2019年4月12日

ALBERT創業者の上村崇氏のアクセラレーター「epiST」、シンプレクスと金融AIソリューションカンパニー「Deep Percept」を設立

epiST

昨今、メディアなどでは、「日本の研究力が低下している」「日本の科学技術力が低下している」という声が聞かれるようになった。これは事実なのか。もし事実ならば、どうすればその状況を打開できるのか。
 AIソリューションで、トヨタ自動車やKDDI、東京海上日動との資本業務提携を行い注目されてきたALBERT (アルベルト)の創業者である上村崇氏が、産学連携におけるビジネスとアカデミア両サイドの課題解決を目指すための新会社「epiST (エピスト)」を、3月28日に創業し、4月1日にはフィンテック・ソリューションを提供するシンプレクス・ホールディングス(以下シンプレクス)と金融領域に特化したAI ソリューションを提供する共同出資会社「Deep Percept(ディープパーセプト)」を設立した。

 3月に開催されたepiST記者説明会には、代表取締役社長/CEOの上村崇氏、執行役員/COOの崎須賀渉氏、アドバイザリーボードとして、1980年代から人工知能研究を第一線で牽引し、公立はこだて未来大学副理事を務める松原仁氏、株式会社セガゲームス代表取締役社長/COOで、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授の松原健二氏が参加。上村氏がepiST設立の背景と、事業内容について説明した後、上村崇氏、松原仁氏、松原健二氏の3名による、現在の産学連携の実情、課題などについてのパネルディスカッションも行われた。

 「もう一度、日本を科学技術立国と呼ばれるようにしたい」。

 この強い想いからepiSTを設立した上村崇氏に、会社設立の経緯、今後の事業内容、そしてシンプレクスとの共同出資会社「Deep Percept」についてお話を聞いた。

もう一度、日本を科学技術立国と呼ばれるようにしたい…。 まずは「産学連携のマッチングプラットフォーム」の提供から

——epiST設立の狙いと想いをお聞かせください。

上村氏「私はALBERTでの14年間を通じて、たくさんの大学研究室にお邪魔して、多くの研究者の方にお会いしてきました。皆さん、非常に熱い想いを持って研究に取り組まれていて、日本の研究者のレベルは素晴らしく高いと、常々思っておりました。そんな中、メディアなどで『日本の研究のレベルは下がっている』『もはや日本は科学技術立国ではない』と言われはじめていることに、強い危機感と問題意識をもっていました。

 なんとか彼らを応援し、日々熱心に研究されている優秀なサイエンティストたちが活躍できる世の中にしたい。もう一度、日本が科学技術立国と呼ばれるようにしたい…。こうした想いを抱いてきました。自分が人生の後半を賭けるのであれば、産学連携、オープンイノベーションで日本の科学を振興するお手伝いをしていきたいと考え、epiSTを設立しました。社名はギリシャ語で「知」や「科学」を表す『Episteme』に由来しています。『epi』という言葉には、『そばにある』という意味もあり、Science(科学)とTechnology(技術)に寄り添い貢献する存在でありたいという、サイエンティストに対するリスペクトを表現した社名になっています」

——ずっと、世間の評判と、実際にお会いしてきた研究者の方たちのレベルとのギャップを感じてこられていたわけですね。その原因はどこにあるとお考えになりますか?

上村氏「日本の仕組みの問題だと考えています。政府が策定した日本再興戦略の中で産学の共同研究の促進が盛り込まれ、日本全体として、アカデミアの力をもっと活用していくことが必要だという認識はあると思います。ただ、民間とアカデミアの双方を深く理解して政府の戦略を推進していく担い手がいない状況です。
 産学連携やオープンイノベーションは、企業にあるビジネス課題に対して、それを解決できる技術をアカデミアから供給するために行うわけですが、その為にはビジネスと技術の両方に対する深い理解が必要です。例えば、ある企業がセキュリティ強化のために顔認証による入館管理をしたいと考えたとします。これを実現するには、ディープラーニングなどの画像認識技術が必要ですが、具体的にどういった技術が必要なのか、企業側にはわからないということがあります。例えそこまでは分かったとしても、その技術を研究しているのはどこの大学のどの研究室なのかを適切に特定することが難しい場合が多い。

