店舗拡大だけじゃない。フィットネス人口を増やすためにエニタイムフィットネスが挑む新たなる挑戦
24時間年中無休のフィットネスクラブ「エニタイムフィットネス」を国内で展開する株式会社Fast Fitness Japan(以下、ファストフィットネスジャパン)は先月、新たな取り組みとして「社会とつながろう!OPENフィットネス宣言」を行った。これは国内で400店舗を運営する同社が、さらに社会とつながることを目的とした活動のスタートを宣言するもの。その第1弾の活動として「Healthier Islands Project」と「FLOW health TEC」も発表。同社では今後、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)に即した様々な活動を行っていく。
今回はファストフィットネスジャパンの土屋敦之代表取締役社長(CEO兼COO)のほか、沖縄県座間味村の宮里哲村長、株式会社インセクト・マイクロエージェンシーの川村行治代表取締役に、この宣言の根底にある想いや両活動に対する意気込みについて伺った。
(左)㈱インセクト・マイクロエージェンシー代表取締役 川村行治氏 (中央)㈱ファストフィットネスジャパン 代表取締役社長 土屋敦之氏 (右)沖縄県座間味村 村長 宮里哲氏
なぜフィットネス事業者がSDGsを掲げるのか?
世界27カ国に4000の店舗を持つエニタイムフィットネスを日本に上陸させたファストフィットネスジャパン。「日本初の24時間フィットネスクラブ」として2010年に東京・調布に国内1号店をオープンし、今年9月には400店舗を突破。当初の中長期計画に掲げていた「2020年までに500店舗」という目標を、来春には1年前倒しで達成する見込みという。そうしたタイミングで行われた今回の「社会とつながろう!OPENフィットネス宣言」。昨今は各業界の大手企業でもSDGsを企業活動の指針に取り入れる動きが活発ではあるが、なぜ同社は急成長中の今、こうした宣言を行ったのだろうか。
土屋氏:「おかげさまで店舗数も伸び、順調に成長を果たせていますが、企業としてはさらに高みを目指していかなければなりません。そうした私たちの前には『総人口に対して3%』という、おそらくフィットネス業界で何十年も変わっていないであろう参加率の停滞が横たわっています。私はこの数字を欧米並みの10%まで引き上げたいと考えていますが、その壁を打破するにはフィットネスクラブを特別なステータスではなくスタンダードな存在に、あるいは非日常から日常な存在へと変え、もっと社会とつながっていくことが重要だと思っています。そのための我々の意気込みを示すスローガンとして、今回こうした宣言をさせていただきました」
同社では社会貢献という面において、これまでも世界的な障害者スポーツ団体の日本法人であるスペシャルオリンピックス日本(SON)へのサポートのほか、高校生の施設利用を無料で支援するハイスクールパスの導入など、幾つかの取り組みを行ってきた。
土屋氏:「SONのサポートをさせていただいたことで、私を含めて社内のスタッフ自身がSONという団体を知ることができたのがまず大きかったですね。我々が関わることで団体の認知が上がったとSONの方々から言っていただけたことも嬉しかったです。今はSONアスリートの方に施設を利用していただく取り組みも行っています。一方のハイスクールパスについては、高校生がワークアウトの実体験を積んだり、充実したトレーニング環境のない部活学生のサポートに一定の効果を感じており、現在では総会員数の1%にあたる約3,000名がこのパスの利用者になっています」
「できないならそのままでいいのか」という自己矛盾との葛藤
そして、今回の「社会とつながろう!OPENフィットネス宣言」の第1弾企画となるのが、「Healthier Islands Project(ヘルシアアイランドプロジェクト)」だ。これは離島や過疎地などフィットネスクラブへのアプローチが難しい土地に同社の入替えマシンを寄贈するというプロジェクト。既に沖縄県の座間味村が最初の寄贈先に決まっている。土屋社長はこのプロジェクトが生まれた背景を次のように語る。
土屋氏:「当社は『ヘルシアプレイスをすべての人々に』という企業理念を掲げていますが、実際にはすべての方々がエニタイムフィットネスに加入できるわけではありません。例えば、座間味村のような離島も収益を求めるとなると出店が難しいのが正直なところです。できないならそのままでいいのかと、そうした“自己矛盾”をどう解決するかを考えていた折、当社が後援していたSUP(スタンドアップパドルボード)の大会で座間味島を訪れました。そこで宮里村長に出会ってお互いの課題を話していたんですが、村はスポーツ合宿の誘致に力を入れていて、そこには我々が力になれる部分があった。フィットネスマシンを贈ることによってその島の健康増進、あるいは地域活性化などに寄与できれば、私たちの企業理念も達成できると思ったんです」
サービスのクオリティ維持のため、エニタイムフィットネスでは約5年周期でマシンの入替えを行っている。寄贈されるのはそれらの入替えで以前は廃棄されていたマシンだ。廃棄とはいえ、メンテナンスを続ければ、その後も10年20年と長きにわたって使い続けることができる。
土屋氏:「店舗の増加に比例して入替えのマシンも増え始めており、それらを廃棄するのは環境にも優しくありません。また、一部では我々の廃棄したマシンを同業他社が購入して使っているケースもあり、マシンの廃棄に問題を抱えてきたという面もあります。その点において本プロジェクトのようなマシンのリユースは、我々にとっても地域にとっても有益なサイクルになるはずです」
エニタイムのマシンを呼び水にしてスポーツ合宿を呼びたい!
