのが目標です。ただ、組織を大きくすればいいというわけではなく、同じ価値観を共有できるメンバーと同じ目標を見ながら進んでいくことが大切だと思っています。我々は自分たちの利権を誘導したい団体ではありません。私含めて我々のメンバーの中心は40代。いわゆる責任世代と呼ばれる年代です。自分たち自身のことを考えても、これから高齢化がますます進行していく中で、社会保障費を抑制していかなければなりません。その上で、介護保険の点数だけを上げてほしいと訴えるのは、事業者としては利益かもしれませんが、社会全体で見たら悪者と捉えられかねない。今はそういうことが正しい時代ではないので、いかに生産性をきちんと向上させ、精度の持続性を担保していくかと言う視点で、イノベーティブな発想による改革を提案していきたいと考えています。

藤田氏
さらに将来的な構想についても教えていただけますか。

斉藤氏
中長期的には3つの目標を掲げています。1つ目は、組織を拡大させて5年以内に全国47都道府県に支部を置くこと。2つ目は課題やサービスごとに各委員会を作り、現場視点の声を全体の意見としてとりまとめていくこと。そして、3つ目はその意見をしっかりと国に届けていくために国会議員や厚労省の方々としっかり意見交換していくこと。この3つを徹底していきます。

数と質、両方の課題を解決する「学校機能構築プロジェクト」

藤田氏
今ではどこの事業者も人材難の問題を抱えていて、別の業界でも働き盛りの方々が親の介護のために会社を辞めなければならない、いわゆる介護離職の問題が顕在化しています。そうした介護人材不足が巻き起こす生産性の低下を我々は「ヘルパーショック」と呼んでいるのですが、広い見識のある斉藤さんは、こうした現状についてどんなお考えをお持ちでしょうか。

斉藤氏
今や間違いなく介護問題によって社会の構造全体が大きく変わり始めています。働き方改革だけをとっても、単純な仕事のあり方を見直そうとか、ブラック企業を無くしていこうとか、そういう見られ方をされがちなんですが、それだけではなくて日本の人口構造が急激な高齢化を迎えているということも関わっている。更に今後30年間で高齢化率が40%を超えるまで伸びる中で、これまで三人の現役世代で一人の高齢者を支えていたのが、一人で一人の高齢者を支えていかなればならないような状況が生まれるわけです。そう考えると、20年前の方々に比べると今の我々は3倍の成果を出していかないと社会が持たない。

藤田氏
3倍の成果、つまりそれは個人の生産性向上のところに通じると思いますが、私たちの「学校機能構築プロジェクト」は、介護施設や病院の空きスペースの中に「日本総合福祉アカデミー」を設置して介護職員の方々のスキルを上げることにフォーカスを当てています。外国人人材の活躍等に期待しても介護職員を100万人増やすというのはなかなか難しいと思いますから、生産性含めた職員の質を上げることを目的としています。

斉藤氏
「学校機能構築プロジェクト」は本当に時代に即した事業モデルです。介護業界の人材不足を変えていくためには、当然まずは介護で働く人を増やしていかなければならないということがあります。ただ、その一方で、入ってもらった方々にできるだけ長く勤めてもらわなければなりません。そのためには個々の人材を育てて、より質の高い仕事が与えられる環境の中で高いモチベーションを維持してもらうことが大切です。つまり数の部分と質の部分は両輪なので、たとえ人が入ってきても、質を上げる教育がなければ、せっかく獲得した人材を簡単に手放すことになりかねません。同じように、これからは外国人の方々のほか、短時間労働の方やアクティブシニアの方など、いろんなバックボーンを持つ未経験者に入ってきてもらわなければなりません。しかしながら、介護というのは専門性が高い仕事なので、きちんとした教育や指導がなければ、ただでさえ今でも辞める人が多いと言われる職業が、さらに離職率の高い状況になってしまいます。御社はその課題解決につながるような事業展開をされていますし、だからこそ、これだけ一気に拡大が図れているのでしょう。
藤田氏
ここまで来られたのも斉藤さんの貴重なアドバイスのおかげです。とりわけ、私たちの学校が置かれているのは、都市から車で1時間以上離れたような施設が中心で、そうした地域は学ぶ環境が乏しかったりするので、空きスペースを有効活用して学校を作ることで生涯学習を発起することができます。運営は我々がアウトソーシングで担うので、施設側もより少ない負担で学ぶ環境を整えられるのが大きなメリットです。

斉藤氏
ミクロな視点で見ても、ひとつひとつの会社の事業戦略に大きな解決策がもたらせると思います。都市部の介護事業者の有効求人倍率が10倍を超えているような状況で、企業は本当に人が採用できない。そして、採用しても教育やマネジメントができないので、離職率が高いままになっている。そうした悩みを持つ事業者が、御社のプログラムを取り入れることで、職員の教育にもつながるし、自社のPRにもなって採用戦略に生きてくるはずです。

藤田氏
実際の成果として、私たちの学校を設置している全事業者様から取ったアンケートによると、講習を受講した職員の92%が定着しているという結果が出ています。また、再就職のために学び直したいという方や介護を学びたいという若い方々が私たちの学校に通い、そのままその施設に就職している例もあって、学校があること自体が雇用問題の解決につながるケースも出てきています。さらに、学校の取り組みを地域メディアに取り上げてもらい、介護施設が人材教育もバックアップしているということの認知がPRにつながっている例もあり、企業のブランド戦略にも活かされていてます。

斉藤氏
先ほども述べたように、介護業界というのは様々な種別があって、それぞれの経営者の課題やニーズが違います。もっと細かく見ていくと、社会福祉法人も株式会社もそれぞれ何パターンか分かれています。同じ商材の提案をするにも相手の経営課題に応じた提案をしていかなければならないですから、そのあたりは我々の連盟とも連携していただいて、一緒に課題解決に取り組んでいきたいです。また、今後はICT化やロボットの活用などを含めて、事業者自身の生産性を高めていかなければならないので、介護職員のスキルアップをサポートする現在の事業の先で、さらに一緒に取り組んでいける課題があると感じています。

藤田氏
そうした点では業務改善のプラットフォームになるようなシステムの開発に力を入れています。現状、受講生向けの教育プログラムがオンライン上で完了するシステムはリリースできていますが、今後これをどのように横展開できるかが課題です。まずは人材のデータベースを作って、一人一人の社員がどれくらいの経験年数で、どういうスキルを持っているかがシステム上で管理できるだけでも、今までにない便利さを提供できるはずです。そうしたことを通じて、介護産業の生産性向上に一層尽くしていきたいと思います。今後も斉藤さんと様々な取り組みができたら光栄です。

2020年3月2日

株式会社ガネット

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