 一方で、研究者の方々が共同研究のために自ら民間に近づいていくということも日本ではあまりありませんし、契約書を作ったり、ビジネスプロセスをまわしたりすることに関しては、知見がないというケースも多く見られます。そこで、企業のビジネス課題と研究者の技術の両方を理解している我々が間に立ち、共同研究の組成をお手伝いしたいと思ったのです。私はこれまでの経験からアカデミアネットワークがありますし、epiSTでは独自の研究者データベースも構築しています。研究者の名前や研究内容がデータ化されており、企業が必要としている技術があったときに、研究者と企業のニーズがAIでマッチングされるシステムを構築しています。このシステムで最適なマッチングを行った上で、共同研究が円滑に遂行されるようプロジェクトマネージメントに加わり、成果があがるまで伴走していく。これが我々の考えている、産学連携のマッチングプラットフォーム事業です」

民間とアカデミアの橋渡しをしたい。 epiST主催のマッチングイベントで、産学連携の成功事例の共有や先端的研究発表の場を

——産学連携のために、マッチングプラットフォームを提供するということですね。ほかにはどんなマッチングをお考えでしょうか。
上村氏「東京で年に1回『epiST Summit』を、地方では複数回に渡って『epiST Academia Meeting』を開催します。『epiST Summit』は共同研究を必要としている企業と、先端的な研究者が出会える場を作るマッチングイベントです。研究者が研究の発表をする場として学会がありますが、それとは別に研究者とその技術を必要とする企業のマッチングイベントをオフラインで開催します。企業と研究者が一堂に会して、ビジネス課題や社会課題を解決する先端的研究内容、産学連携やオープンイノベーションの成功事例を共有する。民間とアカデミアの共同研究のためのマッチングの場になればと思っています。

 民間企業は本部が東京にあることが多いですが、大学は各地方にあるため、優秀な研究者は東京だけでなく地方にもいます。地方創生の意味も込めて、東京の企業や大学周辺の有力企業の方々などに集まっていただき、地方での産学連携、オープンイノベーションも盛り上げていきたいと思っています。産学連携を推進することは、結果的に地方にお金と人を集めること、地方を元気にすることにもつながると考えています。

 さらに、企業向けにサイエンティストの採用の支援も行っていきます。ALBERTの経営で最も力を入れていたのは、サイエンティストの採用でした。日本全国の研究室とのコネクションを作り、多くの研究者とお会いして採用活動を行ってきました。この活動の経験とノウハウを生かし、採用イベントの開催やインターンシップのプランニング、求人情報の掲載やダイレクトリクルーティングができるウェブサービスの展開など、サイエンティストの採用支援を予定しています。

 またepiSTでは設立と同時に、『epiST journal』というメディアをオープンしました。国内の産学連携、オープンイノベーションの成功事例や先端的な研究内容などを丁寧に取り上げながら記事として配信していき、このメディアを通じて民間とアカデミアが連携しやすいムードを盛上げていきたいと考えています」

産学連携事業と投資育成事業の両輪でエコシステムを創る

—— 技術シーズと民間のニーズの橋渡しをしていく、民間のプレイヤーが必要だということだと思いますが、epiSTはまさにその役割を果たしていく企業だと感じます。ほかにはどんな事業を展開していくご予定ですか。

上村氏「epiSTの子会社で、投資育成事業である『epiST Ventures』を立ち上げます。epiSTの投資育成事業は、大学発ベンチャーや研究者が立ち上げるスタートアップに出資して、起業の段階から成長軌道に乗るところまで、経営に深く関与するハンズオンを通じてバリューアップをお手伝いしていきます。

