【2021年最新 転職市場調査】“一億総クリエイター”時代到来 クリエイティブツールスキルは、ビジネスパーソン必須の技能に
PROFILE
アドビ株式会社 マーケティング本部 バイスプレジデント 秋田夏実
東京大学経済学部卒業。1994年メガバンク入行。その後、米・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院にてMBA取得。帰国後、新生銀行、HSBC、シティバンク、マスターカード等を経て2017年アドビ入社。2018年、バイスプレジデントに就任。
株式会社マイナビ 執行役員・転職情報事業本部 副事業本部長 荻田泰夫
2006年にマイナビ入社。以来、企業の中途採用支援を行う。
その後、東京、近畿、東海エリアの営業統括部長を経て、2017年より総合転職情報サイト『マイナビ転職』の編集長へ就任。
2018年より、転職事業本部 副事業本部長。
法政大学 教授、一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事 田中研之
UC. Berkeley元客員研究員 University of Melbourne元客員研究員 日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学 /博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。
最新刊に『ビジトレ−今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』 日経ビジネス 日経STYLE他メディア多数連載 プログラム開発・新規事業開発を得意とする。著書25冊、社外顧問27社歴任。
スマートフォンやSNSの普及により、さまざまなアプリやツールが身近な存在になった。いまや写真加工・動画編集を手軽にこなし、情報発信する人は多い。
近年は採用市場においても「個人の創造性」や「クリエイティブツールを使用できるスキル」を重視する企業が増えている。営業や企画・事務などの非クリエイティブ職においても、少なからず求められているというのだ。そこに昨今の新型コロナウイルス感染症により新しい生活様式が生まれ、個人のライフスタイルや働き方にも大きな変化があったことで、これまで以上に「個人の能力やスキル」の汎用性に注目が集まっている。
現代社会において、クリエイティブツールスキルは、クリエイティブ職以外でどれほど求められているのか。また、クリエイティブツールスキルはキャリアの幅をどのように広げてくれるのか――。これらをテーマに、これからのキャリアアップの考え方、企業の人材の活かし方について、クリエイティブソフトウェアを開発する、アドビ株式会社 バイスプレジデント 秋田夏実氏、幅広い情報で転職支援を行うウェブサイト『マイナビ転職』 編集長 荻田泰夫氏、法政大学でキャリア論・組織論を専門に教鞭をとる田中研之輔教授が意見を交わした。
● 本記事内での、「クリエイティブツールスキル」は、デザインや画像・動画の編集などのプロレベルのスキルではなく、ソフトウェアを使って、簡単な写真・画像編集・加工、動画編集・作成、またイラスト作画・チラシやポスターのデザインなどができること を示しています。
● 本記事内での、「非クリエイティブ職」は、クリエイティブ職(※)を除く営業、企画・経営、管理・事務などの職種 を示しています。
(※ 本記事内における「クリエイティブ職」とは、「WEB・インターネット・ゲーム 」「クリエイティブ」「建築・土木・デザイン・設計」の職種)
コロナで変わったワークスタイルと就活前線
――企業にも学校にもリモート環境がずいぶん浸透しました。まずは皆さんの職場の状況をお聞かせください。
秋田氏
アドビは、昨年3月下旬から全社的にリモートワークをしています。当社は以前から、海外拠点とのコミュニケーション手段はオンラインでしたので、リモートワークへの移行はスムーズでした。
しかし、オンとオフの切り替えには、少し工夫を要しました。そこで、3週間に1度世界中のアドビ社員が同時に休む『グローバル・デイ・オフ(全社一斉特別休暇)』を設け、リフレッシュしやすい環境を整備しました。
このほか仲間とカジュアルに語り合えるオンライン飲み会、オンラインエクササイズなどの有志開催、モニターや椅子など仕事の効率を高める物品の購入支援をはじめ、リモートワークに関連するさまざまな施策を講じています。
荻田氏
マイナビは出社する社員が比較的多い状況です。特に営業職はお客様を訪問するため、たとえば週2はリモート、週3は出社といった運用になっています。
一方、編集部員はフレキシブルです。職種によってワークスタイルに違いが出ているのが実情です。
――田中教授からご覧になって、学生の就職活動への影響はいかがですか。
田中氏
コロナがもたらした変化は、ここ30年で一番大きいものだと感じています。企業同様、大学も適応しなければならない2年でした。
とはいえ、学生は適応に早く、柔軟です。就職活動でも「なんだ、オンラインで面接できるんだ」といった具合です。
これまでの就職活動は、都内の学生にとって有利な環境でした。インターンにしても面接にしてもすぐに企業に伺えますから。
けれども、オンラインがスタンダードになったことで、地方の学生も同じ条件下となりました。
