“もったいない”が生んだ新商品 日常に欠かせない、炭酸水というスタンダードアイテム
甘味料、フレーバーを含まないプレーンな炭酸水のニーズが増加している。飲料メーカー各社より多数リリースされ、あらゆる店舗の冷蔵スペースにずらりと並べられている光景をよく見かけるが、キリンビバレッジは炭酸水ユーザーが抱く、現状の不満に着眼。それを解消すべく生まれたのが、8月23日に発売された「yosa-soda」である。開発に携わった、キリンビバレッジのマーケティング部 千葉真裕さん、山内絢子さん、営業推進担当 土谷友理恵さん、そしてデザイナーの石川竜太さんに話を聞いた。
新たな炭酸水のスタンダード「yosa-soda」
必要な時だけに使ってもらう、“ちょうど良さ”と“手軽さ”にこだわった
ユーザーが現在、店舗に並んでいる炭酸水に対して抱く不満とは何か。それは第一に一回で使い切れない容量だと言う。
「現在、市場で展開されている炭酸水の容量は大半が500mlなんです。以前、数人のお客様を集めてグループインタビューを行ったのですが、その容量だと使い切れないという不満の意見で共通していました。炭酸水は一度開けて時間が経ってしまうと、気が抜けて本来の美味しさを失ってしまい、結果的に捨ててしまうことが多くなる。もったいないという意識は我々も以前からもっていたので、その解決策として『yosa-soda』を開発しました」(千葉さん)
「yosa-soda」の最大の特徴として挙げられるのが、190mlという小容量の飲み切りサイズである点だ。営業推進担当の土谷友理恵さんは「『yosa-soda』は飲み切れる、使い切れるといった“ちょうど良さ”だけでなく、お客様が“手軽”に扱える使い勝手の良さにもこだわった商品」と言った上で次のように続ける。
「我々は昨年からECでの本格的な活動をはじめたのですが、ECではお水やお茶、炭酸水など日常的に飲まれる物を買われるお客様が多いんですね。今回開発した『yosa-soda』は、190mlの缶が20本入った箱売りで、平日に1本ずつ飲んでいくとちょうど1カ月で使い切れる量。そして自宅の玄関まで届けてくれる通販を利用すれば、炭酸水のある生活をより楽しんで頂けるのではないかと考えたんです。また、小容量であるが故の収納のしやすさもメリットだと考えています。500mlだと収納場所が冷蔵庫の蓋の内側になってしまうためストックがし辛い。その点、『yosa-soda』は冷蔵庫の棚部分やデッドスペースに立てて置くことができますし、箱の大きさも小さくコンパクトなためキッチンの空いた隙間に収めらやすいので、気軽にストックができると思います」(土谷さん)
マーケティング部 千葉真裕さん、営業推進担当 土谷友理恵さん
意味があり、その上キャッチーなネーミング
飲む量、サイズ感において、ちょうど良い按排。このコンセプトは商品名にも直結している。様々な案が出たものの、意味合いとキャッチーさが複合されていて最もバランスが良いと選ばれたのが「yosa-soda」だったそうだ。
「日常で使って頂くなかで愛着や親しみをもって頂ける商品にしたかったんです。『yosa-soda』という名前はちょっとダジャレ風に聞こえるかもしれませんが、使い勝手の良さをストレートに伝えられている、非常に覚えやすいネーミングだと思うんです」(千葉さん)
「美や健康を訴求するための候補もあったのですが、それだと限定的になってしまう。『yosa-soda』という名前であれば、より多くの方に受け入れて頂けるのではないかと思いました。
発売前にティザーとして特設ページをウェブ上で展開していたのですが、『こういう使い方はyosa-soda』という声がtwitter上に挙がるなど、お客様がその言葉を使って遊んでくれていました。それで親しみをもって頂けてるなと実感しましたね」(土谷さん)
マーケティング部 山内絢子さん
雫とグラスを用いた、記号的かつシンプルなデザイン
多くの人に受け入れてもらうためには、ファーストインプレッションも肝になってくる。つまり、炭酸水であることが一目で理解できるシンプルさがあり、買って、持っていて嬉しいデザインでなくてはならない。「yosa-soda」のデザインを担当したのは、麒麟山酒造や生茶のパッケージデザインで知られる新潟在住のデザイナー、石川竜太さんだ。
「お話を頂いた時に、商品の開発背景や飲料シーンの移り変わりをお聞きしました。それを受けてまず、女性が手に取りやすい物をと思ったのですが、190ml缶の炭酸水という今までになかったジャンルであることにも焦点を当て考え直しました。お茶や清涼飲料水、ビールなど、すでに多数の商品が存在し、定着しているジャンルにはイメージがすでにある。“炭酸水らしさ”のベースが作れたらと思い、デザインに取り組みました」(石川さん)
スカイブルーの大きな雫のなかにいくつかの気泡が散らばる、分かりやすく記号的なデザインは非常に爽やかな印象を与える。ちなみにこの雫にはある仕掛けが隠されている。複数の缶を並べ、雫同士の中間を取るとシルバーの部分がグラスのようなイメージが浮かび上がってくるのだ。毎日にグラス1杯の炭酸水を、このデザインにはそんなメッセージが込められている。
「様々なバリエーションでデザインをご提案頂いたのですが、雫とグラスというモチーフのメッセージ性に我々も非常に共感できたので、今回のデザインを採用しました。“生活に馴染む”というのがデザインテーマとしてある中で、思い切ったデザインを用いても良いかなという気持ちはあったのですが、水色以外の色を使うと味感が出てしまい、そうなると何の商品なのか分かりにくくなってしまう。大前提として“炭酸水らしい”と感じ取れる顔つきであることは大事にしました」(山内さん)
デザインに影響を与えた、もうひとつの要素がある。それはECのみでの展開であること。「店頭販売における中味や機能などのパッケージ訴求はウェブ画面の文章で伝えられるため、比較的自由にデザインすることができた」と石川さんは話す。
「店頭販売の商品であればこのパーツはこのくらいの大きさでここになくてはならないとか、“ヨサソーダ”とカタカナでルビを入れなくていけないとか、店頭販売の商品で考慮しなければならない点をECの場合は意識し過ぎる必要がないため、イメージ優先で組み立てることができたんです」(石川さん)
デザイナー 石川竜太さん
「yosa-soda」は、良い物を作ろうという想いの結合体
言うまでもないが、炭酸水は開けた一口目が最も美味しく飲める。気が抜けてしまうと味が変わり美味しくなくなってしまい、リラックスやリフレッシュをしたい気持ちが満たされなくなってしまう。
また炭酸水は以前、ウィスキーなどのお酒の割り材として使用される方が大半だったが、今では、健康目的のためにそのまま飲むというスタイルが女性を中心に伸びていき、ぶどうやブルーベリーなどのフルーツを炭酸水に浸けて楽しむユーザーも増えてきた。
需要の拡大に対応するためには美味しさを飲み切るまでキープする工夫が不可欠だった。
より良い炭酸水のある生活を送ってもらうために考えられたアイディア、デザイナーによる素直に良い物を作ろうというクリエイティビティが合わさって生まれた「yosa-soda」は、非常に合理的で真っ当なプロダクトであるように感じる。
「yosa-soda」はきっと、日常に欠かせない多くの生活者にとってのスタンダードアイテムになるだろう。
文:大隅祐輔 写真:林孝典
キリンビバレッジ