緑茶飲料の先駆者 伊藤園「お~いお茶」が時代とともに
革新と進化を続ける理由
平成元年に発売が開始されてから、長年愛され続けてきた伊藤園の「お~いお茶」。今年発売30周年を迎えたことを記念して、「日本文化」と「地域密着」、「新時代」をテーマに、日本文化を象徴する場所で「日本の文化を未来へつなげようプロジェクト」を始動した。「令和元年記念ボトル『お~いお茶』」とその土地の銘菓も一緒に配布する期間限定のイベントが開催され、伊藤園社員によるお茶の振る舞いが行われるなど「お茶の楽しさ」を知ることができる。
今回は、サンプリングで配布される「令和元年記念ボトル『お~いお茶』」を製造している様子を、工場内で取材することが特別に許可された。長年に渡り「お~いお茶」が愛される秘訣、そして今後の伊藤園の戦略について、担当者であるマーケティング本部緑茶ブランドグループの鍋谷卓哉氏にお話を聞いた。
発売から30年。「お~いお茶」これまでの歩みと思い
——「お~いお茶」はお茶業界の中でも、他社に先駆けて様々なことを行ってきました。改めてその取り組みについて教えてください。
鍋谷氏「伊藤園はもともと食品問屋の会社から発足しています。食品問屋として“お茶の量り売り販売”もしていたのですが、伊藤園が創業した1960年代は、スーパーマーケットが流通業界で大きく成長を始めた時代でした。スーパーマーケットでは量り売りよりもパックに詰めた方がニーズに合うのではないかと考え、パックされたお茶の販売をおこなったのが伊藤園のはじまりです。
当時お茶といえば、家で急須で入れて飲むものと考えられていたのですが、1960年代~70年代にかけて缶入りコーヒーが登場し飲料の多様化が進みました。伊藤園では、お茶も外出先で飲みたい時に気軽に飲めるようにしたい、と缶入りの緑茶飲料を発売しました。さらに、缶では飲みかけの状態での保存や持ち歩きがしづらいという要望に合わせ、国内で初めてペットボトル入りの緑茶飲料の販売をはじめました。2000年代に入ると、ペットボトル入りの温かい緑茶飲料や、電子レンジでの再加温に対応したペットボトルが登場したのは記憶に新しいかもしれませんが、伊藤園はこれらを、業界に先駆けて販売しました。このように、伊藤園の持ち味は『革新と進化』であり、今でいうスタートアップ企業であると思います。」
時代の変化に合わせ「緑茶といえばこういうもの」といった常識を覆しつつ消費者のニーズに応え続けた30年間。しかし、お茶業界の先駆者であるがゆえの苦悩は絶えなかったという。
鍋谷氏「たとえば、それまで急須で入れていた緑茶を、初めて缶入りで商品化する検討をした際、焼き芋のような「芋臭」がすることや、お茶の味ではないような変わった風味になってしまうことも課題でした。これらの原因は「酸化」で、研究開発は常に「酸化」との戦い、つまり「鮮度」との戦いでした。
電子レンジ対応ペットボトルの開発は、営業担当の声で生まれました。お客様の声を聞いてみると、「温かい状態で飲みきれないことがある、でも温かいものをずっと飲みたい」と考えている方が多いことが分かりました。また、高齢の方は火を使うのが怖いと感じる方が多かったり、手間になり負担だと感じる方もおられますよね。そこで、これらのニーズに応えるために、ボトルも中身のお茶も再加温対応のものを開発しました。一度冷えたホット飲料を再加温するとお茶はどうしても劣化してしまいます。そこで、原料から鮮度がいいものを使用することで味の劣化を防ぐことに成功しました。電子レンジ対応ペットボトルについては、安全性に最大限配慮し、何度もテストを行なっています。
お茶は多くの清涼飲料水とは異なり、農作物の自然の風味を楽しみたいものです。そのため伊藤園は、特にお茶の葉に真摯に向き合うことを徹底してきました。どんなに良い原料でも飲料にする際にはさまざまな工程を経て加工します。なので、どれだけ元の原料が新鮮なものを使用しているか、どれだけ新鮮なままのものをお届けできるかは味に大きな影響が出るんです。これは30年間ずっとこだわってきたポイントだと思います。」
鮮度を損なわずにおいしいお茶をお客様に提供するため、伊藤園では契約農家に自社専用の茶葉の栽培を委託。お~いお茶の為の専用茶葉づくりを生産農家の方々と一緒に取り組んでいる。そして、ホット飲料用、コールド飲料用、リーフ製品用とそれぞれの商品ごとに最適なお茶の葉から開発しているという。
——「お~いお茶」の発売以降、さまざまなメーカーから緑茶飲料が発売されるようになりました。他社製品との差別化を図っているポイントはどこでしょうか。
鍋谷氏「伊藤園では茶畑から開発していることもあり、独自のバリューチェーンや価値があることが強みだと思います。飲料工場にも「お~いお茶」専用のラインを作り、独自の作り方で仕上げることにもこだわっています。とにかく、原料の鮮度にこだわること、そしてお~いお茶専用の茶畑でそれぞれの商品に合わせた茶葉を徹底してこだわり生産することはおいしさの差別化につながっています。」
——5月1日より全国各地でお茶を振る舞う「日本の文化を未来へつなげようプロジェクト」を行なっていますよね。このプロジェクトをはじめようとしたきっかけはどのようなことでしたか?
