失敗体験を忘れず、成功体験を捨て続ける

株式会社ストライプインターナショナル

代表取締役社長 兼 最高経営責任者(CEO) / 石川 康晴

わずか4坪のセレクトショップから、国内外に約1,400店舗を展開するグローバルSPA(製造小売業)へ。そんなストライプインターナショナルを牽引するのが、代表の石川康晴氏である。自身を“黒潮のマグロ”にたとえ、変化を続ける同氏。どうやって自己変革を遂げたのか? なぜ走り続けるのか? トップリーダーの実像にせまる。

PROFILE

代表プロフィール

1970年12月15日岡山市生まれ。岡山大学経済学部卒。京都大学大学院経営学修士(MBA)。94年、23歳で創業。95年クロスカンパニー(現ストライプインターナショナル)を設立。99年に「earth music&ecology」を立ち上げ、SPA(製造小売業)を本格開始。現在30以上のブランドを展開し、グループ売上高は1,300億円、グループ従業員数は6,000名を超える。中国、台湾、ベトナム、インドネシアなど海外各国への進出も強化しており、国内外の店舗数は1,400店まで拡大。ファッションのサブスクリプションサービス「メチャカリ」や、ECデパートメント「STRIPE DEPARTMENT」、ホテル併設型グローバル旗艦店「hotel koe tokyo」など、最新テクノロジーを駆使したプラットフォーム事業・ライフスタイル事業にも注力。公益財団法人 石川文化振興財団の理事長や、現代アートの大型国際展覧会「岡山芸術交流」の総合プロデューサーも務め、地元岡山の文化交流・経済振興にも取り組んでいる。

「自分が正しい」から「世間は正しい」へ

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―御社は変化を続けながら成長をとげています。これまでに起こした最大の革新はなんですか?


創業5年目の大転換ですね。従来の「セレクトショップ」「高価格」「パンク」というコンセプトから、「SPA」「低価格」「ナチュラル」へと180度変わりました。


前年までは順風満帆だったんですよ。23歳で岡山市に4坪のセレクトショップを開いて、短期間で10坪に増床。パンクでモードな商品と丁寧な接客が評判を呼び、売上が倍々に伸びていきました。4年目には4店舗をかまえ、過去最高益を記録しました。


でも、5年目に客足が途絶えて、赤字に転落したんです。14人いた社員も次々と辞めていき、たった3人に。ほとんどの協力工場から取引を中止されました。悩みましたね。そんなときに松下幸之助さんの著書『商売心得帖』を読み返し、あるメッセージが胸に刺さりました。それは「世間は正しい」という言葉です。


それまでは「自分が正しい。世間が間違っている」と確信していました。それくらいの熱量がなかったら、起業なんてできません。だけど、お客さん、従業員、取引先という‟世間”から見放されて、考えを改めたんです。自分ではなく、世間が正しい。なんとしても、残ってくれた社員だけは守ろうって。


では、生き残るためになにをすべきか? 発想を逆転させ、従来のコンセプトをすべて否定しました。つまり、高価格から低価格へ。パンクでモードから、ナチュラルでベーシックへ。そして、セレクトショップからSPAへと大転換したのです。

5年目の倒産危機を経て、3~4年ごとに路線を転換

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―急激に路線を変えて、うまくいったんですか?


じつは希望の光もあったんです。創業2年目にお店のオリジナルTシャツをつくったところ、けっこう売れまして。自社製品の粗利率は高いので、赤字を抜け出せるかもしれない…。それで好きなセレクトショップを捨てて、自社ブランド「earth music&ecology」の1号店をオープンしました。


そこは岡山市のファッションビル。施設側と交渉して、お店の開店を夕方5時にさせてもらいました。その理由は、ターゲットである高校生に最初の商品をさわってもらいたかったから。離れていった顧客層に対して、真っ先に届けたかったんです。そして、開店初日。500人もの行列がビルを取り囲み、女子高生のお客さんが戻ってきてくれました。もう感謝感激ですよ。


そこから、業績はV字回復。以来、3~4年ごとに路線転換をする会社になりました。たとえば、ファッションビルから駅ビルへと出店戦略を変え、ジャケットやワンピースなどの通勤着を販売。その次は大型ショッピングセンター、ロードサイドへ出店し、自社商品のネット通販も始めました。


そして今年、約800の他社ブランドを扱うECマーケットプレイスを立ち上げました。ベトナム、中国、台湾など、海外への店舗展開も進めています。さらに、中古品販売やファッションレンタルサービスなど、新たなビジネスモデルを構築。最近、ホテル業も始めました。こういった路線転換は当社の伝統になりつつあります。


―創業期の苦い経験から、「成功パターンを捨てる」というスピリットが生まれたわけですね。


そうですね。あのままセレクトショップを続けていたら、倒産していたでしょう。でも、自分だけじゃ変えられなかった。残ってくれた社員のおかげで、思い切って変えられたんです。いま振り返っても奇跡的なので、ずっと危機感を抱いてますね。「本当にこのままでいいのか? 変わらないと、潰れるんじゃないか?」って。これからも僕が先頭に立って、変わり続ける覚悟です。

故郷への恩返し。顧客が誇れる企業でありたい

 (2624)

―創業から現在まで、ストライプインターナショナルは岡山に本社を置いています。なぜ東京へ移さないのですか?


