外出自粛でベビーカーが売れない!? コロナ禍でママのインサイトをつかむピジョンの戦略
新型コロナウイルスの影響は、生活者の購買活動にも大きな変化を引き起こした。リアル店舗での消費が冷え込む一方、Eコマースは活況だ。消費者はいままで以上に情報をオンラインに求め、購買意欲をかきたてる“誰か”の発信を待っている。反面、供給側であるメーカーは、こうした状況に頭を抱えている。「モノと情報が溢れている現代、自社の発する情報は、真に必要としている人に届いているのだろうか」と。ユーザーがセグメントされた専門商材にとっては、なおさらだ。さらにコロナ禍では、「来てもらえない」「見てもらえない」「触れてもらえない」の三重苦がつきまとう。ウィズコロナの時代は、ただ情報を届けるだけではなく、購入を決断してもらえる“もう一押し”がいままで以上に必要だ。
今回は、こうした環境変化と制約の中、ベビーカーのセールスプロモーションを担ったピジョン株式会社 国内ベビー・ママ事業本部 IT推進部 コミュニケーショングループ 前川未来氏、プロモーションを支援した、株式会社マインドシェア・ママ・マーケティング・カンパニー マーケティングディレクター 内野彩美氏に、コロナ渦で取り組んだプロモーションの舞台裏について語っていただいた。
PROFILE
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ピジョン株式会社 国内ベビー・ママ事業本部 IT推進部 コミュニケーショングループ 前川未来氏
2015年に入社。2018年より商品プロモーションに携わる。2019年より現在まで、ベビーカーのプロモーションを担当。Web・店頭全般のプロモーション企画、実施を行っている。
PROFILE
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株式会社マインドシェア・ママ・マーケティング・カンパニー マーケティングディレクター内野彩美氏
2017年7月に入社。主催イベント「ベビー&キッズフェスタ」のディレクターとして、企画、運営、協賛企業営業を約3年間担う。さらに、メディア「ママノワ」の企画、編集にも携わる。現在は企画チームのリーダーを務め、ママスタッフと共にママ目線でのメディア運営を行っている。
「従来のプロモーションが通用しない」。外出自粛&営業自粛の風が新商品発売を直撃
ピジョン株式会社は、育児・マタニティ製品全般を取り扱う、ママのみならず誰もが知る企業である。経営理念である「愛」のもと、世界をもっと赤ちゃんにやさしい場所にすべく、さまざまな製品を展開。プロモーションもまた、その製品によって育児や生活が、より豊かに、より便利になるイメージの醸成を目指してきた。なかでも重視しているのは、「シーンをイメージできたり、自分ごと化できたりして、関心を示してもらえるコンテンツづくり」と、前川氏は話す。
前川氏
「ママには、産前から商品を検討し始めるという行動特性があります。ですので、授乳や沐浴など出産後の生活の一つひとつの場面でどのような体験が待っているのか、そのイメージを早くから持っていただくことが大切、と考えています。ただ、いまの時代は妊娠中でも働いている方が多かったり、体調管理が必要で安静に過ごす方もいたりします。そういう生活のなかにあっても、見たい、知りたいという気持ちを喚起できる情報提供を意識しています」
しかし、今般のコロナの影響により、前川氏は従来のプロモーションが通用しない現実を突き付けられた。
前川氏
「わたしが担当するベビーカーは、お出かけ用品の最需要期である春に新製品を発売しました。今回、プロモーションを行ったA形ベビーカー『ランフィ』は3月に、B形ベビーカー『ビングル』は5月にそれぞれ発売したのですが、外出自粛、営業自粛の時期と重なり、ママたちにベビーカーの必要性を感じてもらえない印象がありました」
ベビーカーは、出産する前から店頭で触ったり、実際に赤ちゃんを乗せたりしながら、購入を検討する製品である。オフィシャルサイトや記事メディアで情報を発信し、興味を醸成したら、その受け皿となるリアルへの誘引は必須だ。しかし、製品を取り扱う店舗が休業してしまうと、そういった場を提供できず、購入にはつながらない。
前川氏
「さらに、ベビーカーはお出かけ用品です。外出自粛要請が出たことで、出かけられない=ベビーカーの購入は保留、と考えるママが増えたことも、この状況に追い討ちをかけました。当社ウェブサイト「ピジョンインフォ」の調査によると、コロナの感染拡大により、赤ちゃんとのお出かけに不安に感じているママは約75%にのぼることが分かっており、赤ちゃんを連れての外出は控えていた人が多いことを示唆しています。こうした背景から、プロモーションには非常に苦戦し、コロナ禍でも効果を出せる施策を早急に打つ必要性を感じていました」
コロナ禍でも確実な成果を生み出す、「ママノワ」のサービスとは?
