アナログでもデジタルでも「シヤチハタ」を

シヤチハタ株式会社

代表取締役社長 / 舟橋 正剛

朱肉がいらない印鑑として、オフィスでも家庭でも誰もが便利に使っているのが、シャチハタ株式会社製のインク浸透印である「シヤチハタ」。アナログからデジタル、ペーパーレス時代を迎えつつある今日、そして将来「シヤチハタ」はどう使われていくのか。同社の舟橋正剛代表取締役社長に話を伺った。

PROFILE

代表プロフィール

1965年愛知県生まれ。92年米国リンチバーグ大学(バージニア州)経営大学院修士課程修了。93年電通入社。97年シヤチハタ工業入社。2006年から現職。 1925年(大正14年)に名古屋で創業した前身の舟橋商会が、出身地のシンボルである名古屋城のシャチホコと旗を組み合わせた「鯱旗印(しやちはたじるし)」を登録商標としたことで、「シヤチハタ」のブランド名が誕生した。父親の紳吉郎氏の跡を継ぐ形で正剛氏が社長となっている。ビジネス、経営者として影響を受けたのが、故松下幸之助氏の秘書で、元PHP研究所社長、元参院議員の江口克彦氏の著書「松翁論語(松下幸之助 述、江口克彦 記)」。同氏には、現在2ヶ月に一度の割合で、経営をテーマとした指南を受けているという。

米国、電通で学んだこと

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シヤチハタに入る前、米国バージニア州にあるリンチバーグ大学に留学してMBA(経営学修士)を取得し、その後電通に入社しました。バージニア州を選んだのは、ロサンゼルスとニュージャージーに会社があるので、そこに近くなく、なるべく日本人がいない所という2つの理由からです。そうじゃないと絶対に遊んじゃうでしょう(笑)。


さすがに最初の1年間は、授業も8割方聞き取れず、生活もままならない状態で苦労しましたが、ある時「聞けるな、今日」という日があって、そこから拓けてきました。結局4年間一度も日本に帰りませんでした。勉強の内容自体は社会に出てみると、「基礎の基礎」というもので武器にはなっていませんが、頑張ればなんとかなるという自信がついたのが米国生活で学んだことです。


電通ではプロモーション局(当時)に配属されました。仕事は体育会の延長線上のようなものでした。毎日営業しながら企画して、プレゼンしての繰り返しでした。厳しいながらも非常に温かい職場環境でした。例えば、プレゼンが通らなくて落ち込んでいる時、フッとその内容が通ったことがありました。嬉しくて会社に戻ってあちこちに話を聞くと、数日後に上司が根回しをしてくれていたことがわかったのです。


そうなると、この上司のために、この人に褒められたいから、認められたいからやる!という気持ちが出てきました。人とのつながりや教育のあり方、モチベーションの上げ方を教えていただきました。その人とは今でも年3~4回お会いしています。

デジタルでも「シヤチハタが欲しい」と言わせたい

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電通時代から、いつ会社に戻れ…という指示はありませんでした。ああしろ、こうしろと制約がなかった点は、父(舟橋 紳吉郎氏)に感謝しています。シヤチハタに入って常務、副社長の時も自由にやらせてもらったので、社長になったから何か変わった点は?と、聞かれても具体的にはないです。シヤチハタは50年前に出した商品(Xスタンパー)がいまだに定番商品で主力商品です。


ゴムにインキを染み込ませて、紙の上に適量を捺印できる構造というのは、祖父の高次のもと、開発メンバーで考案した技術です。大阪万博(1970年)をきっかけに、その便利さを認められ、職場や家庭に一本ずつ買っていただいたようです。当然、中の構造や技術は改良していますが、消費者からみれば一緒です。


50年前に創り出した技術の商品がいまだに売上の主力をなしているのは、文具メーカーや他業種から見ても、極めて稀なことです。今も先輩方とお客様に食べさせてもらっているという意識はあります。とはいえ、10年、20年先の世の中は、今までよりも明らかに不透明です。うちの商品がどうなっているのか全然想像がつかない、という怖さがあります。そこをある程度予測しつつ、デジタルとアナログを融合させ、舵取りをしていきたいと思っています。


デジタルになっても、日本の中では書類の右上に朱色の印影がある。「デジタル上でもシヤチハタが欲しいな」と言われるようになるべき、という思いは非常に強いです。そのため、開発したのが電子印鑑システムの「パソコン決裁」と呼ばれるものです。
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今ではパソコン、タブレット、スマホなどあらゆるデバイスで、OSもなんでもよし、サーバーも立てることなくクラウド上に置いて、一回いくらでなく何回使っても月額百円からという売り方で試しています。


