あらゆる人、状況に柔軟に対応し、さらに楽しさを拡張してくれる電子チケット
日常で不可欠なツールがデジタルになり、ITとの連結に伴って、従来、物質であることが当たり前だったものの電子化が急速に進行しつつある。しかし、そのすべてが既存のユーザーにとってフレンドリーであるとは限らない。今回、その“電子化”のひとつの好例として紹介する「tixeebox」は、特徴的なユーザーインターフェースをもつ、個性的かつ魅力あふれる電子チケット発券アプリになっている。同アプリを開発・運営するLive Stylesの取締役、飯塚優希さんに話を聞いた。
Live Stylesの取締役 飯塚優希さん
進化にあたって機能をスリム化し、本来の目的に立ち返る。
「tixeebox」の前身に当たる「tixee」は、スマートフォン一台でイベント検索、購入、発券、入場まで、チケットにまつわることほぼすべてを行う複合的なサービスだった。しかし「tixeebox」は“検索”と“購入”を省いた形で展開を行っている。一聴すると、従来よりサービスが薄くなったのでは、と訝しく感じてしまうが、飯塚さんは決してそうではないと語る。
「『tixee』の時代は我々がイベントを扱い、販売まで行っていたんです。それが発券と同等の大きな業務になっていた。元々、重きを置きたいポイントは、紙のチケットをスマートフォンの画面上に移行させるリプレイスメントだったんです。餅は餅屋じゃないですけれど、販売が得意な人、あるいはプロモーションが得意な人が必ずいて、我々は我々の目標を達成させることに絞った方が良いと考え、『tixeebox』へと進化するにあたって発券と入場だけに特化するようにしました」
業務をスリムにすることは決してネガティブなことではない。むしろ手広くやることで本来の目的を見失ってしまう可能性の方が高い。飯塚さん並びにLive Stylesの決断は正しかった。大規模なフェスティバルや万単位の入場者数を誇るライブイベントなどに「tixeebox」が採用されていることがそのひとつの証明だと言えるかもしれない。
未来を推測できる、イベントというコンテンツ。
「tixee」誕生から現在まで一貫している目標とは、データベースによるマーケティングを行い、それによってマネタイズしていくビジネスモデルをつくること。どういう属性のユーザーがどういうものを求めているのか、統計を取りデータ化し、その後の行動に結びつける。そのためにイベントは最適なコンテンツなのだと言う。先の通り、主催者にサービスを提供することに注力しているのが現状だ。
「データベースマーケティングは、購入履歴からレコメンドをつくり、次のアクションに紐づけていくのが一般的です。つまり過去の事実ではなく、いかに未来を推測できるかが重要。それを基本として我々はどうアプローチしていくべきかを考えました。イベントは開催されている場所にユーザーが必ず行くので、確約された情報があるんです。未来の行動がわかることこそ、『tixeebox』の狙いです」
そぎ落とされた結果、得られたものがある。それはユーザー登録の煩わしさがなくなったこと。「tixeebox」はSMS認証を済ませるだけで登録でき、至極一般的なスマートフォンのアビリティさえもっていれば即、簡単に行える上に、その他にもメリットがある。日々持ち歩くスマートフォンがチケットとなるため忘れる心配はほぼなく、日時をアナウンスしてくれるリマインド機能がついているため、“うっかり”を未然に防いでくれるのだ。
インターフェースこだわったサービス画面
電子のメリットは、様々な問題を解決させられること。
では、実際の使い方を紹介しよう。入場時にまずアプリを立ち上げ、該当のチケットを開く。するとスマートフォンの画面に疑似チケットが現れ、それを入場の窓口となる人がスワイプするだけ。インターフェースは極めてシンプルで直感的。要するに、ユーザーはアプリを見せるだけで、管理する側にも特別な端末、例えばQRコードを読み込むリーダーや顔認証をするための機械などは必要ない。
「設計に関しては『tixee』からほとんど変わっていません。立ち上がってから5、6年経っていて、はじめの頃は毎回現場に行って使い方を説明していましたが、簡単なオペレーションしか要らないので、皆さんが説明の後も抵抗なく使って頂いていると感じています」
簡単になる=注意力が失われる=ミスが起きやすくなる。この図式は決して誤りではないだろう。例えば、スマートフォンを操作しているうちに間違って自分でチケットをスワイプしてしまうということもあるかもしれない。そういったトラブルシューティングに関してはどういう対策をとっているのだろうか。
「そこは確かにユーザーにとっては懸念かなと思っているのですが、電子のメリットでカバーしています。入場時間の何分前からじゃないとチケットがもぎれない(=スワイプできない)といった制限をかけたり、それでも使ってしまった場合は主催者側で本人確認を行った後、元に戻したいという意向があれば我々の方で直すことができます。あと、ライブハウスなどでは地下に入って使うことが多いと思うので、チケットをオンライン状況で取得できてさえいれば入場できる仕組みをつくっています」
不当な転売、予期せぬ空席を防ぐための施策。
電子チケットの必要性を語る上で欠かせないのが、正規の価格ではなく高額な料金で売られる転売問題。紙の場合、販売元から手が離れてしまうとそこからのコントロールは難しい。今回、最後に挙げる「tixeebox」の利点は、最終的にチケットを誰がもっているかを管理・制限できることだ。
「『tixeebox』はSMSと紐づけています。つまり電話番号で管理しているので、違うスマートフォン端末でチケットをダウンロードしようとしてもできないようになっているんです。一方、主催者の望む転売強度に合わせた電子チケットの機能設定ができます。例えば自分がチケットを2枚持っていたとして、余った1枚を誰に渡すかを設定することも可能。もちろん、もう一人の人はユーザー登録が必要なのですが、先で説明した通り操作は単純です」
飯塚さんは、まずイベントの多くの主催者に受け入れてもらうことが「tixeebox」にとっての第一フェーズだと言う。転売によって本当に行きたいと思っていたお客さんが行けなくなることによる空席など、主催者にとってマイナスになることはできるだけなくしたい。それらを防ぐために、業務提携を結んでいるDMM.comと共にDMM Passストアというものをつくった。これは、例えば何かの都合でどうしてもイベントに行けなくなったお客さんと、行きたかったけれどもチケットを入手できなかったお客さん同士のマッチングを図り、定価での譲渡を可能にする仲介システムだ。
また、電子チケットの良さのひとつが、海外のユーザーでも自国にいながら気軽に買える点。しかも「tixeebox」は端末依存のアプリのため表示は母国語になる。例え、ユーザーが日本語を話せなくても、安心して使うことができるのだ。2020年に向けて海外からやってくる観光客が、様々な興業に訪れる機会もきっと多くなってくるはず。これから全世界のユーザーと寄り添うために、新たな付加価値を加えてさらなる展開を図る予定だと語る飯塚さん。「tixeebox」はあらゆる人、状況に柔軟に対応し、楽しさも拡張してくれる唯一無二の電子チケットなのだ。
文: 大隅祐輔 写真:林考典
Live Styles