マインドシェア・ママ・マーケティング・カンパニー(以下、M3C) 内野氏は、「ピジョンさんのように、従来のプロモーション施策が通用しないと戸惑う企業は、増加しています」と、話す。
内野氏
「コロナは、どの企業にもあるプロモーションのセオリーを機能不全にしてしまいました。製品に触れてもらったり、イベントや体験会を実施してユーザーから直接話を聞いたりすることは、まだまだ難しい。モデルを使った撮影などでも苦労されていると聞きます」
こうした悩める企業が、M3Cが手がける、ママに特化したマーケティングサービス「ママノワ」のコンテンツを、従来のプロモーション施策に組み入れ活用するケースが増えているという。企業が注目するのは、以下の4つのポイントだ。
1. アクティブなママが集う10万人の体験を軸としたママの巨大コミュニティ
全国10万人のママが会員登録するウェブメディア「ママノワ」を運営。月間40万PVを誇るここをプラットフォームに、ママの体験した口コミ情報をはじめ、体験モニター情報、オリジナル企画を配信している。「新しい体験や子どものためになることに敏感に反応するママが多く集まっています。その裏には、『同じ悩みを抱えているママに有益な情報を届けたい』『情報を発信することで、社会と繋がりたい』という想いのあることが、アンケート調査から分かっています(※1)」
ママノワの特長は、会員すべての子月齢・子年齢を把握していること。そのため企業がモニター募集やプレゼント企画を実施する場合も、こうした精緻なセグメントにピンポイントかつ確実に訴求できるため、製品によっては、平均エンゲージメント率が10%を超えることもめずらしくはない。
ママノワが現在、最も注力しているのは、ママモニターによる投稿動画を企業のプロモーションツールとして活用することができるサービスである。「動画を集めた特集記事は、写真と口コミで構成されたページと比べ、ページ滞在時間が2倍ほど長くなるという結果が出ています」(内野氏)。
ピジョン「Bingle BB0 ビングル ビービーゼロ」17
モニターママがSNSに投稿した動画は、総フォロワー数10万人にリーチ。さらには、5億UB(ユニークブラウザ)を有するママノワ独自のオンライン行動データを基に、子年齢でセグメントしたママたちのSNS上に広告が表示される等の精緻なセグメントでのターゲティング配信が可能となっている。
このほか、クライアント企業による動画の二次利用が可能、「製品名 口コミ」の検索結果においてGoogle検索で上位表示が期待できる点も魅力だ。
ピジョン別商品での実績例
内野氏
「たとえば、動画サービスを活用いただければ、モニターのママさんに直接お会いすることなく商品をお渡しでき、体験してもらえます。広く拡散することで、他のママも自分の子年齢含め境遇が近いからこそ使用感を疑似体験できます。これらママノワのサービスを介し、コロナで諦めなければならなかった施策に近い取り組みができることを、メリットに感じていただいています」
ピジョン×ママノワ プロモーション施策の実例を紹介
数々の強みを持つ、このママノワのサービスを、ベビーカー『ランフィ』『ビングル』のプロモーションに活用したピジョン。ここからは具体的な施策について伺った。
前川氏
「今回は、『体験動画タイアップ記事プラン』を活用しました。流れとしては、ベビーカーの使用月齢に合わせてセグメントした会員の方にモニター企画をご案内し、当選された方に製品をお送りしました。モニターさんには製品をお使いの様子を動画で撮影していただき、ご自身のSNSに投稿していただきました。同時に、これらの動画をまとめたタイアップ記事を『ママノワ』のウェブサイトで公開していただき、記事が広く拡散するように誘導広告を、やはり子年齢でセグメントされたママに向け、ターゲティング配信していただきました」
ママノワのサービスを活用するうえで、プランの核である動画コンテンツは、一番の決め手になった、と前川氏は振り返る。
前川氏
「コロナ禍で撮影そのものが難しい事情もさることながら、多くのコンテンツを制作する労力の割けない当社にとって、動画は非常に欲しいコンテンツ。ママノワさんの力を借りて良質な動画を量産できる点は、とても魅力でした」