今までのアプローチは企業や官公庁や政府に対して商品を買ってください、というものでした。デジタルになるとその基幹システムは「IT企業」が製作するわけで、それを我々が担うことはありません。


そこの中で我々の決裁システムや稟議システムに、今までシャチハタ製の認印やネーム印を使っていただいたワークフローとして「やっぱりシヤチハタ」「シヤチハタ入れとかないとダメだよ」と言われるような流れにしておく必要があり、そこをうまくやっていきたいのです。

B to BからB to Cへ

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2008年のリーマンショックあたりから、企業の事務消耗品の買い方が変わってきたという認識があります。それまでは新入社員が会社に入ると、机の上にはボールペンと定規と計算機、ネーム印とノートなどが支給されていたのですが、その頃から文具消耗品は自分で選ぶ・買う、という自由度が進みました。


個人買いがオフィス内にも進むと、B to Bではそれに対応する商品を我々は持っていない、ということに気づかされました。そして、ビジネス上で便利で楽しく使えるもの以外にも、子供が楽しく使えるもの、親が子供のために便利に使えるもの、高齢化に対応してシルバー層が楽しく便利に使えるもの、シルバー層を介護する方が便利に使えるもの、といったテーマで、B to Cの商品を作っていこうと決めました。


例えば子供分野では「知育玩具」というものが出てきました。2014年の「エポンテ」シリーズがそれで、丸、三角、四角のシンプルな形状で、力を加えればカタチが変わるスタンプです。ただし、知育は難しい。安いと信憑性がなく、高すぎてもダメ。確固とした知育の塾や会社とコラボして使っていただくという流れがないとダメで、単独では難しいことがわかりました。


デザインコンペも同様で、2008年までやっていたのを10年ぶりに復活させました。中断していた理由は、いろんなアイデアに対して消化不良を起こしていたせいです。一度全てを棚卸しして消化してみると、休んでいるときに出た商品のアイデアが受賞作品と被っているものがありました。その結果やはり継続的にやるべきだとの意が強まり、再度お声掛けした審査員の先生方にも「待ってました」と言われました。

プロダクトアウトからマーケットインを目指して

2025年には、シヤチハタは100周年を迎えます。デジタルソリューションについては先にお話ししましたが、10年、20年先はこうなんだと言い切れないところがあります。ITソフトの会社が競合になるのではなく、一緒にやるにはどうあるべきか、違う業界とどうアライアンスを組んで行くのが将来的にベストなのか、という考え方をしているつもりです。


また、外からみると、変わらずネーム印やスタンパーを作っている会社、それがシヤチハタです。その材料であるゴムやインキを駆使しながら、新しい分野もやっていきたいと考えています。


例えば認証技術といったもの。具体的には、同じ製品についてはバーコードやJANコード、QRコードやホログラムなどをつけないと認証できませんが、我々が開発した認証システムを使えば、見た目が全て同じであるにも関わらず、個別に認証ができるのです。少ない投資で、安価に使うことができます。


ただ、個別認証というニーズがどこにあるのか。まだプロダクトアウトの状態で、マーケットインになっていません。そういったものも、今後マーケットに訴求、提案して行くつもりです。

Leaders ITEM

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「仕事柄、社員はみんなハンコ好き。押す回数は普通の会社より多いかもしれません」と社長。通常の楷書体の物だけでなく、篆書体や古印体など、こだわったハンコを使う社員が多く、女性社員の中にも可愛いものを使用する人も。社長印は名古屋のデスク上においてあり、書体は少し変わった「手書き風」のモノとのことだ。
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BUSINESS

事業内容

事務用品製造業
【主要取扱製品】・シヤチハタ・Xスタンパー・ネームペン・アートライン・オピニ(女性向けステーショナリーシリーズ)・タート(特殊インキ)・電子印鑑システム「パソコン決裁」シリーズ

【関連会社】・シヤチハタテクノ株式会社(製造部門)
・シヤチハタビジネスアンドカスタマーサポート株式会社(受注及びグループのシェアードサービス)
・海外生産及び販売拠点:全5ヶ国・6ヶ所(アメリカ・マレーシア・イギリス・インド・中国)

COMPANY

会社情報

 設立:1941年09月
資本金:100百万円
従業員: 363名
売上高:17,900百万円