海外で挑戦する日本人を100万人増やす

株式会社ホワイトホール

代表取締役 / 白井 良

‟アジアのシリコンバレー”と称される中国広東省の経済特区・深セン。この先端都市にいち早く注目し、快進撃を続ける日本のベンチャーがある。深センを中心に視察ツアーやビジネスコンサルティングなどを行うホワイトホールだ。同社は現地ベンチャーとのネットワークを活かし、日本企業の提携・出資・M&Aなどをサポート。インドやベトナムにも展開しながら、日本でのIPOを視野に入れている。これまでの苦労も含めて、代表の白井良氏に話を聞いた。

PROFILE

代表プロフィール

1980年、新潟県生まれ。北京語言大学卒業、大和証券株式会社に入社。2005年、旅行で訪れた深センの街に衝撃を受ける。2006年に株式会社ホワイトホールを設立し、深センに事務所を開設。個人輸入代行サービス、中国ビジネスコンサルティングなどを手がける。2016年に現地の経済情報を発信するWebメディアを立ち上げ、2017年にビジネス視察ツアーを開始。現在はアジア3ヵ国に拠点を展開し、さらなる拡大を続けている。

日本企業と現地企業の提携・出資・M&Aなどをサポート

 (2365)

―中国ビジネスのコンサルティング、視察ツアー、Webメディアなど、御社は多様な事業を展開しています。現在の主力サービスを教えてください。

売上の柱は視察ツアーですが、注力していくのは「越境アクセラレータープログラム」です。これは半年から1年をかけて、日本企業と現地企業の提携・出資・M&Aなどを支援するサービス。コンサルティングとアクセラレーションを融合した独自プログラムです。

いわば、私たちはコンシェルジュですね。顧客企業と定期的な戦略会議を行い、KPI設定から計画立案、資料作成、現地での活動、レポーティングなどを支援します。そして、メディア運営で培ったベンチャー企業のネットワークを活用し、国や業種の壁を越えたマッチングの機会を提供。すでに成功事例も出ています。

―他のコンサルティング会社と比較して、ホワイトホールの強みはなんですか?

現地に根差して、ローカライズしていることです。海外拠点は深セン(中国)、バンガロール(インド)、ダナン(ベトナム)の3ヵ所。社外のスペシャリストも含めて、各国に優秀な人材をそろえています。現地の文化やビジネスに精通しているので、適切なマッチングが可能です。

現在の活動は深センが中心ですが、今後はアジア全域に広げていく予定です。主要都市の視察ツアーをもっと増やして、各国で現地ベンチャーのデータベースを蓄積したい。いずれは、ファンド組成といった投資事業もできるでしょう。

まだ当社と同じビジネスモデルの日本企業はありません。今年3月にベクトルの出資を受けたので、これから急拡大させるフェーズです。情報配信・現地視察・マッチングを3本柱にして、2023年の株式上場をめざしています。

混沌とした深センの街に常識を壊された

 (2366)

―深センの急速な発展にともない、御社の注目度が高まっています。白井さんが起業した経緯を教えてください。

もともと私は大手証券会社に勤めていました。そこは典型的な日本型組織。上下関係が厳しく、箸の上げ下ろしまで注意されるような指導に息苦しさを感じていました。その後、仕事のトラブルも重なり、ストレスでじんましんが出るように。このままじゃ身がもたないと思いましたね。

そんなとき、勉強も兼ねて香港へ旅行。中国本土の深センへ足を延ばしたところ、衝撃を受けたんです。頭蓋骨が陥没しているおじさん、汚れで真っ黒になった服を着たおばさん、花を買ってくれと足にしがみつく子ども…。2005年当時、街には殺伐とした光景が広がっていました。すると不思議なことに、次第にリラックスしていきました。

それまでの私は世間や会社の常識に縛られて、苦しんでいた。でも、その常識を深センでぶっ壊されて、エネルギーが湧いてきたんです。「このカオスの中で挑戦したい!」と決意し、辞表を提出。翌年、25歳で当社を設立しました。

―転職は考えなかったのですか?

