2019年10月16日

オンラインとオフラインが融合した顧客体験を
オイシックス・ラ・大地、奥谷孝司氏が考える「企業が生き残るために不可欠なマーケティング」とは

オプトホールディング

オンラインとオフラインを融合した世界が到来している。変わりゆく社会で企業が生き残るために必要なのは、リアルとデジタルの双方が密接に繋がった1つの世界と捉えた上で、マーケティング施策を考えていくことだ。デジタルシフト時代に有効なマーケティング手法とは、想定すべき消費者像とは、目指すべきビジネスモデルとは何なのか?

良品計画でヒット商品の開発やアプリ「MUJI passport」のプロデュースなどを手がけたのちオイシックス・ラ・大地株式会社に入社し、現在同社執行役員 統合マーケティング本部・店舗外販事業部管掌、店舗外販事業部 部長、COCO(Chief Omni-Channel Officer)を務めるなど、リアル店舗とデジタル双方のマーケティングを手がける奥谷孝司氏に、株式会社オプト エグゼクティブ・スペシャリスト 兼 OMOコンサルティング部 部長の伴大二郎氏が伺い、デジタルシフト時代に必要なマーケティングについて語り合った。

オンライン・オフライン関係なく、「優れた場」を生み出す

伴:まずは、デジタルシフトが進む中で、今後マーケティングや販売・流通がどう変わっていくとお考えですか?

奥谷:マーケティングにおいては、オフラインだけでなく、オンラインも含めた「優れた場づくり」が重要だと考えています。

例えば、メルカリはアプリを中心に人が繋がる場を作ってリアルな場を中心に展開されてきたCtoC市場を活性化させましたし、ZOZOはリアル店舗での購入が主流だった洋服をオンラインで購入できる場を生み出しました。オンライン・オフライン関係なく「優れた場」を生み出したからこそ、ビジネスがうまくいったのです。

伴:以前、奥谷さんが良品計画で担当されていた「MUJI passport」のアプリも場の1つですよね。ただ「優れた場」をつくるためには、そこに集まる顧客が必要です。集客に関してはどのように設計していますか。

奥谷:集客に関しては、タッチポイントをつくることが重要だと思っています。

例えばオイシックスでは、これまではオンラインを中心に顧客を獲得して会員化してきましたが、最近はテレビCMを放映したり、テレビ番組に代表が出演したりと、マスメディアを使った接点を増やしています。また、店舗を作って外販したり、必要な食材とレシピをセットにしたミールキットをスーパーマーケットに卸したりするなど、リアル店舗での接点も増やしていますね。それから、僕が重要なオフラインのタッチポイントの1つだと考えているのは保育園です。経営統合したらでぃっしゅぼーやの事業の1つとして、保育園への食材宅配サービスを展開しています。家ではなかなかご飯を食べてくれない子どもが、保育園のご飯は食べてくれるとなったら、オイシックスの提供する食に対して保護者が良い印象を持ってくれますよね。

保育園の保護者の層は、オイシックスがアプローチしたいターゲットそのものです。もちろん購入に至るプロセスの可視化は現状できませんが、そのようなコミュニケーションが後々効いてくると思っています。

冷静かつ合理的に購買する消費者たち 左脳を刺激するブランド施策が必須に

伴:オイシックスさんは顧客との関係性の継続が重要なサブスクリプションモデルのビジネスなので、DtoC(Direct to Consumer )で消費者一人ひとりをより知っているという強みがありますよね。デジタル時代の消費者については、どう考えていますか。

奥谷:モノや情報が溢れる中で商品を選ばなければならない消費者は、かつてよりも合理的、かつ冷静に買い物をしていると思います。

例えばオンラインアパレルショップを運営するアメリカのEverlane は、商品の作り方や原価を明らかにすることで、透明性を確保して支持を得ているブランドです。面白いのは、Everlane の白いシャツをわざわざ買う人がいるということ。白いシャツはユニクロでも無印良品でも買えますが、あえてEverlaneで購入したいという人たちがいるんです。

