安倍晋三前総理大臣と岸信夫現防衛大臣の実兄で、三菱商事パッケージング代表取締役社長の安倍寛信氏が初の著書『安倍家の素顔 ―安倍家長男が語る家族の日常― (オデッセー出版)』を出版した。
岸信介元総理大臣を輩出した岸家と安倍晋太郎元外務大臣を輩出した安倍家という両家の系譜を継ぐ著者が、貴重な秘蔵エピソードを織り交ぜながら安倍家の素顔を語った回顧録的な一冊である本書。祖父の代から父の代、そして現在へと三世代に渡る一家の物語が、温かい思い出とともに家族視点で綴られている。今回は著者の安倍寛信氏にインタビュー。安倍家の長兄として伝えたかったこと、一家の歴史を掘り起こす中で見つけた気付きや発見、そして第一次・第二次合わせて憲政史上最長となる政権のリーダーを担った実の弟のことをどういう眼差しで見守ってきたかなど、本書に込めた想いを語ってもらった。
安倍家のありのままの姿を伝えたかった
―本書には世間に伝わっている安倍家という家族の真実の部分だけでなく、子供時代の夏休みに山口の青海島で過ごした晋三さんとの思い出や、二人の弟さんが政治の道に進まれることになった裏話、あるいは安倍家に関わられてきた方々への感謝の想いなど、まさに家族だからこそ語れる安倍家の秘話が詰まっています。とても読み応えのある一冊でしたが、まずはこのタイミングで本書を書こうと思った理由をお聞かせください。
安倍氏
「構想自体は数年前からあったもので、前々から集めていた安倍家に関する資料をいつか何かの形でまとめたいと考えていました。本当はもう少し自分の中で温めておきたかったのですが、去年の夏に弟の晋三が健康上の理由で政権を退くことになりまして、せっかくならば、より多くの方に興味を持っていただけるうちにと思い、このタイミングで本にすることを決めました。本を出すことは弟たちにも相談していて、二人ともできる限り協力するよって言ってくれたので嬉しかったです。実際に彼らの協力がなければ書けなかったところもあるので、本当に感謝しています」
―『安倍家の素顔』を伝える上で、特にこだわったことは何でしょうか。
安倍氏
「国会議員が多い家系なのでどうしても目立ってしまうことがありますが、マスコミなどで報じられるものの中には真実ではないことも混じっていますから、できるだけ冷静な視点に立って家族のありのままの姿が伝わるように心がけました。子供の頃の思い出話なども交えながら、正真正銘な安倍家の素顔を知っていただきたいという想いで書いています」
―政権を退陣された晋三さんに対する思いは本書の中でも綴られていますが、約7年8カ月という長期政権の間、寛信さんは晋三さんのことをどのような眼差しで見守ってこられたのでしょうか。
安倍氏
「我が家では月に一度くらいの頻度で、家族が母の家に集まって食事をするような機会がありましたが、そこで晋三ともいろいろなことを話してきました。ただし、その時は向こうも政治の話はしないし、私も弟の仕事にはできるだけ干渉しないようにしています。たまにそういう話題になった時には私なりの意見を言ったこともありますが、弟がそれを参考にしたことはありません(笑)。総理大臣として一生懸命やっている姿を見て陰ながらがんばれと応援してきましたが、やはり体調のことはいつも気がかりでした。言葉通り、命をかけて政治にあたっていたとしても、無理をして健康を害したり、ましてや寿命を縮めるようなことはあって欲しくないというのが、身内としての正直な想いでした。何にしても健康が第一なので、そういう面ではできる限りのアドバイスをしてきました」
―月に一度の頻度でご兄弟が集まるというのは、安倍家の仲の良さの証ですね。
安倍氏
「今年で93歳になる母が、おかげさまで今も元気でいてくれることが大きいです。その上で取り立てて仲の良い兄弟とも思わないけれど、特に大きな喧嘩をした記憶もなく、そこはとても幸せなことだと思っています。どうしてこの歳までそういう関係でいられるかを考えてみると、仕事も住む世界もそれぞれ違っていて、昔からお互いのことに干渉してこなかったことが良かったのだろうと思います」
