2020年1月14日

介護職員の生涯教育のプラットフォームを通して日本の「ヘルパーショック」を解決したい

株式会社ガネット

PROFILE

  • 株式会社ガネット 代表取締役社長  藤田達也

    株式会社ガネット 代表取締役社長 藤田達也 1976年生まれ。2000年、大学卒業後、人材コンサルティング企業に入社。04年に取締役営業本部長に就任すると同時に、関連企業のデジタルコンテンツ企業の代表取締役にも就任。08年株式会社ガネットを設立し、採用コンサルティング事業と研修事業の2軸にて事業スタート。現在、関東、東海、関西地区を中心に、104校の教室拠点にて事業を展開している。

病院や介護施設の中に学校を設ける「分校」という独自のビジネスモデルで急速に校数を伸ばし、全国100か所以上で介護資格の専門スクール「日本総合福祉アカデミー」を運営する株式会社ガネット。第一次ベビーブームに生まれた団塊の世代が後期高齢者の年齢に差し掛かる「2025年問題」が世間に広く認知され、社会全体に超高齢社会に伴う高齢者介護への不安が漂う中、同社は独自性光る教育事業でこの危機の解決に取り組もうとしている。ここでは同社を率いる藤田達也社長にインタビュー。同社が手がけるスクールブランディング事業の今、そして藤田社長が考える日本の介護産業の未来像について話を聞いた。

「ヘルパーショック」が日本全体の生産性を低下させる

ーー2025年には日本国民の3人に一人が65歳以上の高齢者になると言われています。厚生労働省が昨年発表した資料によると、2025年には245万人の介護職員が必要になるといわれ、毎年新たに6万人の人材確保が必要だとされています。まず、こうした現状について藤田社長の見解をお聞かせください。

いろいろな課題がある中、今の政府は外国人技能実習生の受け入れと介護職員の待遇の底上げを2つの軸に力を入れています。もちろん両方とも必要な取り組みではありますが、より優先されるのは後者であるべきと私は考えています。なぜなら、外国人が日本の介護施設で働くということは、言葉と文化の壁がある上で要介護認定者のお世話をする究極のサービス業ですから、定着するにはまだまだ時間がかかると感じるからです。それよりは介護に従事している職員の方々が幸せを感じ、将来まで生き生きと働くための環境を整備することの方が重要ではないでしょうか。

ーー御社では、こうした介護業界をとりまく現状を「ヘルパーショック」という言葉で表現されています。この言葉に含まれる真意を教えてください。

介護人材の不足というのはひとつの要素で、我々はその先に起こり得る生産性そして国力の低下の危機を総称して「ヘルパーショック」という言葉を用いています。その最たる原因になるのは介護離職者の増加です。既に数年前から様々な組織で40代・50代を中心とした働き盛り世代の介護離職が起こっていて、社会に必要な労働力が削がれようとしています。そのほかにも、多重介護、老老介護など介護における様々な問題が顕在化し、家族や地域、経済に大きな将来不安を与え始めています。労働力が失われ、収入が下がり、働く意欲まで失われる。このままの状況でじわじわと起こる経済への影響はリーマンショックと同等のインパクトになりえます。

ヘルパーショックの解決には政策や知識の普及など社会全体を巻き込んだ取り組みが必要ですが、一番先に来るのはやはり担い手の確保です。支える人が増え、働き盛り世代が介護離職をしなくても外部に任せられる環境ができればこの危機を避けることができます。そのために介護職をやりがいの面、生活の安定の面でもっと魅力的な職業に変えていこうというのが、我々の事業の根本にあるテーマです。

6年間で100校以上を開校した「学校機能構築プロジェクト」の成功要因

ーー2008年に創業された御社は、もともと人材教育事業や採用コンサル事業を行われてきた企業です。そこから2013年に日本総合福祉アカデミーに代表される「学校機能構築プロジェクト」を始めたきっかけは何だったのでしょう。

創業した頃は大手電化製品メーカーや商社、不動産企業など、いろんな業界で教育研修を行っていました。しかし、ほどなくしてリーマンショックが起こりまして…。どの企業もまずは教育研修費と採用費を下げるということになって、ご多分に漏れず、我々も削減の対象になりました。その結果、事業継続すら難しい状況でしたが、やはり教育と人材という事業の両輪からはブレたくないなと。そこで改めて選択と集中の考えに立ち返った結果、まだまだブルーオーシャン市場で、なおかつ世界的に勝てる見込みの大きい介護産業に着目したんです。