そうするのは、商品を買ったり使ったりすることで、世の中の何かに貢献したい、変えたいというブランドとの共感、つながりを大切にするからだと思います。消費者は、即物的に快楽性の高い商品を購入する傾向が今も強くあります。でも、Everlaneを買おうと思う消費者は、その傾向とは合致しない。すぐに手に入る代替品を選ばずに、もっと冷静に、商品を買うことの意義を考えた結果、購入しているんです。消費者は快楽主義だけで買い物行動をするのではなくなっていて、「買いたいものがきちんと買えるか、そのブランドが好きか」などブランドに対する価値判断を行い、合理的かつ冷静に、冷静な目で商品を選ぶと人たちがふえてきたように思います。

その消費者に大量の商品の中から選ばれるためには、よりブランディングが重要になります。例えばオイシックスで野菜を買ってもらうためにも、オイシックスというブランドを購入する妥当性を語る必要があるでしょう。野菜は近くのスーパーで買えるのに、オイシックスだと週1回アプリを開いて注文する必要があるし、価格も決して最安値ではない。それでも使い続けてもらうには、それだけの理由が必要です。厳選した安全な食材のみをお届けすること、1週間分の献立を考える手間が省けること、週末のまとめ買いをしなくて済むことなど、消費者に提供価値をしっかりと伝えていくべきなんです。

これから先、ますます消費者の嗜好は多様化していき、それに対応する大手企業やベンチャー企業はブランドを大きくしていくよりも、より小規模で長く愛されるマイクロブランドを手がけていかなくてはいけません。マーケターは冷静な目で買い物する消費者を想定して、しっかりとしたブランドメッセージを伝えるなど、合理的で左脳を刺激するような施策を考える必要があると思います。

大切なのは顧客とのエンゲージメント

伴:冷静かつ合理的にモノを買う消費者。そこに対して、企業はどんなアプローチをすべきだと思いますか。

奥谷:一番大事なのは、基本に戻り顧客をしっかり見て、今の技術を使ってどうやってエンゲージメントを作り、どんな未来を提供できるか考えることだと思います。

伴:顧客を軸にしたマーケティングの重要性はブレないですよね。

奥谷:そうですね。DtoCは商売の原点であり、どの企業も取り組むべきことだと思います。もともとどの企業も、お客さんと向き合いDtoCでビジネスを作ってきたはずなんですよ。しかし商業化やICT化が進むと、物流の規模も大きくなり、大量生産大量消費が主流になりました。そのほうが楽だし儲かるからです。プロダクトを作って価格を決め、プロモーションして売り場を決めるフロー型のマーケティングが実行されていました。

しかし、大量のモノが溢れる世界ではもはや、プロダクト起点のマーケティングは厳しい。アップルのようなイノベーションがあれば話は別ですが、そうでない多くの場合は、フロー型から脱却し、顧客との繋がりを意識したマーケティングが必須だと思います。

2000年からここ20年ほどかけて、多くのベンチャー企業はデジタルを使って、一生懸命顧客と向き合い、成長してきました。だからこそ、DtoCを徹底して成功する企業が出てきたんです。フロー型の企業との違いは、顧客起点でのタッチポイントの設計を重視しているところです。

例えば、参考になるのはZOZOのチャネルシフト。ZOZOはもともとオンラインのアパレルショップですが、実際に体のサイズを測れるZOZOスーツを作るなど、オフラインでもタッチポイントを作っていますよね。それでワクワク感を醸成し、リアル店舗にこだわらない、リアルにおける買い物体験を作っている。オンライン・オフラインに限らず、体験ありきのタッチポイントを設計することが重要だと考えています。

これまで、デジタルマーケティングではコンバージョンありきのチャネル設計が主流でした。つまり、消費者の購入を目的に、オンライン・オフラインそれぞれで商品を消費者まで届ける様々な流通経路を作ってきたわけです。でも結局、チャネルは企業側の都合で通された「ただの土管」みたいなものなんですよね。チャネルを開通した後、その先での体験は消費者に委ねられていて、企業は消費者が本当に満足するかどうかまで追えていない。そこに消費者とのエンゲージメントはないんです。