ええ。海外ビジネスをやってみたかったし、趣味のバンド活動も続けたかった。やりたいことをすべてやるには、起業するしかありません。とはいえ、創業期は大変でしたよ。貯金を崩して事務所を借りたものの、肝心のサービスがない。深センの街を歩いて、商売の種を探しました。

―事業内容を決める前に会社を設立したのですね。

私は仮説立案から始めるのではなく、まずやってみるタイプ。だから、PDCAじゃなくて、DCAP(実行・評価・改善・計画)サイクルです。特に勝算もないまま、勢いで中国茶の輸出販売をスタートしました。

苦労してオリジナルブランドと通販サイトを立ち上げましたが、まったく売れませんでした。大企業の看板が外れたので、証券会社時代のお客さんも支援してくれない。中国産農産物に対する規制も強化され、いつしかノイローゼのような状態に。夜は資金が底をつく恐怖で寝つけず、朝は破産の悪夢で目が覚める。そんな日々が3ヵ月ほど続きました。

個人輸入代行で急成長するも、慢心と尖閣問題を契機に転落

 (2369)

―そんなピンチから、どうやって経営を立て直したのですか?

せっかく中国まで来たのに、このままじゃ終われません。日本人向けのサービスをたくさん考えて、なんでも引き受けようとしました。深センでの会社設立、商標の取得、銀行口座の開設代行、貿易のサポート…。「EZ-China」というWebサイトを徹夜で作り上げ、思いつくサービスをすべて載せたんです。これも無計画。ひらめきと悔しさを力にして、荒削りなサイトを立ち上げました。

すると、いくつか問い合わせが来まして。特に多かったのが個人輸入代行です。中国最大のECプラットフォーム「タオバオ」による仕入れ代行業に力を入れたところ、売上が飛躍的にアップしました。すぐに人手が足りなくなり、中国人スタッフを増やしました。

―やっと成功を手にしたわけですね。

そこで慢心しました。ビジネスモデルを構築したら、放っておいてもお金が入ってくる。現地のスタッフに業務を任せて、私は世界中を旅するようになりました。いちばん調子に乗っていたのは29歳の頃。ビジネスは楽勝だとカン違いして、日本で飲食業を始めたんです。運営は店長に丸投げ。赤字を垂れ流し、店をたたむ結果になりました。

そうこうしている内に、本業だった個人輸入代行も傾き始めて…。競合他社が増えて、シェアを奪われていったのです。さらに追い打ちをかけたのが尖閣諸島の問題。通関で顧客の貨物が没収されて、数千万円もの損害を賠償することになりました。左うちわの暮らしだったのに、気づいたらすっからかんですよ。

―当時は尖閣諸島問題の影響によって、多くの日本企業が中国から撤退しましたよね。

当社は個人輸入代行の他に、企業向けに中国進出のコンサルティングを行っていました。そのサービスも求められなくなり、一時は顧客がゼロに。周囲からは「怪しいコンサルティング会社」とからかわれ、親からも心配されるようになりました。この時期がどん底ですね。

利己から利他へ。参加者ひとりの視察ツアーに情熱を注ぐ

 (2372)

―起業から二度目の挫折。その後、復活を果たすまでの道のりを教えてください。

当時は身も心もボロボロでした。家庭をないがしろにしたせいで離婚したり、ストレスで逆流性食道炎になったり。自己中心的な振る舞いを続けた結果、罰が当たったと思いました。だから、ワラにもすがる思いでお寺に駆けこんで―。その日から毎日座禅を組むようにして、周囲に感謝の思いをもち、利己的な考え方を改めました。ここが人生の転機です。

とはいえ、すぐに業績が回復するわけではありません。数少ないコンサルティングやOEMの受託で食いつなぎ、耐え忍ぶ日々が続きました。そして2015年、ついに追い風が吹き始めます。ITや製造業の先端都市として、深センが注目を浴びるようになったんです。

そこで「深セン経済情報」というWebメディアを立ち上げ、深センの経済発展や最新テクノロジーなどの情報を毎日コツコツと発信。現地のベンチャー企業を取材して、独自のコミュニティを形成しました。そのネットワークを活かして、2017年にビジネス視察ツアーを始めたわけです。

―最初から参加者は集まったのですか?