僕は岡山で生まれ育ち、岡山で起業しました。だから、故郷への恩返しです。特に、創業期にお世話になった方々には感謝してもしきれません。1年目の売上は1日7000円~8000円、お客さんは1人か2人でしたから。


いまでも忘れられない出来事があります。僕が接客をしていたとき、お客さんがフランス製の高級ジャケットの不良に気づいたんです。裏地をよく見ると、タバコの灰の穴が空いている。でも「お兄さんが倒れそうだから買うよ」と言ってれて…。当時の僕はガリガリで真っ白な顔。つぶれそうなお店だと思って、助けてくれたんでしょう。


新品の汚れを気にせず、3年間で100万円分くらい買ってくれた人もいます。当時はパトロンのように応援してくれたお客さんがたくさんいました。あのころ高校生だった彼女たちも、いまや40代。子どもや友だちに「昔、石川さんから服を買ったんだ」と自慢してくれているかもしれません。だから、地元企業として成長することが恩返しになると考えています。


もちろん、納税や雇用という経済的な貢献も意図してますよ。東京にはウチくらいの規模の会社がザラにあるけれど、岡山には少ないので。

”いいこと”をすれば、売上はついてくる

Ryan Gander, Because Editor...

Ryan Gander, Because Editorial is Costly, 2016 © Okayama Art Summit 2016 / Photo: Yasushi Ichikawa

岡山芸術交流2016では街中に現代アートが展示された
―リーダーとして走り続ける理由を聞かせてください。


いいことをするためです。悪いことをして、儲けたくはありません。世界、日本、地域、社会、業界など、なにかにとって‟いいこと”ならば、僕は24時間365日走れます。


たとえば、2016年から「岡山芸術交流」という現代アート国際展の総合プロデュースを行っています。個人としても1億円持ち出し、約1ヵ月分の時間を投入。そこまで力を入れるのは、岡山にとって“いいこと”だから。街中に現代アートを展示することで観光客が集まり、子どもたちにも刺激を与えるでしょう。


世界にとって‟いいこと”としては「フェアサプライチェーン」を大切にしています。これは高品質な商品を適切な環境でつくる生産活動のこと。「児童労働を使わない」「産業公害を出さない」「長時間労働をさせない」というポリシーを徹底しています。


業界にとって‟いいこと”は、革新的なサービスやプロダクトを生み出すことです。ECデパートメント「STRIPE DEPARTMENT」やファッションサブスクリプションサービス「メチャカリ」など、ECプラットフォームやレンタルサービスをはじめ、苦戦中のアパレル業界に刺激を与えていきたい。これからも当社は‟いいこと”を柱にしながら、ビジネスを展開していきます。そうすれば、結果的に売り上げにも結びついてくるでしょう。

優秀な経営者の長所をパッチワークしたい

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―最後に「尊敬するリーダー」を教えてもらえますか。


特定の理想像はありません。でも‟パッチワーク”のように、それぞれの長所を組み合わせたい経営者はたくさんいます。


たとえば、ソフトバンクの孫正義さん。彼のアントレプレナーシップ(起業家精神)はすばらしい。長期的かつグローバルな視点をもち、ものすごいリスクをとって突き進んでいます。同じく、ファーストリテイリングの柳井正さん。メッセージが明快で、人事も大胆です。なにより、どの地域でも売れる「ユニクロ」の黄金モデルをつくりました。


日本電産の永守重信さんも好きですね。シナジーを見込める会社と粘り強く交渉して、長期間かけてグループ化している。実際にお話しすると、カッコつけないところも魅力です。メルカリのツートップである山田進太郎さんと小泉文明さんは、優秀な人材を集める手腕に驚嘆します。


さらに、ZOZOの前澤友作さん。アパレルECプラットフォームの先駆者です。彼はコレと決めたらやりぬく一方、間違えたと判断したら、すぐやめる。アートをリスペクトして、メセナ活動に熱心な点も共感します。サイバーエージェントの藤田晋さんもスゴい。「AbemaTV」なんて、底なしの投資で勝負をかけてますよね。


若手では、オリガミ(Origami)の康井義貴くん。フィンテックを武器に、岩盤規制を突き破ろうとしています。金融庁と対峙する決意がすばらしい。海外では、アリババのジャック・マー。「農村部を豊かにする」というメッセージにしびれました。


いま名前をあげたのは、ほんの一部です。ほかにも千人くらいの経営者をベンチマークしています。そして、僕の‟背骨”になっているのが松下幸之助さん。ビジネスの基本や人生哲学を学びました。100年後に著書を読み直しても、内容の半分は正しいと思いますよ。
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Leaders Item

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石川氏がデザインした初のオリジナル商品。創業2年目から半年ごとに新商品を制作し、自身の接客時に着用した(ボトムスは赤く染めた「Levi’s」のデニムなど)。SPAの原点であり、創業5年目の経営危機を救う萌芽となる。
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BUSINESS

事業内容

レディス・メンズ・キッズカジュアルウェアの企画・製造・販売・卸、カフェショップ(飲食事業)

COMPANY

会社情報

設立: 1995年2月
資本金:1億円
従業員(ストライプグループ):6,754人(2018年1月末時点)
売上高(連結):1,330億円(2017年度)