これは、キャリア論の知見からすると大きな変化です。地域間格差が是正された点は、ポジティブにとらえています。
秋田氏
アドビも求職者との面談は、オンラインがメインになりました。その結果、地方はもとより海外在住の方の志願も増えました。
採用した方の中には、現時点で海外にお住まいの方もいます。
このように求職者側の選択肢は広がっていますし、我々もより多くの候補者とお会いできるようになりました。
これは双方にとってプラスであると感じます。
荻田氏
2年前までは、オンライン面接なんてあり得ないことでした。
しかし、現在はオンラインでつながれるようになったことに対し、ユーザーも企業も9割が「満足している」とする調査結果もあります。
なお、求職者の企業を選ぶ視点は変わりつつあります。コロナ対策は万全なのか、リモートワークは導入しているのか等は必ず聞く項目になっています。
さらには、サステナビリティなのか、社会にどう貢献していくのかなど、いわば「この会社は、社会的にどうなのか」という見方をしており、一般的な条件面を凌駕しつつあります。
こうした逆転現象が起きているいま、伝え方次第では採用する側の人事にチャンスがあると感じます。
コロナは、「キャリアを軸に、人生をどう生きていくのか」を問いかけた
――ワークスタイルの変化、人口構造の変化、さらには企業間競争の激化、国際化など、環境は変わり続けています。
田中教授は、学生をはじめとする若年世代の仕事観の変化をどう見ていますか。
田中氏
コロナ前からビジネスパーソンの軸が『組織内キャリア』から、自ら主体的にキャリアを形成していく『自律型キャリア』に変わっています。
35歳以下の人は、大学でキャリア教育を受けていることもあり、「自分のやりたいことをやる」「自分らしく働く」ことを働く価値に据えています。
一方、40代50代は組織内キャリアが前提なので、「会社に言われたことをやる」という考えです。
世代間にこうしたギャップが生まれていることは、外せないポイントです。
学生のなかには、企業にエントリーする前にインターンを行う者も多くいます。
彼らは、スピード感、規模感、アクション能力といった企業の変化対応力を見ています。
変化に強い企業は魅力的ですからね。転職を考えているポテンシャル組もしかりでしょう。
やはり、やらされ仕事で40年働けないとみんな思っています。
キャリアを軸に「自分がどう生きていきたいのかを考えたほうがいい」という気付きのあった2年です。
アクションは、これからもっと大きく変わっていくと思います。
――自分らしく働くことに焦点が当たるなか、ビジネスパーソンがキャリアアップしていくうえで、
転職以外にもいまの組織で活躍できる幅を広げていくことが考えられます。
後者の場合、具体的にどのようなスキルが求められていると感じられますか。
秋田氏
おりしも日本は、デジタル人材の確保・育成が急務です。
デジタル人材とは、「デジタル技術を駆使して新しい価値を提供する、加えることができる人材」と定義されています。
一方、企業によるSNSの活用の広まりから、クリエイティブツールスキルはビジネスパーソンにとって必然のスキルになってきたと感じます。
実際、クリエイティブ制作を内製に踏み切る企業も増えています。
たとえば、大塚商会では営業の方が活用する販促ツール動画を社内で制作するほか、新入社員のトレーニングにも用いています。
こうした時流を踏まえると、クリエイティブツールを使える人も、ある種デジタル人材と言えるでしょう。
クリエイティブツールスキルがあれば、さらなる活躍のチャンスをつかみ取れると考えます。
田中氏
仕事柄、企業のキャリアセッションに呼ばれることがありますが、そこで集客用のポスターを見かけることがあります。
担当の方に「外注したんですか?」と聞くと、「私が作りました」と返ってくるんですね。
社内イベントのためのポスター一枚を外注するのは非効率だからと、人事の方が自作しているわけです。
私は、告知一枚にもその企業のパワーが透かし見えている気がします。
いまの若い人は、イベントに行くか行かないかを直感的に判断しています。たった一枚であっても伝え方を雑にしない企業は強い。
かたや、10年前のフォーマットで作るところも……。この二極化は激しいと感じます。
伝える、届ける技能や、クリエイティブツールの使いこなしは必須のスキル。
学生にも受け手ではなく、作り手に回るよう指導しています。
「消えゆく働き方」から「残す働き方」に
――クリエイティブ制作の内製化は企業の強みになる、というお話が出ました。
実際、アドビとマイナビ転職が実施した「転職市場におけるクリエイティブツールスキルのニーズの変化について」の調査でも、
クリエイティブツールスキルがあれば、キャリアの幅を広げられる時代になっていることが示唆されています。
秋田氏
調査のなかに「非クリエイティブ職において、クリエイティブツールスキル保有者は、非保有者と比較した場合、月収に平均3.4万円の差が出てくる」とあります。
さらには、「月額4万円以上優遇できる」企業が30%以上、「10万円以上」も少数ながら存在しています。クリエイティブツールスキルをそれだけ必要としている表れと感じます。
調査結果からは、当社の理念である「Creativity for All : すべての人に『つくる力』を」に相通じるものを感じています。
