封筒業界のパイオニア、100年企業「イムラ封筒」発展のワケは圧倒的な技術力

イムラ封筒

私たちが郵便で受け取るものの中には、カードの請求書や税金の案内、選挙の入場券など、機密性が高いものが多く含まれている。この機密性が高い情報が配送途中で漏れないよう、私たちの手元に届くまでしっかりと守ってくれているのが”封筒”だ。また、DMやサンプル送付などの販促ツールとして、マーケティング戦略に使えることも”封筒”の役割の1つである。

今年で創業100年を迎えるイムラ封筒は、そうしたビジネス用のオーダーメイド封筒における日本のリーディングカンパニーだ。今回は、同社の井村優社長、吉川伸昭常務取締役製造本部長、炭家裕之取締役技術部長にインタビュー。大切な情報を確実に守る封筒、変容する企業ニーズに応え続ける封筒、両方の封筒造りを支える技術力について話を聞いた。

百年老舗の信頼を確固たるものにした「プラ窓封筒」の開発

今年7月に創業100年を迎えるイムラ封筒は、1918年(大正7)に荷札の製造販売業として奈良県で創業。1937年(昭和12)に封筒の製造販売に進出し、いち早く機械化による量産化を敢行。製造機を自社で開発・改良するなど高い技術力と圧倒的な生産力によってオーダーメイド封筒の業界をリードしてきた。現在は年商200億円以上、約900名の社員を抱える企業として業界で唯一の上場企業に。大阪市の本社のほか、全国各地に拠点や工場を置き、企画・製造から封入・発送のメーリングサービスまでを受注している。
イムラ封筒が業界のトップを走り続けてきた要因のひとつに、1960年(昭和35)に開発した「プラ窓封筒」の加工技術がある。プラ窓封筒とは、自治体等からの郵送物に使われている、宛て名部分が半透明になった窓付き封筒のことだ。封入物に印字された宛名を窓から表示させることができるため、誤封入の防止による情報保護や、宛名印字が不要になることによるコストカットにもつながる。この商品開発は、役所や銀行など多くの顧客を得るきっかけとなり、「この会社が大量生産を行っていく自信に繋がった。現在、プラ窓封筒を含めた「窓付き封筒」の生産量は5割を超えるシェアを獲得できている」と、5代目の井村優社長は言う。
イムラ封筒が1960年(昭和35)に開発した「プラ窓封筒」。窓となる部分に特殊樹脂を浸透させて半透明にしている。紙にフィルムを貼り付けるのではなく、一枚の紙からつくり出すため、高度な製造技術が必要となる。

そのほかにも、和封筒や今では当たり前となったミシン目加工、自治体からの要望が多い点字加工、凹凸の浮き出し文字で封筒に高級感を出すエンボス加工、水に強い防水ラミネート加工など、今や私たちが当たり前のように触れている封筒は、イムラ封筒の高い技術力のお陰で、“当たり前”を実現できているのだ。そんなイムラ封筒には、省庁や一部上場企業などの一流組織をはじめとした数多くのクライアントからの発注依頼が後を絶たない。
ミシン目加工の封筒
ミシン目加工の封筒

紙は生き物、5代目社長が感じる封筒業界の醍醐味とは?

5代目社長の井村優氏
5代目社長の井村優氏
現在5代目の社長を務める井村優氏は、「紙というのは生き物なので、その日の温度や湿度、それと同じ品質でも微妙に異なる紙自体の状態によって機械の調整を変えなければなりません。品質を保ちながら多くの封筒を作るにはそれらを人の目と感覚で確かめつつ毎日のように機械を調整することが必要で、“人と機械の一体感”のようなものが大切なのだと感じています」と封筒作りの難しさを語る。

また封筒の発注は期日に余裕がある依頼ばかりではなく、お客様の緊急事態等により“前日発注・翌日納品”のようなオーダーを受けることもあるといい、「お客様から『イムラ封筒じゃないとできなかった』と言われた時が一番嬉しい。正直こちらが忘れてしまったような10年以上前のことでも相手先のご担当者様から感謝の言葉をいただくことがありますから」と、この業種ならではの仕事のやりがいを明かした。

