2020年3月13日

「True North」の精神で企業のフルポテンシャルを引き出す戦略コンサル、ベイン・アンド・カンパニー

ベイン・アンド・カンパニー

PROFILE

  • マネージング パートナー 奥野慎太郎

    マネージング パートナー 奥野慎太郎 京都大学経済学部卒業。マサチューセッツ工科大学スーロン経営大学院経営学修士課程修了。JR東海を経て、ベインに参画。ベイン東京オフィスのM&Aプラクティスリーダーおよび東京オフィス代表。

  • パートナー 市井茂樹

    パートナー 市井茂樹 一橋大学法学部卒業、コロンビア大学経営大学大学院修士課程修了、三菱商事、ボストン・コンサルティング・グループを経てベインに参画。テクノロジーを中心とする様々な業界のコーポレートファイナンスやトランスフォーメーション案件を多数手掛けている。

世界37か国58拠点にネットワークを展開し、「結果主義」のコンサルティングで数々の一流企業から信頼を集めるベイン・アンド・カンパニー。この度、同社の東京オフィスが最新刊『日本企業復活の戦略 ―先が読みにくい時代の5つの定石』を発売した。300ページ近いボリュームで綴られた本書には、日本企業が自社のポテンシャルを最大限に発揮し、これから先の20年を生き残るためのヒントが詰め込まれている。経営者層のみならず、最先端を走るビジネスパーソンにぜひ読んで欲しい一冊だ。今回は本書の発売を記念して、同社・マネージング パートナーの奥野慎太郎氏とパートナーの市井茂樹氏にインタビューを実施した。ベイン・アンド・カンパニーというコンサルティングファームに息づくDNAや「結果」を導くコンサルティングのこだわりなどについて語っていただいた。

ベインに流れる「True North」というDNA

ーー1973年にアメリカのボストンで設立されたベイン・アンド・カンパニー(以下、ベイン)は、世界37か国に拠点を持つグローバルな戦略コンサルティングファームです。御社の名前は日本企業の間でも広く知られていますが、まずは改めて御社の東京オフィスの成り立ちから教えてください。

奥野氏
1982年に設立された東京オフィスはベイン全体の中でも5番目に設けられた拠点で、アジア太平洋地域の中では最も歴史のあるオフィスです。設立当時の1980年代はジャパン・アズ・ナンバーワンと呼ばれた時代なので、最先端を走る日本企業のコンサルティングをさせていただきながら、そのケース事例を欧米企業のコンサルティングにも活かしていました。

ーーそこから約40年の歴史の中で様々な企業をサポートされてきたと思いますが、現在に至るまでの流れを簡単に教えてください。

奥野氏
最初の10数年はメーカー系のお客様が中心でしたが、その後、日本の産業構造の移り変わりとともに我々も何度かの変革期を迎えてきました。特に2000年代にドットコムバブルが弾けた後はテック系のお客様が減る一方で、外資による日本企業の買収圧力が強まり、大型のM&Aに関する案件が増えました。2005年頃からはプライベート・エクイティの台頭でその傾向がさらに加速し、我々もプライベート・エクイティ専門の部隊を立上げるなど、時代に対応してきました。その後、リーマンショックを分岐点として、改めて日本の大企業の抜本的企業価値向上に貢献する案件に注力を強めるようになりました。現在は引き続きM&A関連で多くのご依頼をいただいているほか、テクノロジー、情報通信関係やコンシューマー関係のプロジェクトを数多く手がけています。最近では、自動車業界の大きな構造変化の影響もあり、自動車メーカーや自動車部品メーカーのご支援も増えていますね。また、特に2007年頃から、社員のダイバーシティを意識して海外大学卒業のコンサルタントを多数採用しています。現在ではクライアントが日本企業であってもグローバル案件であることが多く、常にグローバル連携を強化するとともに、我々日本のチーム自身も日本とグローバル両方の視点を自然に持てるようにしています。

