PROFILE
特定非営利活動法人「CROP.-MINORI-」代表理事 中山すみ子氏
自身が海外で野生のイルカと泳いだ経験をもとに、1995年より児童養護施設で育つ子どもの“心のケア”のために野生のイルカと一緒に泳ぐドルフィンスイムやアートセラピーのワークショップを開始。2008年にはNPO法人CROP.-MINORI-(クロップミノリ)として活動。子どもたちが児童養護施設を出たあとの自立支援に取り組んでいる。5~6人の子どもとスタッフが一緒に住んで生活をする「ファミリーホーム(CROP HOUSE supported by one by oneこども基金)」(家庭的養護を目的とした里親と児童養護施設の中間的な形態)を2011年8月1日に横須賀市で開所した。
PROFILE
NPO法人「タイガーマスク基金」事務局長 工藤ルリ子氏
会社員時代に社会貢献活動として、児童虐待防止の啓発活動や社会的養護の子どもたちの支援を担当。2012年、タイガーマスク基金がNPO法人ファザーリングジャパンの一つのプロジェクトからNPO法人として独立した際に、会社員から転職しタイガー事務局を担当。運営事務からイベント開催、広報まで幅広く担当している。
子どもたちの「そばにいて見守り続ける存在」でありたい
――葉田財団を知ったきっかけはどのようなものですか?
うちの団体は万年資金不足に苦しんでおりまして、その事情をよくご存じのタイガーマスク基金の工藤氏から葉田財団というところが設立され、色々な団体の支援を考えていらっしゃるとお聞きしました。
――「CROP.-MINORI-」はどのような活動をしているのですか?
1996年から東京都にある御蔵島というところに児童養護施設の子どもたちを連れて行く、「ドルフィンプレイ イン御蔵島」というワークショップを行っています。活動の原点ですが、児童養護施設に保護された子どもが18歳になって巣立った後、かなりの確率で自立に失敗するんですね。この失敗を少しでも止めたいということで、もうひとつの営利事業として2008年に制度化されたファミリーホーム事業を行っています。
0歳から18歳までの子どもをお預かりして養育するという、施設と里親さんの中間点にあるようなものですが、2011年の8月にスタートしました。
御蔵島でのワークショップから派生する自立支援活動と、ファミリーホーム事業の二本立てです。子どもが18歳になってぱっと自立して一人で働いて生活していけるかというと、それは、なかなか難しいんです。ましてや複雑な家庭環境にあるお子さんはよけいに難しいところなので、自立に失敗してしまった子どもを休ませて、次の自立に向けた支援活動もやっています。
――児童福祉法では18歳になったら出ていかなくてはならないわけですが、彼らをもう一度引き取るのですか? そのようなことは、他の施設などでもやっていることなのでしょうか?
あまりないと思います。施設や団体に「戻ってきてもいいよ」とか、「もう一度立て直そう」という取り組みをしているところはあると思いますけれど、その施設や団体でケアをしていた子どもたちなら誰でも支援する、ということをしているところはほとんどないと思います。うちの団体の特徴的なところは、御蔵島で関わった子どもたちが非常にたくさん、卒園してスタッフとして働いてくれている点ですね。
――ファミリーホームが本当のファミリーのようになっているのですね。ドルフィンプレイについて詳しく教えて頂けますか?
御蔵島での「ドルフィンプレイ イン御蔵島」というワークショップは、中高校生を対象としていて、全額寄付で行われています。御蔵島は人口は300人足らずなので、島自体で「子どもは宝物」という考えが強く、地元の方々は、ちょっと気性が荒々しいんですけれど、心の温かい人々が大勢います。それから海が素晴らしく美しいんですね。世界中からイルカの研究者も来るようなところでイルカと一緒に泳ぐことができます。そんな大自然の素晴らしい環境で過ごす時間を重視して、滞在の間、子どもたちの気持ちを癒そうという考えで行っています。
――昨年度の支援金の使途ですが、どういったことに助成金を使われましたか? また、今年度の使途の予定も伺えますか?
ファミリーホームとして借りている家が、築80年で老朽化が進んでいたので、葉田財団さんからの助成金でぼろぼろだった畳をフローリングにしたり、畳を貼り替えたりする修繕費に充てました。しかし直ったのは床だけで、屋根の雨漏りの修理はまだです。ベニヤ板を貼っておいたんですが台風で雨漏りするようになったので、今年度も修繕費としてお願いすることになるかもしれません。あとは運営資金かなと思っています。
――今抱えている課題などについてお話頂けますか?
継続して支援して頂くことは本当に難しいのですが、子どもの育成は継続することが重要なんですね。自立に失敗した時も含めて続けていけるかというところが大きいので、それができるよう、力を保っていけるようにということは、他の団体もそうだと思いますが大きな課題だと思っています。
――葉田財団への申請を検討している方へのメッセージはありますか?
どの支援団体からも、子どもの立ち直りへの支援については高く評価して頂いています。しかしながら、私どもは子どもの写真や名前を明らかにしない、というポリシーですので、支援団体からすると実績として形になりにくいので、支援を頂くことがとても難しい状況です。助成金の使い道に規律や規制が多い財団が多い中、葉田財団は書類選考のみではなく、現場からの声を親身に取り上げて下さいますのでとてもありがたいです。
子どもたちに寄り添って何かをしようという団体や施設にご理解を頂き、「子どもたちのためになるならばやりましょう」といって頂けたことが励みにもなっています。こういう財団があるから諦めずにトライし、継続していくことができているんですね。
「可哀想だから支援をする」のではなく、「人生の可能性と楽しさを伝える」
――タイガーマスク基金について簡単にご説明を頂けますか?