もちろん当時はまったくの新参者でしたから、それまで培った人脈を頼って医師や主務看護師や看護部長などを務めるベテラン看護師、そして介護従事者と出会い、数十年のキャリアがある方々をパートナーに迎えて、介護業界について徹底的なリサーチを行いました。最初の3年間は毎週のように会議を組み、介護業界が進もうとしている方針と医療界が向かおうとする方向の中にどんなギャップがあるのかといった点をぶつけ合い、我々独自のサービスを作り込みました。

ーー御社の「学校機能構築プロジェクト」は、自社で物件を探して運営する一般的な資格学校と異なり、病院や介護施設の空きスペースでスクールを運営する「分校」という形を採っています。この仕組みについて、より詳しく教えて下さい。

「学校機能構築プロジェクト」とは、病院、介護施設内に介護・医療に関わる資格が取れる養成校を構築し、そこに勤める従業員、近隣の施設や病院に勤める方、介護産業にチャレンジしたい方が気軽に授業に参加できる日本初のスキームです。行政とのやりとり、各種オペレーション、高額な授業備品、授業の設計に関する諸業務などをアウトソーシングで賄うため、低コストでの教室運営が可能になっています。主にBtoBで展開している学校のため、受講生も働きながら通っている方が大半です。大手企業とのお付き合いも多いので、新卒内定者や若手社員から、管理職クラスまで様々な方が受講されています。
ーーつまり低コスト・小規模でスクールが設置できる反面、開校には設置施設の協力が欠かせないわけですが、実際にリアルな介護の現場に足を踏み入れてみて、それまで見てきた業界とは違う違和感のようなものは感じましたか。

そうですね。全体の半分くらいが社会福祉法人で成り立っている流動性の低い業界なので、初めは閉鎖的な環境が多いことにとまどいました。何十年と続けてきたルールを頑なに守っている施設もあって、我々が自信のあるプログラムを持っていっても、従来のやり方との間のギャップが大きかったです。

それに加えて、組織構造においても「施設長とその他の20人」みたいな形で施設長だけに権限が集中しており、多くの施設が組織作りに苦労をされているなと感じました。他業種であれば、主任、課長、部長、役員と社内に明確なキャリアのステップがありますが、介護業界はたとえキャリアプランがあったとしても形骸化していて、同じ環境の中で人材を回しながら、結局は人間関係が嫌になって辞めてしまう人がたくさんいることもわかりました。何より理事長や社長といった組織のトップが、そうした現実に危機感を抱いていないことに最も驚きましたね。

ーーそのような厳しい境遇を経験しながら、日本総合福祉アカデミーは開始6年で全国に100校以上が開校する急成長を果たせています。その成長要因はどこにあったのでしょうか。

「分校」という新しいモデルが受け入れられたこと、2011年から介護福祉士試験の受験要件に実務者研修の修了が義務付けられたことなどが挙げられますが、何より国の介護政策が「箱モノから人」へ移り変わる流れにうまく乗れたことが大きかったと思います。かつては施設を建てることに多くの補助金が投入されていましたが、今は介護職員の待遇改善やキャリア教育に多くの財源が使われる方向に変わってきています。その流れに我々のサービスが合致したのだと思います。

それに加えて、別業界の大手企業による介護事業の買収が進んできたことも後押しになりました。そうした企業のトップは、金融企業や不動産業界など異業種の最前線を歩んできた方々が中心なので、参入当時の我々と同じ違和感を感じる方が多かった。そこに我々の提供するパッケージがうまくマッチしたのも、この速度で成長が果たせている要因のひとつです。

地方にフォーカスをあて、学びの場を創出する

ーー教育面において、日本総合福祉アカデミーが他の介護系資格学校と差別化できている点はどんなところでしょうか。また、介護職というと、入り口も大きい反面で離職率の高さも目立ちます。特に若い人が30年、40年と介護業界で働き続けるためにキャリア教育などで心がけていることはありますか。