―住む世界が違うという点では、寛信さんはビジネスの道に進み、晋三さんと信夫さんは政治の道に進まれました。安倍晋太郎さんのご長男として「どうして政治の道に進まなかったのか」というのは、きっといろんな方から何回も聞かれている質問だと思います。そのあたりは本書の中でも詳しく触れられていますが、今になってみて、この選択は正しかったと思いますか。
安倍氏
「そもそも政治家は家業ではないですからね。親の代からの基盤があって、政治家になりやすい環境は揃っていたとはいえ、何が何でも継いでいかなければならないというものではなく、たまたま家族の中に志した人がいたからこそ今の形があるのだと思います。その上で自分がこの道を選んだことは正解だと思っています。やはり人はそれぞれ自分に向いたことをやるのがいいですからね。本の中にも書いていますが、私は昔、父の選挙活動を手伝っている時に体を壊したことがあるんです。同じことをやるにも、それを好きでやる人と苦手な人とではエネルギーの消耗の仕方が違いますし、自分に合わないことを無理してやっていると体を悪くします。そういう点も踏まえて、私には会社員の方が水に合っていました。商社の仕事を通じていろいろな経験をさせてもらいましたし、楽しいこともたくさんありましたから、この道を選んで本当に良かったと思っています」
日本の未来を語り合った二人の祖父
―岸信介さんや安倍晋太郎さんなど、偉大な先代から安倍家の三兄弟に受け継がれたDNAのようなものを挙げるとしたら何だと思いますか。
安倍氏
「祖父の代からそういうものを見つけるのは難しいのですが、3人ともグローバルな視野を持っているのは間違いなく父に似た部分です。私も海外赴任を経験しましたし、晋三も首相在任中はものすごく真剣に外交問題に取り組みました。信夫も商社勤めを経てから政治の道に入り、今は防衛大臣として外交的な役割も担っています。そういうところは外務大臣時代に“空飛ぶ大臣”と呼ばれるほど世界を飛び回っていた父の影響ですね」
―5章立てで綴られた本書の中では、母方のお爺様である岸信介さんと同じく、父方のお爺様である安倍寛さんについても一章を割いて書かれています。安倍寛さんは寛信さんが生まれる少し前に亡くなられていますから、おそらく調べることも多かったでしょうし、読んでいて特に強い思い入れを感じた部分でした。
安倍氏
「岸信介についてはいろんなところでいろんな話が語られているので皆さんもよくご存知だと思います。その一方で父方の祖父の安倍寛も国会議員まで務めた政治家でしたが、戦後間もなく51歳の若さで亡くなったこともあり、政治の世界で大きく脚光を浴びることはありませんでした。ただ、地元の山口で祖父の生前を知る方々に話を伺うと、とてもしっかりした考えを持った政治家だったことが分かってきたんです。そこで安倍家について書くならば、父方の祖父についても詳しくお伝えしたいと考えていました」
―安倍寛さんのお話を読むと、結核を患って病床に伏せながらも村の人から村長になることを懇願されるなど人望に厚かったお人柄が伝わってきました。
安倍氏
「あの時代にああいう健康状態にあっても日本という国のことを本当によく考えていて、物凄い信念の持ち主だったんですね。中央政界に出てからも、日本がとにかく戦争に突き進んでいた時代に戦争反対を掲げて当時の東條内閣と真っ向から対立したり。特高警察から狙われるかもしれないのに、そういうことにもお構いなしで自分の考えを貫いた。しかも翼賛選挙の時も非推薦という圧倒的不利な中で出馬して当選するなど、とても気骨ある人だったということを知りました。そういう性格は父の晋太郎にも受け継がれていて、安倍家というのは代々リベラルな考え方が受け継がれてきた家であることを改めて認識しました」
―お話の中には、山口の安倍家で安倍寛さんと岸信介さんが日本の未来について語り合ったというエピソードも書かれています。