ひとりだけ来てくれました。その方は大企業の技術者。深センの最先端技術にふれるため、自費で参加してくれたんです。本当にありがたかった。だから、私を含む4人のスタッフがつきそい、現地企業を何社も案内しました。そして熱意をこめて、ありったけの情報を提供したところ、深く感謝されまして。

うれしかったですね。このサービスは世のため、人のためになる。そう確信しました。その後、本格的に事業化したところ、参加者がうなぎのぼりで増加。いまでは年間100回もの視察・研修ツアーを開催し、約600社の日本企業に利用していただいています。もう「怪しいコンサルティング会社」という声は聞こえません。

行動と情熱こそ、天才の条件

 (2375)

―時流を捉えたベンチャーとして、信頼されるようになったわけですね。では今後のビジョンを聞かせてください。

歴史的に日本と中国は競争を続けてきました。しかし、これからは競争ではなく、‟共創”の時代です。日本のいいところは、技術、環境、人柄など。中国のいいところは、パッション、スピード、チャレンジ精神など。両国の長所を融合して、新しい価値を生み出したいですね。

さらに大きなビジョンとしては「人生300年時代のクリエイト」をめざしています。エネルギー、バイオ、ゲノム技術など、地球と人類の進化を創出するような活動に携わりたい。まずは越境アクセラレータープログラムを通じて、クロスボーダーで技術・資本・人材・情熱を最適化したいと考えています。

―技術や資本だけでなく、情熱まで最適化すると。

そこは私たちの特徴かもしれません。人の情熱やエネルギーによって、この世はできている―。何度も挫折と成功をくりかえし、そう実感しました。結局、いちばん大事なのはチャレンジなんです。PDCAではなく、DCAP。頭でっかちの日本人は、まず行動すべきですよ。

あえて挑発的に言えば、私は天才です。なぜなら、やりたいことを愚直にやれる天才だから。カッコ悪くても、失敗してもいい。そんな情熱をもち、世界で戦える日本人を10万人育てたいですね。

―中国は世界第2位の経済大国になりましたが、アメリカとの貿易摩擦などのリスクを抱えています。中国ビジネスに興味をもつ日本人に対して、メッセージをお願いします。

米中の覇権争いが危惧されていますが、実際にダメージを受けている業界はごく一部。むしろ、ファーウェイやZTEの問題が呼び水となり、半導体の生産を内製化する動きが進んでいます。すると、半導体分野でも日本の技術レベルを追い越す可能性があります。

だから、「トランプ対習近平」のような単純な構図に踊らされてはいけません。メディアの表面的な情報だけで判断せず、現地を訪れて深い情報を集めてください。外資の参入障壁が高いからこそ、中国には大きなチャンスがあります。

Leaders Item

 (2378)

母に渡された安全祈願のお守り。何度中国を訪れても無事に‟かえる”という願いがこめられている。「やりたいことをやらせてもらったので、親には感謝しかない。だから、日本でも中国でも肌身離さず持っています」と白井氏はほほえむ。
SHARE: Twitter Facebook Line

BUSINESS

事業内容

○中国ビジネスコンサルティング
・サプライチェーンマネジメント
・ブランディング
・進出、人事、会計、税務
・OEM生産サポート
・越境ECサポート
・市場調査、商標調査および申請
○BPO事業
・中国(台湾、香港)越境人材BPOサービス「chi-man」
○越境アクセラレーター
・日本×深セン(中国)オープンイノベーションサービス『BAKU-SOKU』
○ビジネス視察ツアー
・深セン、貴陽(中国)、バンガロール(インド)、ダナン(ベトナム)
○メディア事業
・Webメディア「深セン経済情報」の運営
https://whitehole.asia/
○モバイルペイメント代理業
・「WeChat Pay」「Alipay」決済の正規代理店

COMPANY

会社情報

所在地:東京都渋谷区代官山町20-23 TENOHA代官山 STYLE LAB
中国事務所:広東省深セン市羅湖区東門南路3001号天俊大厦3F 3E18
設立:2006年6月
web:https://www.whitehole.biz/