日本ならではの進化を遂げたエクスペディア・ジャパンの10年

エクスペディア・ジャパン

ネットでお得に「旅行」を買う。10年前の日本ではほとんど馴染みのなかったサービスが、いまや常識と化している。そんなオンライン旅行市場をリードしてきたのが、今年でちょうど日本上陸10周年を迎えたエクスペディア・ジャパンだ。アメリカに本社を置く世界的な企業は、どのようにして日本の市場を開拓していったのか。ブランドマーケティング担当の村井晶奈さんに、その軌跡を伺った。
エクスペディアジャパン ブランドマーケティング担当 村井 晶奈さん
エクスペディアジャパン ブランドマーケティング担当 村井 晶奈さん

親しみやすいキャラクターを選んだ独自路線

エクスペディアといえば、CMでもお馴染みのクマのキャラクター「エクスベア(Exbear)」を思い出す方も多いだろう。その巨体にはおよそ似つかわしくない軽快なダンスまで披露するギャップには、なんとも言えないシュールな魅力がある。しかしこのエクスベア、本社のあるアメリカには存在しない。日本で生まれたエクスペディア・ジャパンのオリジナルなのである。

「エクスベアのモデルは、映画『男はつらいよ』の寅さんだとも言われています。恰幅がよくて、普段はだらだらしている面倒くさがり屋。でもいざ旅行となるとテンションが上がって、ものすごく俊敏になる(笑)。実は切れ者で、かしこく旅行することは大好きなんです」

「日本では当初、エクスペディアには少し敷居が高いイメージがありました。よく海外出張へ行くようなビジネスパーソンや、旅行慣れした人たちだけが使うサイトだと思われていたんです。そのハードルを下げるためには“親しみ”が必要でした」

世界33カ国で展開され、400社以上の航空会社と3万都市以上のホテルを取り扱うエクスペディア。そんな圧倒的な商品力があっても、それを使ってもらえなければ意味がない。旅行代理店の店頭で予約をするのが一般的だった日本で、初めてネットで旅行を買う人々のハードルを下げるために「エクスベア」は誕生したのである。「こんなに面倒くさがり屋のクマでも、簡単に使いこなせるのがエクスペディア」というわけだ。

欧米の当たり前は日本の当たり前ではない

マイクロソフト社の一部門として設立され、そのテクノロジーを基盤に急成長したエクスペディアは、世界最大級の総合旅行サイトとして欧米ではすでに不動の地位を築いていた。しかし新たに日本で展開していくためには、欧米仕様のままというわけにはいかなかったのである。

「エクスペディアにはもともと“find yours”というキャッチコピーがあります。自分の旅が見つけられるサイトといった意味合いですが、日本では『かしこい旅』というメッセージを打ち出しています」

find yoursのままだと、日本ではどうしても旅行上級者のイメージがついてしまう。実際、欧米ではすでにオンライン旅行市場が成熟しつつあったが、日本ではまだまだこれからだった。「あなたの旅が見つけられますよ!」では、「自分で探さなければならない」「慣れている人じゃないと難しい」といったネガティブなイメージを持たれかねない。

サイト上のメッセージも、ただの英語の直訳にはしないようにしている。「たとえばクーポンなどの特典が当たった時に、アメリカでは“Lucky You! You got a coupon”というような言い方をすることがあります。これを日本語でそのまま直訳したら『君はラッキーだね! クーポンをもらえたよ!』という感じになります。日本で旅行会社がそんな言い方をしたら“上から目線”に聞こえてしまいますよね。そこは『おめでとうございます! お客様にクーポンが当たりました!』といった表現にする必要があるわけです」

「アメリカの当たり前と、日本の当たり前はまったく違います。アメリカではシンプルで効率のいいサイトが好まれる傾向がありますが、日本人が慣れているサイトはどちらかと言えばにぎやかで、すごくわかりやすく作られています。値段や商品や仕様がひと目見てわかるようになっているんです」

エクスペディアをどう表現したら、日本の人たちにとって一番心地良いサイトになるのか――それは、エクスペディア・ジャパンがこの10年追求し続けてきたことでもある。
旅を感じさせるエッセンスが散りばめられた開放的なオフィス
旅を感じさせるエッセンスが散りばめられた開放的なオフィス

「最大10万円割引」をどう魅力的に表現する?