ーーベイン・アンド・カンパニーの企業理念を教えてください。

奥野氏
グローバルなコンサルティングファームとしては後発にあたる我々は、自分たちが何者であるかを示すためにも自社のDNAを強く持ち続けてきました。その中でも、特に大事にしてきたのは「True North」の精神です。これは、コンパスが指す北、いわゆる「磁北」ではなく、地軸上の正しい北である「真北=True North」へと進んでいこうという合言葉で、一般通念で言われていることやクライアントが期待されている答えが必ずしも正しいとは限らない、ということへの戒めです。経営者の方々に聞こえの良いことを言うだけではアドバイザリーの価値はありません。たとえ相手にとって耳の痛いことであっても、本当に正しいと思うことを提言するのがコンサルタントの役割です。
市井氏
確かに「True North」はベインを象徴するDNAだと感じます。相手が聞きたいか聞きたくないかに関わらず、不都合な真実を含めて本当のことをお伝えするという精神はベインのコンサルタント一人一人に浸透しています。例えば、M&Aのために企業価値の算定を行う時には、その案件を社内で通すために「外部の専門家による“お墨付き”が欲しい」というご依頼も少なくありません。そういう時には、「我々を起用いただいたとしても、必ずしも『GO』すべきというご提言を差し上げるとは限りません。それでも良ければ、ぜひご起用下さい」と最初に申し上げるようにしています。商売っけがないコンサルティングファームといえばそれまでなのですが、そういう頑固さこそがベインの強みの源泉なのだと思います。

奥野氏
これは外部に対してだけはなく、社内の人間関係でも同じです。我々の中では「オープン・オネスト・ダイレクト」と呼んでいるのですが、業務上で違和感をおぼえたことは、上司や先輩であっても忖度なくオープンな場で発言することが奨励される文化が根付いています。

フルポテンシャルを引き出すために力を尽くす

ーー御社は「結果主義」を標榜するコンサルティングファームとして知られています。その表れのひとつとして、御社のホームページでは御社のクライアント企業の株価が市場平均の4倍のパフォーマンスを達成しているという第三者の検証データを公表されています。そうした「結果」を生み出す要因はどんなところにあるとお考えでしょうか。

奥野氏
クライアントの株価は我々が特に重視している評価指標です。もちろん株価だけが企業の価値を決めるものではありませんが、資本主義において株価というのは言うまでもなく企業の重要な価値基準になるものです。ただ、我々が単独で尽力したからといってお客様の株価が上がるわけではありません。意思決定や業務を遂行するのはあくまでもお客様であって、我々はそのサポートをする立場です。その上で我々ができる要素を挙げるとすれば、ひとつは株価に跳ね返るような正しい重要課題を見極めることです。お客様から新しいテーマをいただいた時に、果たしてそれが企業経営にとってトップ3に入るような重要課題であるのか。もしそうではなくて、どこかの一部門の、優先順位の下の方にあるような課題ならば、せっかく報酬を頂戴しても企業価値を上げるような仕事にならないので、「これはやるべきではありません」と進言させていただくこともあります。もうひとつは今回の新刊の中でも重要キーワードにしているフルポテンシャル(企業価値最大化)のために力を尽くしていることですね。ご依頼いただいたテーマは一旦受け止めるとして、そもそもこの企業のポテンシャルはどこにあるのか、どの領域ならばトップを獲れるのか、適正な利益率は10%なのか、それとも20%を目指せる企業なのか。そうした仮説を立てながら、取り組むテーマ自体を変えたり、もう一段目線を上げていただくなどして、地道にフルポテンシャルを引き出した結果が株価にも反映されているのだと思います。
市井氏
確かにベインは企業価値に対するこだわりが強いですね。マーケティング戦略、オペレーション戦略、デジタル戦略といった個別の経営戦略を策定する際も、常に「この提言は、企業価値の向上に結びつくか」という問いが一人一人の頭の中にあります。そういえば、以前あるクライアントに「ベインに対してどういう印象をお持ちですか?」って聞いてみたところ、「会社が順調で余裕がある時はベインさんに頼まないんだ」と言われました。それを聞いて最初はガッカリしましたが、詳しく聞いてみると「耳に痛いことも含めてベインは正しいこと・真実を言ってくれるから、本当に困った時はベインに頼む」という意味だったんです。あれは言い得て妙だと思いましたね。

奥野氏
私も同じような経験があります。「本当に答えがわからない時はベイン。だいたい答えが見えていて、その通り上手いことまとめて欲しい時は、答えをひっくり返されたら困るのでベインは雇わない」と言われました(笑)。ただ、それでもお客様から信頼していただけるのは、EQ(心の知能指数)の高い人材が集まっている証だと感じています。