また、口コミを増やせる点も「ピジョンファンを増やすうえで重要な施策」と、前川氏は言葉を継ぐ。
前川氏
「ベビーカーのカテゴリでは、当社は後発メーカーにあたります。ママたちの購買決定にあたっては、身近な人の口コミが大きな影響力を持つことから、こうした声をネット上に増やすことで、当社製品を選択肢の一つにしていただきたい思いがありました。かつ、当社は今年からベビーカーのブランド思想をカタチにした『FUNRIDE PIGEON DESIGN』の訴求をスタートしています。ここには、ママパパと赤ちゃんに最高のお出かけをお届けしたい、という理念があります。こうした想いを感じていただくには、実際に当社のベビーカーをお使いいただくのが一番。そのための前段として、まずは動画を含めたリアルをイメージできる口コミでお出かけを楽しむママパパと赤ちゃんの姿を発信することが大切だと考えました」
そう話す前川氏は、ママノワの拡散力を高く評価。社内でも反響は大きい、と顔をほころばす。
前川氏
「ママノワの配信ツールは、月齢単位だけでなく妊娠週でもターゲティングできます。ここまで正確かつ細かく設定できるなら、弊社のようにターゲットが狭い商材の場合でも費用対効果も十分に見込めます。実際、ママノワのウェブページから当社ウェブサイトへの流入数は多く、認知拡大に貢献していると感じています。そして、やはり動画の効果は大きい。動画があることで、購入までのアクションが非常に短くなると考えています。決断を後押しする、このコンテンツ力は、静的な媒体にはない強み。これらを二次利用という形で、自社で実装するプロモーションに活用できることもまた、ありがたいですね」
ウィズコロナの時代、企業が求めるべきは「リアリティさ」
ウィズコロナの時代は、新しいチャレンジの必要性を説き始めている。リアルと同等の体験がウェブに求められるなか、ママの気持ちを動かすには、ママのインサイトを正しく認識し、行動へとつなげるコンテンツづくりは欠かせない。こうした流れをつかむうえで、ママ向け商材を扱う企業には、どういった視点が大切になっていくのだろう。
内野氏
「ママが消費活動において重要視しているのは、自分と子年齢や子月齢に合わせた状況が近しい属性の人の情報や体験です。育児の悩みや喜びを共有・共感できる人に対し、絶大な信頼を寄せているんです。ここは今後より強固になっていくのは確かでしょう。こうしたリアリティさをいかに生み出していくのかが、今後のマーケティングやプロモーションのカギを握ると考えます」
前川氏
「リアリティがあること。まさに、これに尽きると思います。当社では、ベビーカーのイメージムービーを店頭で流していますが、それはあくまで企業側が伝えたいメッセージやイメージを表現しているものであり、やはりイメージの域を出ません。『当社の製品はおすすめですよ』と、いくらお伝えしても、ママの心に刺さらないことも多いんですね。ですが、ママノワさんのように、ママと双方向のコミュニケーションを図っていらっしゃるメディアを介せば、当社の製品の良さをママたちに刺さる形で伝えてもらえます。むしろ、いまの時代は、こうした打ち出し方でなければ製品は売れません。そう考えると、ママノワさんは本当に心強い存在です」
このように、ママノワに対する企業の期待値は高い。こうした想いに、内野氏は以下のように応えていくという。
内野氏
「当社はママに寄り添った事業を長く続けており、ママたちと一緒に築き上げてきたものも多い。これからもママの領域において一番のプラットフォームを目指し、企業様のプロモーションの場として、ママに寄り添ったメディアとして、ママが必要とする情報を正しく確実にお届けしていきます」
的確なターゲティング、確かなコンテンツ力、抜群の拡散力は、プロモーションを成功に導くうえで欠かせない要素だ。これらをあわせ持つママノワは、これからも企業の課題を解決しながら、ママの笑顔を増やし続ける。
ウィズコロナの時代、ママと企業をつなぐ“架け橋”として、ママノワの存在感は、より増していくことだろう。
※1「日本のママ白書2012~2019」調べ
https://www.mindshare.co.jp/mama/whitepaper2019/
株式会社マインドシェア・ママ・マーケティング・カンパニー