鍋谷氏「2018年の夏頃からこのプロジェクトの話がでていたんですが、2019年~2020年は日本にとって、元号が変わったりオリンピックが開催されたりと大きな変化の年ですよね。そこで、今しかできない仕事があるのではないかと考え、お客様と一緒にこの新時代を盛り上げお祝いしたいと考えたことがきっかけです。
我々は普段、お客様と直接触れ合う機会は多くはありません。イベントでは、縁起物の「新茶」入りの「令和元年記念ボトル『お~いお茶』」という非売品の特別なパッケージを社員自らお客様にお渡しし、Face to Faceでのコミュニケーションを取りたいと考えています。
「お~いお茶」は、この30年間勝手に売れてきたわけではありません。その土地の地元の人と歩んできたことに感謝する気持ちも込めて、イベント実施場所の土地の銘菓と一緒にお配りしています。お茶はもともとお茶請けと共に飲んでいた背景もありますし、「お~いお茶」を飲みながらみんなで会話を弾ませてほしいですね。」
ニューヨーカーが「栄養ドリンクよりもいい!」と絶賛する
「お~いお茶」の魅力
——「お~いお茶」は海外でも販売されているそうですね。どのような国で人気があるのでしょうか。
鍋谷氏「現在、30か国以上で販売しています。最初に進出したのはアメリカのニューヨーク、そして近年注目されているのはシリコンバレーです。
シリコンバレーのクリエイターからは、「お~いお茶」が「creative support drink」と呼ばれています。そんな風に呼ばれるようになったのは、サンフランシスコに駐在していた社員の活動がきっかけでした。その社員は、アメリカのIT企業に「お~いお茶」を根付かせたいと、さまざまなカンファレンスで「これは日本でNo.1のcoolな飲み物なんだ」と言いながら「お~いお茶」を配布したんです。そこからシリコンバレーの方々に火がついて、現在ではいろいろなIT企業のカフェテラスに「お~いお茶」が導入されています。」
——シリコンバレーをはじめとするアメリカではどんな飲まれ方をされているのでしょうか。
鍋谷氏「コーヒーやコーラを飲む感覚で、1日に500ミリリットルのペットボトルを1~2本飲んでいる方が多いようで、中には4~5本飲む人もいるようです。カフェイン・カテキン・テアニンなどの成分により、頭がすっきりするのが仕事中に合うことや、無糖のため健康に良いところがアメリカでも人気なようですね。もともと、海外でお茶といえば砂糖を入れた甘いものが定番の中で、甘くない「お~いお茶」は健康的でお茶本来のあまみやすっきりとした後味が「creative support drink」としてぴったりマッチしたのだと思います。」
——なぜこんなにも「お~いお茶」は海外の一流企業に親しまれているのでしょうか。
鍋谷氏「身体にいいことやおいしさはもちろんですが、さらに日本の「武士道精神」がうけている背景もありますね。徐々にシリコンバレー以外のアメリカ全土に広がり、近年ではニューヨーカーにも日常飲料として飲んでいただいています。目利きの厳しいアメリカ人に「お~いお茶」が受け入れられたことには自信を持てます。今後は中国などのアジア圏にも広めていきたいですね。」
改めて知ってほしい「お~いお茶」の良さ
——今後、「お~いお茶」をどのような世代の人に飲んでほしいですか。
鍋谷氏「我々の調べによると、現在、日本のご家庭で急須がある家は約40%程度だと言われています。今後ますます日本古来のお茶の文化を知らない若い人が増えていくことは、お茶を通して日本の文化を継承している伊藤園としては少し寂しい気もします。若い人たちにはお茶を飲む習慣を持っていただけたら嬉しいですね。お茶を入れてホッと一息つく時間というのは忙しい現代にも必要だと思いますし、そこから会話も生まれます。お茶のあるところに笑顔と会話があるんだ、ということをもっと知ってもらいたいと思います。
ただ、伊藤園として必ずしも急須至上主義!というわけではありません。若い人もペットボトルしか飲まないわけではなく、ご自宅ではパウダータイプやティーバッグのお茶をご自身でいれて飲んでいるんです。変化しているさまざまな飲まれ方のニーズにお応えしながら「お茶っていいよね」と思ってもらえたら嬉しいですね。」
——今後はどのような取り組みを検討していますか。
鍋谷氏「今後の伊藤園のプロモーションに関しては、たくさんの方に飲んでいただくことはもちろんですが、特に若い人たちにも効果的に届くような、興味を持ってもらうためのプロモーションを仕掛けていきたいと考えています。
「お~いお茶」はこれまで緑茶だけでなく、ほうじ茶・濃い茶などさまざまなニーズに応えてきました。これからも「お~いお茶」ブランドとして幅広いお客様の多様な味覚や飲まれ方に応えるための活動は引き続き行っていきたいと思います。」
「令和元年記念ボトル『お~いお茶』」 (限定品)
印象的だったのは、「伊藤園はシーズありきではなくニーズありきでの開発を大切にしている」ということ。さまざまなニーズに応えるための研究開発はかなり幅広く行っているというが、商品化するかどうかはお客様のニーズがあるかどうかで決まるという。そんな革新と進化を持ち味に、緑茶飲料業界を30年間牽引してきた伊藤園が自信を持ってお届けするのが「お~いお茶」ブランド。令和時代の幕開けと共にそのこだわりの味を改めて味わってみてはいかがだろうか。
伊藤園