ニッポン放送 檜原社長が語る いつの時代も「コンテンツファースト」で熱狂を作り続ける。会社の強みを最大化するためのデジタルシフト

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放送事業を軸に、新しい事業を模索する

――現在、株式会社ニッポン放送で取り組んでいる事業について教えてください。

檜原:言うまでもなくメイン事業はラジオ放送で、コンテンツの制作から放送までを一貫して行い、広告収入で収益をあげています。また、インターネットのコンテンツの企画・制作なども進めています。その他にも、イベント制作やラジオショッピングなど、デジタル・リアルに関わらず幅広い領域で事業を展開しています。

特に最近は新規ビジネスにも力を入れており、人工知能(AI)による音声コンテンツの分析・検索を可能にする技術を持つイスラエルのベンチャー企業「Audioburst(オーディオ バースト)」や建設現場と職人を繋ぐ、スマートフォンのマッチングアプリ「助太刀(すけだち)」を運営する会社「助太刀」などにも出資をし、事業の幅を広げています。

ラジオ業界としては、2010年にラジオ業界全体でデジタル化を進めるため、パソコンやスマートフォンなど様々なデバイスでラジオが聴けるサービス『radiko(ラジコ)』の立ち上げを行い、現在では、日本最大の音声プラットフォームに成長しています。今のラジオブームは『radiko』がもたらしたと言っても過言ではないと思います。

自社の魅力を最大化するために、デジタルシフトを活用する

――デジタルシフトを進める上で意識していたことはありますか?

檜原:ラジオメディアの特徴に、リスナーとパーソナリティの双方向のコミュニケーションが言われますが、そのツールがハガキからメールになり、今ではtwitterなどのSNSを活用することでリアルタイムにコミュニケーションを取ることが可能になっています。もともとラジオとデジタルは相性がいいと考えていましたが、今の時代、デジタルを活用することでいろんな選択肢が増えると考えています。

――生き残りをかけた事業展開を考える上で、気をつけていることはなんですか?

檜原:昨今起こっている世の中のパラダイムシフトを正しく認識することです。例えばリスナーの動きについて、以前はリアルタイムで聞かれることを前提に、放送する時間帯ごとに内容を考えていました。しかし最近、リスナーはあらゆるデバイスを駆使し、好きな時間にコンテンツを楽しむようになりました。これまで放送局が作っていたタイムテーブルはユーザーが作る時代に変わってきたのです。すると、夜は若者が、朝は主婦が聴くだろうといったこれまでの常識が通用しなくなってきました。

また、かつてはマスメディアが持つ影響力が大きく、音楽でもタレントでも、世の中で流行しているものはすべての人が知っているものでした。しかし、最近は一部の人しか知らないにも関わらず、日本武道館や東京ドームをいっぱいにできるコンテンツが出てきています。コンテンツ制作の担い手としては、そういう狭いけど深い熱狂の発掘にも力を入れなければいけません。

さらに、リスナーの求めるサービスやコンテンツはスピーディーに変化しています。そんな変化に合わせて、多くの会社が「変わること」を求められるようになりました。しかし、流行しているデジタルツールや人々の関心は移り変わるので、特定のやり方にこだわりすぎるのは危険だと思っています。一時期結果が出たとしても、次の瞬間にはどうなっているかわからないからです。

デジタル領域は、新しく生まれた世界だからこそ自由度は高い一方、トラブルが起きやすい側面もあります。例えば、放送では放送法や放送倫理などを順守する必要があります。一方、インターネットではその分尖ったコンテンツを作りやすくなる反面、炎上するリスクもあります。必要なのは、デジタルがもたらす恩恵もそれに伴うリスクも把握した上で、デジタルシフトをとらえることだと思います。

熱狂を生むコンテンツを作るため「現場の力」を活かす体制作りを

――デジタルシフトをツールとして使うため、まず最初にすべきことはなんですか?

檜原:変化する世の中でも、普遍的に価値を発揮し続けることができるもの、すなわち自社の強みを再認識することだと思います。ニッポン放送の場合、その強みは「熱狂」を生み出す面白いコンテンツを作れるところだと思っています。ラジオ放送の強みである、リスナーとパーソナリティーの距離感の近さと、自社で創業以来磨き続けてきたコンテンツの面白さを掛け合わせることで、この「熱狂」は生まれるのだと思います。それに気づいてからは「コンテンツファースト」を推奨し、全社でコンテンツの作り込みに注力するようになりました。

――具体的にどんなことに注力していますか?

檜原:社員がまず「熱狂」を持って番組作りができる環境作りです。やはり、どこまで行っても、コンテンツを作っているのは現場の人であり、その人の熱量次第でクオリティが変わってくると思います。面白い企画づくりや、リスナーにハマるパーソナリティーの発掘などは正直なところやってみないとわからないものも多いですが、そんな中で、突き進んでいくには作り手の情熱が必要だと思っています。

具体的に一番大きく手を加えたのは組織体制で、ニッポン放送にとってコンテンツが大事ということをより明確にするために、編成局をコンテンツプランニング局、営業局をコンテンツビジネス局に名称変更しました。さらに、コンテンツプロデュースルームを新たに組織し、もともと編成局に所属していたプロデューサーをコンテンツビジネス(営業)局にも所属する形に変更しました。プロデューサーが制作とビジネスの現場を見ることで、打ち合わせなど社内調整の手間を省き、意思決定がよりスムーズに行えるようにしました。情熱を持った作り手の思いをよりスピーディーに番組づくりに反映させる狙いもあります。

「シフト」から「アライアンス」へ

――最後に、今後の展望を教えてください。

檜原:社長就任時に社員には「面白いこと」「新しいこと」「誇りに思えること」をやっていこう、という話をしました。今後も、会社としての軸はブラさずに「コンテンツファースト」をモットーにリスナーから支持される番組作りに力を入れていきたいと思います。

一方、日進月歩で生まれる新たなテクノロジーやビジネススキームについては、全て自社で内製しようと考えるのではなく、専門の企業とアライアンスを組むことで、取り入れていければと思います。あくまでも、自社が注力すべきは、強みをしっかり伸ばすことだと考えていて、専門外の領域については、周りの力を借りた方がより、早く、高いクオリティのものが実装できると考えているからです。

私の感覚では「デジタルシフト」というよりは「アライアンス」が必要な時代と思っています。一時的なトレンドに踊らされず、捨てるべきものと捨てちゃいけないものがあることを理解し、変化の激しい時代だからこそ、変わらずあり続ける自分たちの強みを軸に、ブレない経営を続けていきたいと思います。
檜原麻希(Maki Hiwara)
株式会社ニッポン放送 代表取締役社長

1985年に慶應大学卒業後、ニッポン放送に入社。2009年デジタル事業局長、2011年編成局長などを歴任。2015年には取締役、2018年に常務取締役に就任。インターネットラジオ「Suono Dolce」などデジタル領域へ挑戦する様々なコンテンツの立ち上げに関わる。「面白いこと」「新しいこと」「誇りに思えること」にこだわり、良質なコンテンツ作りに力を入れている。

2019年10月8日

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