エクスペディアには3つのキーワードがあるという。ユーザビリティの高いウェブサイトを実現する「テクノロジー」と、世界的な規模で商品を扱う「グローバル」の強み、そして「ファン(fun)」。楽しい、ワクワクするような部分をいかに表現していくかは、各国で違う。その国の人々に刺さるプロモーションができるかどうかにかかってくるのだ。

世界中に拠点を持つ強みから、航空券とホテルを好きなように組み合わせてお得に購入できるダイナミックパッケージは、エクスペディアの主力商品となっている。当初、日本ではそれを「航空券とホテルを自由に選んで旅セット割で、最大10万円割引!」と表現した。

「他国のエクスペディアでは、『Bundle Deals』『Package Deals』など、組み合わせると最大でこれだけ割引になるという言い方をしています。でも日本で『最大10万円割引』という表現はすでにありふれていて、『結局、いろいろな条件やオプションが付いてくるんでしょ』といった悪いイメージまでありました」

そこで大胆に見直すこととなったのが、そのネーミングとコピーだった。ダイナミックパッケージを「AIR+割(エアプラス割)」と命名し、「航空券にホテルをプラスで、ホテル代が最大全額OFF!」と表現。そこには村井さん自身の経験も込められている。

「ちょうど2年ほど前、ドバイ旅行をした時のことです。当時、エミレーツ航空の日本とドバイの往復航空券は16万円ほどでした。ところがエクスペディアで航空券にザ・リッツ・カールトンホテルの2泊を組み合わせたら、なんと10万円になってしまったんです。航空券代だけよりも、なぜか航空券とホテルを組み合わせたほうが安いんですよ。これはすごい価値なんじゃないかということで、このネーミングにつながりました」

昨年始まった業界初のポイントシステムも、日本では独自に「Expedia+(エクスペディア プラス)」と命名された。「旅行するほどポイントがたまるよ!」と言われても、すでにさまざまなシーンでポイントシステムが充実している日本では、あまり目新しくなかったからだ。そこで「ポイント付与」に焦点を当てるのではなく、そのポイントがたまることによって得られる特別なサービスやVIP待遇の「ロイヤリティ」を訴求した。

「エクスペディアをたくさん使っていただければいただくほど、『+ブルー』から『+シルバー』、『+ゴールド』へとステータスがステップアップしていき、特別サービスや客室のアップグレードが無料で付与されるようになります。リピーターの方々により特別感を感じていただける、他にはどこにもないサービスです」
日本生まれのエクスベアと村井さん
日本生まれのエクスベアと村井さん

世界は思うより近い! LINE配信で伝えたいこと

今年8月、エクスペディア・ジャパンの東京オフィスは新オフィスへと移転した。移転早々、あの「ポケモンを世界最速でコンプリートした一般男性」がこのオフィスで記者会見をしている。エクスペディアのスポンサードで、彼には各国限定のポケモンを捕まえるためのポケモンGO世界旅行がプレゼントされたのだ。

「マイクやプロジェクターの設備もあって、社内外のイベントができる広いスペースが設けられました。普段はミーティングをしたり、ランチがとれるスペースにもなっていて、社員が自由にコミュニケーションをとれる場となっています」

「旅行」をテーマにデザインされたというスタイリッシュなオフィスでは、東京タワーを望む開放的なフリースペースが惜しみなく社員たちに提供されている。最初は神谷町の小さなオフィスで数人の社員から始まった会社だが、今はこの東京オフィスを含め、全国に6支社を構えるまでに成長した。

自分たちも前進しながら、この10年で日本人の旅行を劇的に進化させてきたエクスペディア・ジャパン。航空券やホテルの手配も自分でできるほど旅慣れた人々、いわゆる「FIT(Foreign Independent Travel)層」からの支持も厚い。では今後の目標はと問うと、「若い層を取り込んでいくこと」という答えが返ってきた。

「今の若い方は、旅行のスタイルも変わってきています。卒業旅行も、『どこへ行くか』より『誰と行くか』が重要になっている。たくさんお金をかけて遠くの国へ冒険に行くより、近場のアジアを仲のいい友だちと何度も行く旅を選ぶような傾向にあります」

エクスペディアには海外旅行のイメージがあるが、実は国内線LCC航空券とホテルを組み合わせてお得に購入できる日本唯一のオンライン旅行会社である。沖縄や札幌も、航空券と2泊3日のホテル代で1万円台から用意されているのだ。それもセール価格ではなく、当たり前のようにその価格帯を実現している。

今年開設された公式LINEアカウントからは、旅行することに慣れていない若い層に向けてどんどんアプローチを仕掛けていくという。

「旅行をもっと身近に感じてもらうために、私たちはこれからも発信し続けます。『世界はすごく近いんだよ!』と、エクスペディアを通して体感してほしいですね。年に一度の大行事みたいにせずに、もっと気軽に飛び立って、どこへでも行けるものなんです。今週末に海外へ行きたいと思えばすぐ予約できますし、明日だってどこへでも行けるんですよ!」

LINEでは、よりわかりやすく最安値の旅行パッケージを提示したり、お得なクーポンを定期的に配信したりして、エクスペディアの魅力を伝えていく予定だ。そこでまたどんな反応があり、新たな発見があるのか。オンライン旅行業界はまだまだ進化を続けそうである。

文:中西未紀   写真:田中郁衣

2017年1月20日

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