「Where to play」よりも「How to win」を優先すべき

ーーここまでお話を伺って、ベイン・アンド・カンパニーというコンサルティングファームの実直さがよく伝わってきました。お二人も著者に名前を連ねる新刊『日本企業復活の戦略 ―先が読みにくい時代の5つの定石』の中にも御社の様々なノウハウが詰め込まれていますが、ここまでお話しいただいたこと以外に、お二人がコンサルタントとして大切にされていることを教えてください。
奥野氏
これも先ほどのフルポテンシャルに通じる話ですが、企業の価値を最大限引き出すには本業を突き詰めることが欠かせないということです。経営改革というと多くの人が新しいものに手を出しがちですが、新規事業が主軸に育つまでには相当な時間がかかります。そんな無い物ねだりをするくらいなら、まずは本業の強化を考えた方がいい。もうひとつは、本書のサブタイトルでもある「定石」をしっかり押さえるということです。奇をてらって斬新に映るようなことを行っても、必ず通るべき定石を踏み外しては、なかなか大きくかつ持続する効果は見込めません。自らは定石を押さえているつもりでも、色々なしがらみや文脈に囚われて踏み外している企業は意外と多いものです。実際にそうしたお客様に出会った時は、まず初めに定石をしっかり提示した上で「ここに立ち返ってやらないことには勝率は上がりません」とお伝えしています。

市井氏
私はクライアント企業に戦略をアドバイスする際、「Where to play(どこで戦うか)」、「How to win(どうやって勝つか)」を常に意識しています。意外かもしれませんが、私の経験からいえば「Where to play」は企業価値にさほど影響しません。大切なのは「How to win」 の方なのです。実際に、我々がサステインド・バリュー・クリエイター(10年以上連続で売上と利益両方で5.5%以上の成長を果たしている企業)と呼んでいる企業の多くは、IoT市場やヘルスケア市場のような新しくて急成長している注目市場で戦っている企業ではないことが多いのです。むしろ、あまり注目されない地味な市場で圧倒的なシェアを獲得している企業が大半です。どの市場で戦うかは個々企業の価値観にもよりますし、お客様からは「随分と地味な戦略だね」と言われることもあります。ただ、私は「小さな池の大きな鯉」を狙う方が長い目で見たらリターンが大きいと考えています。ですから企業価値を高めるには「Where to play」よりも「How to win」の方が優先されるべきなのです。

奥野氏
それはシェアだけでなく顧客ロイヤルティにも同じことが言えますね。顧客ロイヤルティでも圧倒的な首位に立っていれば、膨大な営業コストをかけなくてもお客様の方から来てくださる。誰に対してモノを作っているのかはっきりする分、オペレーションコストも下がるので、結果的に業績が上がる。今も昔も変わらない時代を超えた課題といえますが、「圧倒的なナンバーワンを目指しますか?」と聞かれてイエスと言える経営者が少ない中、我々はそうした方々の背中を押してあげる存在であり続けたいと考えています。

ーー今回の新刊の中には 日本企業が活力を取り戻すためのヒントがマクロ・ミクロ両方の視点から書かれています。市井さんは今回の出版において御社の中で中心的な役割を担われ、巻頭言も書かれていますが、この本の中に込めた思いを教えてください。
市井氏
近年、日本企業がグローバル市場で存在感を失った原因として一般的に言われているのは、日本のマーケットが縮小して事業のオポチュニティが減ったり、技術革新で遅れを取ったからだということです。それに対して、我々の見方は少し違っていて、社内に潜む「改革を阻むウチなる敵」こそが日本の経営者が企業価値を伸ばせない本質的な原因だと考えています。そこで、企業の組織、カルチャーや価値観など、現代の競争環境にはそぐわなくなってきた経営システムを変えるヒントを届けたいと思ったのが本書を世に送り出そうと考えたきっかけです。
本書では、奇をてらったことはひとつも書かれていません。先ほど奥野が申し上げたように、迷ったときには定石に立ち返ろうというのが、本書の一貫したメッセージです。日本の経営者は、企業改革といいながらも、最終的には誰も傷つかないようになるべく穏便な方法を取ろうとしますが、競争に勝つためには、不都合なことも含めて定石とすべき手順があります。きっと定石を忘れていた人ほど、新鮮に映ることが多い一冊になるはずです。教科書的なセオリーを並べたてた本ではなく、我々が実際に携わったプロジェクトをベースに、豊富な事例を交えてひとつのストーリーとして読める一冊なので、どなたにも分かりやすく企業経営の定石を学んでいただけると思います。
ベイン・アンド・カンパニー

ベイン・アンド・カンパニー

BRAND TIMES
企業のストーリーをカタチに