本当に重要なのは、顧客が満足するかどうか。ただチャネルを提供すればいいわけではありません。体験の総和をしっかり見て、オンライン・オフラインどちらでどんな体験を提供すべきかを考えていくべきです。その意味で、体験ありきのタッチポイント設計が重要だと考えています。

現状、日本企業の多くは大量生産、大量消費に基づいたフロー型のマーケティングから抜け出せていないと感じます。デジタルシフト時代には、大手企業も原点であるDtoCに立ち返り、本気で顧客と向き合う覚悟を持ってタッチポイントを設計していくべきだと思います。

リアル店舗は体験のためのタッチポイントに

伴:消費者もマーケティング手法も変化する中で、これからの企業は消費者を満足させるためのデジタル投資とブランディングとのバランスを取っていかなければならないのかなと感じます。

奥谷:そうですね。消費者を失望させないためには、情緒的な価値、体験が重要だと思います。オンラインの中にオフラインが包含された環境が僕らの周りにはすでにあるわけですから、それをうまく使ってタッチポイントを設計する企業が成功するでしょう。

例えば、無印良品は店舗で定期的にイベントを開催しています。一見、事業とは関係ない直接的に売上があがる体験提供をしていますが、大人気ですぐに予約が埋まるんです。参加者は、無印良品への圧倒的な好意がある層。イベントという体験を作ることで、好意のある層と無印良品との繋がりを保持しておけるんです。そのように、コンバージョンではなく、体験ありきの設計が大事ですね。全てにセールスの機能がなくてもいいんです。

そういった流れの中で、これからのリアル店舗は購買の場ではなく、商品の試着や試用などによって顧客に良い体験を提供するためのタッチポイントになると思っています。

伴:オーダースーツのSmart Tailorみたいですね。大量生産大量消費ではなく、必要なものを必要な分だけ作る。発注してから作るオーダーメイドでないと難しいかもしれませんが、在庫を持たないことはすごくサステナブル(持続可能にしやすい)じゃないですか。商品の大量陳列をやめてサステナブルな社会になっていくことが重要だという価値観が、もっと普及するといいと思います。

奥谷:僕らがデジタルマーケティングをやっているからこそ感じている課題ですよね。そういうことをマーケターはもっと考えていくべきだし、右脳に訴えるだけでなく、左脳を働かせられる消費者を増やすべきだと思います。

僕らは消費者に買い物行動においてもっと左脳を使ってもらえるように導く必要があるし、企業のマーケティング戦略もその方向に変わらなければならないと思います。消費者は自分のためだけでなく社会全体のためにどうあるべきか、消費者が考えていく必要があると思います。消費行動を変えることで社会をよりよくできるよう、ビジネスマンとして挑戦し、若い世代の挑戦を応援していきたいですね。
奥谷 孝司(Takashi Okutani)
オイシックス・ラ・大地株式会社 執行役員 統合マーケティング本部・店舗外販事業部管掌
店舗外販事業部 部長 COCO(Chief Omni-Channel Officer)
1997年良品計画入社。商社に出向しドイツ駐在。帰国後、「World MUJI企画」を運営。「MUJI passport」のプロデュースで第2回WebグランプリのWeb人部門でWeb人大賞を受賞。2015年より現職。
伴 大二郎(Daijiro Ban)
株式会社オプト マーケティングマネジメント部 部長。通販業界で10年間、新規顧客獲得やCRM、物流改善などの業務を経験。2015年オプト入社。心理データと行動データの組み合わせ、ユーザー育成戦略とPDCAの高度化を推進。リアルとWEBを横断した顧客育成戦略の立案と実行、エンゲージメント向上のためのCEMコミュニケーション構築、BIやMAツールの導入支援など、多くのプロジェクトをマネジメント。
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