クリエイティブツールスキルを使って、何かを作ることはもう特別なことではありません。
まさに“一億総クリエイター時代”が訪れています。
出典:「アドビ実施調査」 調査期間 2021年4月16日(金)〜2021年4月18日(日)
荻田氏
対人スキル重視の風潮は一変しました。これからは、営業×クリエイティブ、事務×クリエイティブのように、スキルのかけ合わせが少しできるだけで一気に市場価値が上がります。
リモートワークが増えたいまは、“伝え方革命”が起きています。営業資料にも、遠隔の相手により伝わりやすくするための簡単なグラフィックや説明動画を制作できるスキルが求められる傾向にあります。
クリエイティブツールを使えることに、少しでよいので活用ストーリーを加えて話せると、良いアピールになると思います。
秋田氏
アドビでは、動画制作関連をはじめ、数多くのウェビナーを開催しており、毎回、多くの方にご参加いただいています。
約90分の内容にもかかわらず、97%の視聴者が最後までご覧になっており、クリエイティブツールスキルを身につけたいというニーズの高まりをひしひしと感じています。
しかし、日本人はスキルを積極的に開示しない傾向があります。
当調査では、「非クリエイティブ職でもクリエイティブツールスキルを持った求職者は重要である」と、7割の採用担当者が答えていますから、アピールしないのは非常にもったいないことです。
「マイナビ転職」サイト内調査 集計日:2021年1月
田中氏
お二人の話を伺って思ったのが、「クリエイティブとは何か」ということです。言語は放ったそばから消えていきます。
つまり、これまでの「働く」は消えていくものでした。一方、クリエイティブとは残すことです。
自分の考えをビジュアライズすることは“働くことの資産化”であり、これからの多様な働き方を補う潤滑油になると思います。
クリエイティブツールスキルを身に付けるために必要な考え方
――今回の調査では採用担当者が期待するクリエイティブツールスキルとして、
「簡単な写真・画像編集」「簡単な動画撮影・動画編集」が上位に挙がっており、プロ並みのレベルを決して必要としていないことがうかがえます。
これを踏まえ、いまからスキルを習得する人には、どのようなアクション、心構えがあるとよいでしょうか。
秋田氏
私が20代でウェブサイトを立ち上げたときは、『Photoshop』をはじめ、アドビのツールを独学で学びました。
すると、学んだ分だけ、サイトがより良いものになり、トラフィックが増え、成果を実感できました。この経験からも思うのですが、クリエイティブツールを使うことは難しいことではありません。
ましてや、今はウェブ上にたくさんの情報がありますから、その気になれば始めるのはとても簡単です。
クリエイティブツールを使って自分の想いを形にできるようになると、公私問わずワクワクするものです。
『人生100年時代』、常に自分をアップデートしていかなければならない時代ですから、年齢に関係なく新しいスキルを楽しみながら身につけてほしいと思います。
荻田氏
『マイナビ転職』は今年に入り、YouTubeやウェビナーを始めました。
その結果、クリエイティブツールを使ってユーザーに届けられることの可能性に気づけた部分があります。
使ってみないことには始まりません。いまのスキルとクリエイティブツールスキルの掛け合わせに、ぜひ挑戦してください。
田中氏
クリエイティブを机上の勉強ではなく、日常の所作だと思って欲しいですね。
クリエイティブツールを使えば、多くの人に自分の想いを届けられます。やればやるほど上手くなります。
それがキャリア資産になるはずです。
――クリエイティブツールスキルを特別なスキルとしないために、企業や個人ができることは何でしょうか。
秋田氏
社内で楽しんで使い、自分たちでスキルを磨いていこうと動機づけできる環境づくりを推奨したいです。
そして、成果物を社内共有できるようにすると、手がけた人が周りから称賛され、それが自信になり、次のアクションが生まれます。
他の社員も触発され、「自分にもできるんじゃないか」と広がりが出てきます。
最近は、資格を取得した社員に報奨金を出す会社もあります。あらゆる角度から社員のモチベーションを上げる仕掛けを用意できるとよいと思います。
また、個人に関しては、クリエイティブツールスキルを活かして提案書や企画書をブラッシュアップすることで、提案先の心をつかめるようになりビジネスの果実に結びつくようになると思います。
バックオフィスの方も、制作物が自作できるようになれば、外注の手間が省け、結果として業務の効率化を図れます。まずはぜひ取り組んでみてください。
田中氏
デジタルでいつでもどこでも働けるようになったからこそ、コミュニケーションに熱量を込めるべき時代になりました。メールの文面が文字だらけで感情が読めないと言われています。
ですから、感情を補う取り組みが必要です。その表現方法はおそらく文字ベースではありません。
それを視覚化するためのスキルが、クリエイティブツールスキルになるのではないでしょうか。
本調査に関するアドビの特設ページ「転職市場におけるクリエイティブツールスキルのニーズに関する調査」 ( www.adobe.com/jp/information/cskillup.html )をご覧ください。
アドビ株式会社