1,500社を超える中小・ベンチャー企業に対して「クラウド型人事評価制度運用支援サービス」を提供し、急成長を続けている株式会社あしたのチーム。だが、創業から数年間は業績が伸びずに資金繰りにも苦労して、倒産の危機に直面したこともあったという。V字回復の大きな要因となったのは、創業者、髙橋恭介氏の幼馴染みでもあった、現社長の赤羽博行氏が参画し、髙橋氏の右腕となって会社を牽引するようになったこと。赤羽氏は何故、エリートコンサルタントとしての高給厚遇を捨ててまで、ベンチャーにかけたのだろうか。その想いと戦略を語っていただいた。
“人事評価”という新しい産業創生への道。
髙橋氏が(株)あしたのチームを創業したのは、2008年の9月(当時の社名はディーバ)。リーマン・ショック直後のことだった。当然ながら苦難のスタートとなる。当時、赤羽氏はコンサルティング会社で活躍していた。
赤羽氏:私と髙橋は同郷で歳も一緒でして、幼稚園からの友人でした。彼が小学6年の夏休みに引っ越して行った後は連絡を取り合うこともなかったのですが、高校2年生の時に偶然再会し、それから親しく付き合うようになりました。髙橋は学生の頃から、「将来は起業する」と語っていましたけど、当時はまだ具体的なビジョンは持っていなかったと思います。
彼が副社長まで務めていた会社を辞めて起業した時には、事業計画書を持って訪ねてくれたので、その場でいろいろ語り明かしました。私はボランティアでもいいから何か手伝いたいと考え、社外取締役として参画したのです。ただ、当時勤めていたコンサルティング会社での仕事や待遇には満足していたし、家族もいたので、退職してベンチャー企業に飛び込むことまでは考えていませんでした。リーマン・ショックの影響で、人材系ビジネスの市場も縮小していましたし、東日本大震災の直後はさらに追い込まれました。
創業から約6年後の2014年4月、赤羽氏はコンサルティング会社を辞し、(株)あしたのチームに参画する。何が彼の考えを変えたのか?
赤羽氏:私が参画を決める以前、弊社は人材紹介を主な業務にしていました。私は競合の多いその事業をメインとするのであれば人生を賭ける気になれませんでしたし、その意志は髙橋にも伝えていました。でも髙橋は私が飛び込んできてくれるなら人材紹介を辞めて、人事評価制度一本に絞ると約束してくれたのです。それで腹を括りましたね。人事評価産業という、まだ世の中に無い新しい産業に全力で取り組みたいと思ったのです。
会社を軌道に乗せるために、赤羽氏が一番に取り組んだことは?また、髙橋氏とはどのように役割分担を決めたのだろうか。
赤羽氏:髙橋が本当にやりたいと思っていること、つまり新しい人事評価制度の構築を実現させるための資金調達がまず最優先でした。彼のアイディアを書面にして投資家やベンチャーキャピタルを訪ね、思いを伝えました。当時、中小・ベンチャー企業には人事評価に投資するという発想が無かったので初めは苦労しましたが、徐々に賛同してくださる方が増え、ヒト・モノ・お金を回せるようになりました。それが弊社躍進の一番の要因ですね。
私の参加によって役割分担が明確になり、髙橋商店から企業になったのも大きいと思います。お互いの性格も知り尽くしていますし、気心も知れているのでやりやすいですね。たまに無茶振りもありますが、それも信頼されている証だと考えています。髙橋は子供の頃から頭の回転が早くて、周囲から一目置かれる存在でした。圧倒的なリーダーシップを発揮するので、私はその魅力に惹かれつつ、フォローするのが仕事だと考えています。
赤羽氏の参画によって事業内容を見直した会社は4年間で売り上げを20倍に伸ばすという急成長を遂げた。これを実現できた強みはどこにあるのか。
赤羽氏:優秀な人材を確保できない、直ぐに辞めていく、幹部候補が育たないなど、人事の問題はどの企業も抱えています。それに対して採用システム、人材教育などの問題は顕在化しており、参入する企業も多いですが、我々は人事問題を根本的に解決するために必要なのは人事評価であるというところに着目し、ニッチなマーケットに挑みました。
そして、人事評価の問題を解決するために単にコンサルティングだけでは無く、クラウドシステムを活用したフォロービジネスにも力を入れています。コンサルティングとクラウドサービスの両方を提供させていただけるのが他社との違いだと考えています。そのために、社員の教育・研修もしっかりと行っています。「あしたのチームは、ここまでやってくれるのか!」と思っていただくことが大切ですから。
今後の展開についてのビジョンは?
赤羽氏:もちろん、もっと売上げを伸ばして、社員数も増やしたいですし、知名度も上げたいと思います。でもそれらは一過程に過ぎない。我々の目的は中小・ベンチャー企業に正しい人事評価制度を導入して、企業と働く人を元気にすることです。そして弊社のシステムを導入した会社の業績が伸び、社員が幸福になり、家族もそのことを知っているような社会インフラを目指して行きたいですね。
「働き方改革」が注目されている現在、企業はオフィスデザインの改善や育休、在宅勤務の導入、改善など、社員の労働意欲を高めるために試行錯誤を繰り返している。優秀な社員には男女を問わず、出来るだけ長く働いてもらう環境を整備するため、経営陣も悩んでいるようだ。
だが、働く側にとって、モチベーションを維持するために最も大切なことは、「自分の労働が正しく評価され、相応しい対価が支払われる」こと。そしてその制度が可視化されていることではないだろうか。「会社が幸せならば、社員も幸せ」という時代はもう終わったのだろう。
あしたのチームが目指しているのは「社員が幸せならば、会社も幸せ」という逆転の発想に根ざした、新しい産業創出への道だった。
あしたのチーム