2010年の暮れに群馬県の児童養護施設に「伊達直人」の名前でランドセルが匿名の方から贈られたことが大きく報道されました。それ以降、全国の児童相談所や児童養護施設に「伊達直人」名義で贈り物が届けられたことが「タイガーマスク現象」とか「タイガーマスク運動」という形で全国に広まりました。そのことに感銘を受けられた「タイガーマスク」の原作者である梶原一騎先生の奥さま、高森篤子さんが私財を投じて基金を立ち上げられたという経緯があります。
――活動内容と昨年度の助成金の使途について聞かせて下さい。
もともと児童養護施設にいる子どもたちの支援を考えていたのですが「施設にいる間は児童福祉法で守られていても、施設を出てからが大変」というお話を聞きました。児童福祉法では18歳になったら施設を出て行かなくてはいけない。虐待などで親との関係がうまくいかないことによって施設と親と離れて暮らしている子どももたくさんいます。ですから施設を出ても親元へは帰れません。18歳で施設を出たその日から衣食住のすべてを自分でやっていかなくてはならない。ということは当然、就職することになります。望んで仕事につくわけではなくて、ただ選択肢がないという現状は、子どもたちにとってはひどく不公平で理不尽とも言えます。特に大学に進学する子どもが非常に少ない。高校卒業で児童養護施設を出た子どもたちが年間1715人いますが、進学出来ているのは276人しかいません。そこで入学するときに返済不要の支援金を届けるという、大学進学のための支援に重点をおいて行っています。
――葉田財団さまからはいつから助成金を受けられるようになりましたか?
昨年度からですね。葉田財団さまに頂いた助成金も最初から大学支援に絞って使わせて頂いて、延べ626人に届けています。2013年と2014年は初年度だけ、入学時のみに10万円を届けていたのですが、2015年からは在学中の4年間継続してトータルで30万円を渡すという形になりました。大学に入学したけれど続けて行くのが大変という声を聞いて、改善した形です。アルバイトをしながら通学していても、病気やけがなどして働けなくなると途端に生活が困ってしまいますからね。
――大きな課題ですね。今年度も申請を頂いていますが、昨年度の支援金は使いきった形でしょうか。
100万円頂きましたので、一人一口6万円の支出で16人分、残りは振り込むときの手数料などになっています。今年度も新入生が入ってきますので、その学生たちに使わせて頂きます。
――卒業された子どもたちからの声などはありましたか?
中には非常に困難な生い立ちのために、自分が悪い子だからとか、自分は愛されていない、世の中に必要とされていないんじゃないかと思っている子もいるんです。でも、自分のことをどこかで誰かが応援してくれるんだっていうことが子どもたちには伝わっていきます。
「会ったこともない一学生の私に、多大なるご支援を下さりありがとうございました」とか「私が頑張る原動力のひとつでもありました。このことは一生忘れることはありません」などといった声がありました。お金だけではなく、気持ちのうえで支援をして下さる方がいるということが、何より彼らの心の支えになります。
――葉田財団をどのようにして知ったのですか?
葉田財団の会計顧問をしていらっしゃる先生のお知り合いの方が私どもと付き合いの深い「ファザーリングジャパン」という団体の会員なんです。そこからうちに伝わった形で、葉田社長が児童福祉の現状を知りたいということで私がご説明しに行くという経緯がありました。
――志が高い事業だと思うのですが、それゆえに色々な困難や課題も、社会的な認知の問題などあると思います。
私たちが支援をしている子どもたちの中には身体的暴力、精神的圧力やネグレクトをされて保護された子どもが多く、顔とかプライバシーを公にしない方針です。子どもたちがいつ何どき、あらぬ誤解や偏見を受けて不利益を被るかわかりませんから。企業のCSRや社会貢献として支援をしたいというところにお話を持っていっても、顔も名前もオープンにできないとなると、支援した効果を株主や社員などステークホルダーに説明するにはわかりにくく、認知が広がらないという問題があります。
――葉田財団への申請を検討している方へのメッセージはありますか?
児童福祉の分野はまだまだ支援が少ないというのが現状です。葉田財団は経済的なことだけでなく、子どもたちの現状を知ろうと思ってくださっています。日本は子育てというものを家庭や親に責任があると思っていて、「社会で育てる」という土壌がとても少ないと思います。しかし、領土も資源も少ない日本において、子どもたちが日本の未来を背負っていると思っています。子どもにもっと経済支援する国にならなければ、この国の未来はないと思うんです。そういった気持ちを葉田財団さんを通じて、社会にアピールできる機会を頂いていると思っています。
公益財団法人 葉田財団
社会的擁護を必要とする困難を抱えた子どもたちの心身の成長と自立の支援を行う支援団体へ、助成を行うことを目的に作られた財団。子供たちの健全な育成に寄与する目的に沿った、優れた活動や実績を有する団体等を助成金によって支援し福祉に寄与している。代表理事はエレコム株式会社取締役社長、葉田順治氏。
葉田財団HP
< https://www.hadafoundation.com/>
2019年度 子どもの未来助成事業 募集を開始しました。
期間2019年9月30日(月)まで
< https://www.hadafoundation.com/promotion-services/ >