人材も製造機械も他社の追随を許さない、“イムラ流”の技術力

イムラ封筒の信頼を支えているのは、企画から納品まで10日前後と、他社には真似できないスピードでできる対応力と、「百万枚でも同じ品質の封筒を作ることができる」と井村社長が胸を張る確かな技術力だ。そこには大量生産を支えている製造機械の働きが欠かせないが、それらの修理・改良をメーカー任せにせず、自社のスタッフで行える力こそがこの会社の真の強みといえる。
イムラ封筒が誇る、最新機器。オーダーに合わせた封筒を製作できるよう、 常に進化をしている。
イムラ封筒が誇る、最新機器。オーダーに合わせた封筒を製作できるよう、 常に進化をしている。
オーダーごとに仕様が異なる封筒を造るため、あるいは井村社長が言うような“人と機械の一体感”を築くためには、「人と機械が話せることが必要」と技術部長の炭家裕之氏は語る。そのため、同社では機械を分解して組み直すということを頻繁に繰り返し、職人それぞれが機械の隅々までを熟知して、何と自社で改良まで行ってしまうのだ。
技術部長の炭家裕之氏
技術部長の炭家裕之氏
「購入したままの機械の状態では使いづらい部分もこちらで“イムラ流”に変えてしまうので、おそらく機械の製造メーカーの方が製品を見ても、どのように加工しているのか分からないのでは」と炭家部長。イムラ封筒では、製袋機や加工機を50年以上使い続けている。「どの会社でも50年間使えるというわけではなくて、ウチだから50年間使えている。やはり自分たちの手で機械の修繕や改良ができるのは、我が社のメリットです」と井村社長も自慢げだ。
製造本部長の吉川伸昭氏
製造本部長の吉川伸昭氏
そして、さらに企業ニーズに応えるために、新技術の導入にも積極的だ。製造本部長の吉川伸昭氏が見せてくれたのは、ステルスインキを使ったトレーサビリティー技術だ。これは、一枚一枚の封筒にステルスインキによるロットナンバーを印字する技術。ブラックライトをあてることでロットナンバーが浮かび上がり、製造工場と機械、さらには製造日時が秒単位まで識別できるという。大量生産が必要な企業用封筒だからこそ、製造工程の管理を徹底することで、不良品や緊急時の対応をスムーズにできるようにしている。もし不良品が発生してしまった場合でも、この番号の情報と製造工場のビデオ映像を対照させることで、迅速な原因究明が可能。さらに不良が発生した製造日時から、ロットナンバーによって回収が必要な製品だけを判別することができるため、無駄のない回収対応ができる。
通常の光ではわからないが、 ブラックライトをあてることでロットナンバーが浮かび上がる
通常の光ではわからないが、 ブラックライトをあてることでロットナンバーが浮かび上がる
昨年放送されたテレビドラマ「陸王」では、老舗企業の足袋会社が自社の技術を守りつつ、新たなことに踏み出す姿が感動を呼んだが、同じ老舗企業のイムラ封筒でも、確かな技術力をもとに新しい技術を取り入れて一歩一歩を歩んでいる。クライアントからのあらゆるオーダーに応えられる技術力は、こうした温故知新の姿勢に支えられているのだろう。

「信頼」を送るものだからこそ、「信頼」のある企業に

個人情報保護法により、情報の適正な取り扱いと厳重な管理が企業に求められている今の時代。情報感度の高い企業は石橋を叩いてイムラ封筒にたどり着くという。「やはり100年続けてきた歴史とそこで得た信頼が我々のすべてだと思っています」と、先人から引き継いで歩んできた創業百年の重みを語る井村社長。今まではなかなか表に出ない産業ではあったが、世の中の声を拾うため、これからは“イムラ封筒の価値”を世の中に広く知ってもらえるようなアクションを起こしていきたい、と次の百年への意欲も見せている。

百年の歴史の中で得た信頼は揺るがないもの。相手に「信頼」を送る手紙だからこそ、それを守る封筒は信頼を置ける企業に任せたい。さらに、様々なニーズに答えるべく封筒にできることを研究し続けている企業であれば、戦略的な封筒活用もできるはずだ。封筒でできることを考えるなら、百年老舗の技術力に頼ってみてはいかがだろう。

2018年3月9日

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