最初の寄贈先である沖縄県の座間味村は、座間味島、阿嘉島、慶留間島、3つの有人島からなる自治体だ。那覇から座間味島までは高速船で50分。ケラマブルーとも言われる碧く透明感の高い海で行うオーシャンアクティビティが主要な観光資源になっている。この村が最初の寄贈先に選ばれたのは、「社会に貢献したい」という土屋社長の想いと「村を活性化したい」という宮里哲村長の思いが合致したところが大きい。宮里村長は今回のプロジェクトに至ったきっかけを次のように語る。
宮里氏:「村の人口の6割が住む座間味島は島内の産業の93%を第3次産業が占め、観光業がメインの島です。人口930人の村に年間11万人近い観光客が訪れるのですが、その観光客数の5割は7月から9月に集中しています。つまり夏場の観光は非常に好調なのですが、その他の時期の観光客は少ないのが現状です。そこを増やせば安定した雇用が生まれ、若者の定住も進むはずと考えています」
そうした中、ホエールウォッチングやノルディックウォークといった通年楽しめるアクティビティのPRに加え、村が数年前から力を入れているのがスポーツ合宿の誘致だ。実際に一昨年からセーリング競技の全日本強化合宿の誘致に成功しており、今年も11月と12月にフランス、スペインとの3カ国合同合宿が予定されている。本プロジェクトのマシンはそのタイミングで寄贈され、合宿後は来年度完成するビジターセンター内のトレーニングジムに移されて、村の方々の健康増進にも活用されることになるという。
宮里氏:「セーリングの合宿は3年前から行っていますが、夜になると選手たちが機械のないところで基礎体力作りを一生懸命やっており、トレーニングマシンがあれば助かるという声は以前からいただいていました。そんな折にこのプロジェクトのお話があり、ぜひにと、こちらから二つ返事でお願いしました。彼らの合宿は観光客が少ない冬場に行われるので経済効果としても大きく、最近は成績も良いので有力な活性化策になることを期待しています。小さい島なので野球やサッカーなどのプロ球団の誘致はなかなか難しいのですが、将来的にはプロ選手にキャンプイン前の自主トレなどにも使ってもらいたいですし、大学や企業の運動部の合宿の場に使ってもらって地域の活性化を図っていきたいです。今回贈っていただくマシンがその呼び水になってくれると思います」
今回の取り組みの狙いはスポーツ合宿の誘致がメインだが、一昨年から始まった国際大会の開催を機に、現在、座間味村の子供たちの間ではSUP(スタンドアップパドルボード)人気が過熱中。神奈川・茅ヶ崎で開催された今年のジャパンカップに優勝者を輩出するなど「SUPの聖地」になりつつある。今回のマシン寄贈は、そうした未来のアスリートにとっても大きな希望になることだろう。
宮里氏:「今回のプロジェクトを受けて、フィットネスに特化した施設の新設も考えていきたい。まずは私たちがこのプロジェクトをしっかり体現することで、次の地方創生、地域活性化につながると思っています」
なお、ヘルシアアイランドプロジェクトについては既に第2・第3の自治体が候補に入っているという。今後も多くの問い合わせが集まりそうだが、土屋社長は「マシンの寄贈が社会貢献にいかに役立つか」という部分を大切にしながら新たなパートナーを選んでいきたいという。
土屋氏:「座間味村のケースでは宮里村長自身に問題点を解決するためのアイデアがあって、社会貢献をしていきたい我々としてもそこがすごく重要なポイントでした。我々がマシンを寄贈することをきっかけとして、そこに住む方々が豊かになっていくことが大切。必ず事業に繋げる必要はありませんが、どんなスキームでどんな風に進めていくのか、自治体の方たちの情熱のようなものを感じたいです」
運動量をポイント化して価値に変える
一方、今回の宣言でもうひとつ発表された「FLOW health TEC(フロウ・ヘルステック)」は、スポーツ用品・機器のトップブランドであるPrecor(プリコー)を提供するアメアスポーツジャパン株式会社と、デジタルサイネージの開発などを行う株式会社インセクト・マイクロエージェンシーが開発したポイントシステムのプラットフォーム。運動量を流通可能なポイントに換算するという、フィットネス事業者向けの画期的な仕組みだ。