 この投資育成事業の最大の特徴は、我々が投資先に出資して資金ニーズに応えるだけでなく、ファンドの出資者と投資先企業の産学連携を行うことでバリューアップを図るという点です。出資者もキャピタルゲインを得るだけではなく、事業の面でも恩恵があるようなモデルを作ります。

 もうひとつの特徴として、大企業の研究部門、R&D部門の優秀な研究や事業を切り出して、ベンチャー企業にするカーブアウトや、大企業の一部門を切り離し、一企業として分離独立させるスピンアウトを支援していくことです。スタートアップと比較してリソース的に劣ることのない大企業のR&D部門などには、優秀なサイエンティストが数多く在籍し、日々研究を重ねています。しかし、大企業全体から見ると事業規模が小さかったり、回収時期が遠かったりするという理由で継続的な投資判断が難しい場合があります。そのうちに規模も技術も劣っていると見ていたスタートアップが同じ領域で大きな成功を上げてしまう、それが大企業のジレンマだと思います。epiSTは、そのような大企業からサイエンティストのチームやR&D部門などをカーブアウト、スピンアウトし、出資とともに経営にも深く関与することで、技術ベンチャーとして成長させていきたいと考えています。
 この第一弾となるのが、この度発表したシンプレクスとの共同出資会社である『Deep Percept(ディープパーセプト)』です。Deep Perceptは、金融領域にフォーカスしたAIソリューションを提供することを目的としています。シンプレクスは、金融機関の収益業務に関わるシステムを構築する会社としては国内におけるリーディングカンパニーです。もともと東証一部上場の企業だったのですが、MBOをして非上場企業となり、攻めの経営をしています。シンプレクスには、たいへん優秀なファイナンシャルエンジニアやクオンツなど、高度な数理モデルとそのシステム化を担うことができる人材が大勢在籍しています。こういったメンバーをDeep Perceptに移管し、これから大きな拡大が見込まれる金融領域、Fintech領域のAIソリューションを提供していきます。epiSTの投資育成事業の第一弾として出資し、私は社長としてDeep Perceptに参画してバリューアップを図ります。Deep Perceptでは大学との共同研究を通じて、AI領域における先端的な技術の取り込みを目指していますが、epiSTとしては産学連携事業を通じてこれを支援していきます。

 優秀な技術者がいるのに活かしきれていない、本業との間にジレンマがあり新規事業をスピーディーに成長させられないという悩みはどこの大企業にもあるはずです。今後Deep Peceptのような事例がどんどん増えていくと思います」

日本の研究者のレベルは高い。 産学連携のエコシステムが構築されれば、日本は再び技術立国になれる

——上村代表取締役社長/CEOは、ALBERTでの14年間を含め、多くのサイエンティストとお会いになってこられました。世界と比べ、日本の研究者の強みはどんなところだとお考えですか?
上村氏「日本はひとつのテーマに対して、ビジョンを持ち、継続的に研究していく国民性を持っていると思います。日本が北米と比べて遅れているのは、公的な研究資金に加えたリスクマネーの注入や人材の還流などといったエコシステムが構築されていないという部分です。優秀な研究者がいて、素晴らしい研究テーマがあるのに、研究に必要なデータが大学にない、研究資金が足りないというのが実情です。ここを双方で協力し、企業からビジネス課題と共に研究に必要なデータと研究資金を供給してもらい、アカデミアは技術力を提供して共同研究を行う。この研究が民間のビジネスに役立てば社会に実装されていく。これが繰り返されるようなエコシステム、プラスのスパイラルができていくと、日本の技術レベルは上がっていくと信じています。

 もう一度世界から科学技術立国日本と言われるようにしたいという、高い志をもってこの事業に取り組んでいます。時間はかかるかもしれませんが、その一端をepiSTなり私が担えればと思っています」
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