安倍氏
「世間では対照的な二人と見られていますが、実際のところはそうではなかったと私は考えています。岸信介は安倍寛に比べて現実的な考えを持った政治家でしたが、戦争に進もうとするあの時代において、何が日本にとって最も良い選択かを考えることに腐心していました。そうした中でリベラル的な発想も取り入れながら政策を作っていたところもあり、そういう部分で二人には通じるところもあったと思うんです」
家族は本当に信頼できる心の拠り所
―本書では本の顔となる題字をお母様の洋子さんに書いていただいたそうですね。この題字があることによって、表紙がびしっと締まっている感じがします。
安倍氏
「母も歳を重ねてひとつのことに集中することが減っていますから、ちょうどいい機会だから、ぜひ題字を書いてよとお願いしたんです。祖父の岸信介は書を嗜んだことで知られていますが、岸家の血筋はどなたも達筆の腕前で、母も昔から字を書くことが得意でした。久しぶりに墨を磨るところから一生懸命始めて、何度も練習しながらこの題字を仕上げてくれました。母にも明るい気持ちになってもらえて、私たち兄弟にとっても忘れられない思い出作りになりました」
―お話もそろそろ終わりに近付いてきましたが、改めて、この『安倍家の素顔』をどういう方にどんな風に読んでいただきたいという想いはありますか。
安倍氏
「最初にも述べましたが、安倍家という家族の実像を嘘偽りなく素直に書きました。読んでいただく方の年代などについては特にこだわりはありませんが、これまで安倍家のことや岸家のこと、あるいは弟の晋三のことについて誤った情報も多く広まっているので、もしそういったものに流されている方がいたら、この本を読んで本当の真実を知っていただきたいと思っています」
―最後に寛信さんにとって「家族」とはなにか。端的な言葉で教えてください。
安倍氏
「やっぱり何かあった時には一番の心の支えになってくれる。打算抜きで本当に信頼できる心の拠り所。そういう存在です」
【書籍情報】 『安倍家の素顔 ―安倍家長男が語る家族の日常― (オデッセー出版)』
岸信介、安倍寛を祖父に、安倍晋太郎を父に持つ安倍家の長男から見た政治一家の家族の素顔。長男はビジネスの道に、弟晋三と信夫は政治の道へ進んだ。3兄弟の少年時代、山口県青海島で過ごした夏休み、写真でしか知らない祖父・安倍寛の足跡、せっかちな父・晋太郎との思い出、好々爺の祖父・岸信介とのふれあいと知られざる逸話、母・洋子が暮らす富ヶ谷の日常、政治家の家庭生活、長男が政治家を目指さなかった理由などを素直に語る。家族の素顔が垣間見える写真8ページに加え、家系図や年表も掲載。
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PROFILE
三菱商事パッケージング代表取締役社長 安倍寛信
1952年5月30日生まれ。
1975年3月 成蹊大学経済学部卒業
1975年4月 三菱商事株式会社入社(資材第三部)
2012年6月 三菱商事パッケージング株式会社代表取締役
2021年2月 現在に至る
趣味:釣り・旅行
【お詫びと訂正のお知らせ】
『安倍家の素顔 ―安倍家長男が語る家族の日常― (オデッセー出版)』
●P105 ページ(10行目~11行目)
【誤】
同盟国アメリカとは、平成28(2016)年に、当時のオバマ大統領を、8月6日に広島で開かれた原爆記念式典に招いたことは大きな成果です。【正】
平成28(2016)年、G7伊勢志摩サミット終了後の5月27日、オバマ大統領は、現職のアメリカ大統領として初めて広島を訪問しています。●P105 ページ(13行目)
【誤】 関係悪
【訂正】隔たり関係者の皆様に、大変ご迷惑をおかけいたしました。
ここに深くお詫び申し上げます。株式会社オデッセー出版
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