土屋氏:「インセクトさんとは既に店舗に導入しているAF-Healthier TV(エニタイム ヘルシアTV)で縁があり、その流れで新たにFLOW health TECの提案をいただきました。会員の方々の継続率を高めるのは我々の永遠のテーマですが、クラブに来て運動すればポイントが貯まって、そのポイントが流通する価値に変わるというのが興味深かったですね」
このFLOW health TECはフィットネス事業者向けのオープンなプラットフォーム。日本で初めて24時間フィットネスクラブを始めたエニタイムフィットネスだけに、土屋社長がこだわったのは、同社が「最初の導入企業」になるということだ。
土屋氏:「話を聞いて、一番に導入したいという思いは強かったですね。このシステムの導入によって、会員の方々のQOLの向上や運動習慣型のプログラムの提案、運動を通じた社会への貢献などが生まれると期待しています」
運動量がポイント化。景品との交換も可能に!?
既に370店舗に導入されているエニタイム ヘルシアTVでは、インスタグラムと連動して各店舗のスタッフが発信した情報が全店舗のディスプレイに表示される仕組みになっている。それが店舗と会員を結ぶコミュニケーションツールの役割を果たしているが、インセクト社の川村行治代表取締役は、FLOW health TECも根本の考え方はこれと同じだと説明する。
川村氏:「FLOW health TECはポイントをコミュニケーションの道具(ツール)として捉えています。ポイントを「寄付する」「参加する」「交換する」ことで、様々なスポーツや健康をテーマとする隣接業界、サービス、地域社会を行き来し、結果として店舗と会員間のコミュニケーションの総量を上げることにつながります。このような関係値の中で、我々はフィットネス事業者の方と会員の方との間を埋める役割を提供することを目指しています」
運動量からポイントへの換算方法やポイントの交換景品など、詳細は調整中だが、獲得ポイントは大手共通ポイントとの相互交換なども検討しているという。
川村氏:「運動習慣のモチベーション維持を目的にしたポイントだけに、運用方法や価値の変換は最も気を使う部分になります。これから調整する部分ですが、モノではなく、コトのようにランニングが趣味の人をマラソン大会に招待するような景品プログラムがあってもいいかもしれません。ただ、プログラムを設計するのはあくまでクラブ事業者の方々なので、我々としてはいろいろなパートナーと組んで、会員の皆様の様々なモチベーションに対応するプログラム設計を簡便に行うための窓口を担当させていただきます。まずはエニタイムフィットネスさんとの取り組みを成功させて、そこからいろいろな事業者にサービスを広げていきたいです」
FLOW health TECは来年6月から直営店での展開を予定。続いて10月からの全店展開を目指している。
24時間フィットネスのパイオニアが再び革命を起こす
土屋氏:「おかげさまで創業から順調に成長していますが、そこであぐらをかくのではなく、得たものをどのように社会に還元していくか。今回、そうした中で具体的なコンテンツが生まれたことをとても嬉しく感じています」
「社会とつながろう!OPENフィットネス宣言」の発表、および2つの取り組みの始動に際しての喜びを改めてそのように語る土屋社長。「他にもいろいろイメージしている取り組みがあるので、具現化してきたら然るべきタイミングで発表したい」と、既に次なる展開も模索している。
24時間フィットネスクラブを日本にもたらし、業界内に革命を起こしてきたエニタイムフィットネス。今回の宣言は2010年の日本1号店オープンから怒涛の勢いで出店を果たしてきた同社にとって、社会貢献に本気で踏み出すという新たなフェーズへの第一歩を示しているものといえるだろう。パイオニア精神を持つ彼らがフィットネス業界の枠すら飛び出し、次にどんな社会貢献活動を打ち出すのか、引き続きその動きに注目していきたい。