我々には全国に250名以上の講師ネットワークがあります。講座プログラムも彼らと協同で作成しており、今は実務者研修、初任者研修を中心に40程度のプログラムを展開しています。実務者研修のカリキュラム自体は厚生労働省の指針に沿ったものに大きな変更を加えていませんが、今後、介護職員の関与が増えることが予想される医療行為の講義に他のスクールの2倍近いボリュームを取っているところが特徴です。

一方でキャリア教育については、入社3年目、5年目と段階的なステップアップを図ることを目的とした管理者養成プログラムの提供を始めています。新人研修、中堅社員研修、管理職研修という、異業種の大企業では当たり前の流れを介護業界向けに特化した形で提唱しています。受講者は教育的スキルを得られることで意欲向上につながりますし、施設のトップも自社の組織構造を考え直すなど、これをきっかけに組織の中に良い循環が生まれています。

ーー介護施設の中に学校を作ることで生まれるシナジーはどんなところにありますか。

職員にとっては自分の職場の中に生涯的に学べる環境があることで、常に向上心を持ちながら働くことができます。資格取得は自らの待遇改善にも直結しますから。一方、経営者にとっては職員がスキルアップできる環境を社内に持つことで、他の施設との差別化になりますし、それ自体が施設の評判の向上につなげられます。

また、介護業界では資格取得にかかる費用を「自腹」にて捻出するケースが多いのですが、当社の分校では「選抜型」などの形を採って教育費の捻出は施設がやるべきですと提唱しています。会社に選ばれたという期待感と自信は自社への帰属意識にもつながります。そうした取り組みの成果は実務者研修修了者の定着率が9割以上という結果にも表れています。

もうひとつ、学びの場が少ない地方に学校が作れることにも分校ならではのメリットがあると思います。介護に興味があるけど、近くに学校がないという方にも学び機会を提供していく。そうした地域を巻き込んだ学び場作りには社会的な意義も感じています。

介護職が「憧れの職業」になることが夢

ーースクールブランディング事業のほかに、現在、御社が介護産業に対して力を入れている事業はありますか。

昨今は介護業界に特化した新卒採用のコンサルティングに力を入れ始めています。当社は別の業種では数々の企業の採用活動をお手伝いしてきましたが、正直なところ、若者から見た魅力が薄く、新卒人材の確保が最も難しい介護人材採用のコンサルティングには取り組んできませんでした。ただ、我々が関わる施設は人材教育にも前向きですし、キャリアアップについてもしっかりした認識が広がっているので、その会社なら大学生にも魅力が伝わるのではないかと感じてきました。社会に出る新卒者数は毎年70万人います。この70万人に我々が本来培ってきたノウハウをぶつけていけば、優秀な人材が介護の世界に入ってきてくれるかもしれないという期待感があります。これを新卒採用では珍しいのですが、成功報酬という形で今後サービスインしていこうと考えています。

ーー株式会社ガネットの今後の目標を教えて下さい。

まず、日本総合福祉アカデミーについては2021年末までに現在の約3倍にあたる全国300校の稼働を目指しています。あと2年で3倍というと驚かれるかもしれませんが、既に数十校を越えるスクールを設置申請中ですし、この5年間の積み上げで業界内での知名度も反響の数も伸びてきているので、決して不可能な数字ではないと考えています。その後は人材ビジネスにより積極的に取り組んでいきたいですね。毎年6万人の新たな人材需要が生まれる業界も少ないですから、そこにチャンスを求めていたいです。さらにその先は日本と同じく高齢化社会を迎える海外の国々に向けてメイドインジャパンのサービスを届けていきたいです。社会の高齢化が待ったなしの状態で進む中、今まで以上のスピード感を持って介護問題の解決に取り組んでいこうと思っています。

ーー最後になりますが、介護業界で藤田社長が実現したいビジョンをお聞かせください。

近い領域でいうなら、きっと今の介護業界は昔の看護業界に似ていると思います。50年前の看護師が医療業界で今ほど高い地位にあったかといえばそうではないはず。今や看護師の世界に入りたいという学生は多いですよね。それは国や業界団体が、看護師を大切なものとして扱わなければならないと取り組んできた歴史の結果なのだと思います。それと同じように介護の世界も社会の中でもっと高い地位になっていくべきだし、若者が憧れる職業にならなければなりません。介護業界で働く人が増えることがヘルパーショックを防ぐ一番の手段なので、我々も様々な一石を投じながら、業界全体の底上げに寄与していきたいです。
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