2019年6月27日

「デジタルはあくまでツール」
アコムの木下副社長は経営者の存在意義を問い直す

オプトホールディング

テレビやネットで流れる「はじめての、アコム」という印象的なフレーズを聞いたことのある人は多いだろう。大手消費者金融、アコム株式会社のCMだ。

利息制限法の上限を超える、いわゆる「グレーゾーン金利」での貸し付けに対し、「利息制限法の上限を超える利息の受け取りは無効である」とした2006年の最高裁の判決から10年以上が経つ。払い過ぎたお金は「過払い金」として、今なお返還請求が行われている。対応に苦しみ、経営破綻に追い込まれる企業も続出する中、アコムは過払い金の返還に応じながらも、直近では着実に業績を回復しつつある。

実はアコムが、1993年に業界で初めて、自動契約機「むじんくん」を導入するなど、今日でいう「デジタルシフト」に早くから取り組んでいることは、あまり知られていないかもしれない。2016年に「イノベーション企画室」を設立するなど、現在もデジタルシフトへの取り組みを積極的に進めている。

「キャッシュレス後進国」とも呼ばれる日本だが、「100億円キャンペーン」が話題になった「PayPay」や、今や国民のインフラとなったLINEが手がける「LINE Pay」など、金融業界は新たな時代に入りつつある。

いち早くデジタルシフトに取り組んでいたアコムの代表取締役副社長で、イノベーション企画室のトップも務めた木下政孝氏は、デジタル化を推進しながらも、「デジタルはあくまでツール」と断言する。アコムに入る前は、コンサルティング会社で企業のシステム導入にも携わっており、「デジタル領域には、もともと抵抗感はなかった」という。デジタルを手段として位置付ける木下氏が大切にしていることとは?

木下氏と、アコムのデジタル化を支援している株式会社オプトの代表取締役社長CEO・金澤大輔氏にお話を伺った。

「Digital Shift Times」記事はこちら:
「デジタルはあくまでツール」 アコムの木下副社長は経営者の存在意義を問い直す

10年前は「本当に、生きるか死ぬかの状況だった」

――グレーゾーン金利問題が表面化したころのお話を聞かせてください。

木下:当時は、アコムに入社して1年半が経過した頃で、経営戦略を担当している経営企画部に配属になりました。2006年1月のグレーゾーン金利は無効であるという最高裁の判決を端緒とする利息返還請求問題や中期経営計画などへの対応策を練るためです。

――どのような対応をされましたか?

木下:苦渋の決断でしたが、2006年と2009年に2回にわたる経営改革を行いました。具体的には、有人店舗の無人化と人員の効率化です。当時、全国に277拠点あった有人店舗を2006年に約半分の142拠点、2009年には45拠点まで減らしました。今では22拠点です。人員の効率化においては、早期退職を2回行い、700名と400名の計1,100名の人員を削減しました。当時は、社員が4,000名以上在籍していましたが、今は2,400名程度です。それほどまでに、コストを削減する必要があったのです。

――それほどまでに削減しなければならなかったのですね。

木下:相当苦しかったです。本当に、生きるか死ぬかの状況でしたから。この10年間を振り返ると、4年前からやっとキャッシュフローという意味での利益が出始めました。でも、その前の6年間は、毎期実質赤字でしたからね。よく生き抜くことができたと思います。

――生き抜くことができた理由はどこにあると思われますか?

木下:ひとえに、社長のリーダーシップと社員のフォロワーシップだと感じています。実は、フォロワーシップの中にも、リーダーシップがありました。早期退職を実施しましたが、なぜか核となるメンバーは辞めずに、ほぼ全員が会社に残りました。「アコムをなんとかするのは、俺たちの仕事だ」「俺たちがやらなければ、誰がやるのか」と言ってくれたのです。彼らが当事者意識を持って、「どうすれば会社が良くなるか」を真剣に考えて、実行したことが大きいと思います。

――生き抜いたからこそ得たものはありますか?

木下:最近の金融業界では、銀行や証券会社が、支店や人員の削減を検討することが増えています。当社においては、10年前に既に同じことをやっています。店舗は無人化し、組織も筋肉質にしましたから。もちろん、だからといって今、何もしなくて良い訳ではなく、AIの活用、RPAの導入、基幹システムのリノベーションなど、やるべきことは山積みです。

「『あの人が言ってるから、いいんじゃないか』では、経営者の存在意義がない」

――その後2016年に、「イノベーション企画室」を作られましたね。

木下:マーケティングを担当している営業企画部を管掌していたのですが、どうしても足元の仕事に偏りがちでした。新しいことを取り入れるためにはスピード感をもって対応すべきと考え、「イノベーション企画室」を立ち上げました。ICT技術等を活用した実証実験やPoCなどを通じて、「今後、何をすべきか」という調査が完了したことで、2019年4月にイノベーション企画室は、一旦解散しました。これからは営業企画部で実装段階に移ります。

――どういうことが見えてきましたか?

木下:やはり「AIをどう使うか」や、「うちの中にあるデータを使って、どう分析をするか」ということです。

――今後の展開は?

木下:ビッグデータを分析するにも、社内のデータベースが整っていないという課題が見えたので、これからは分析基盤を構築していきます。ただし、イノベーション企画室が「こうしたい」と言うだけでは、現場は動きません。きちんと実装させるために、イノベーション企画室を解散し、営業企画部にバトンタッチし、ボールを渡したのです。

金澤:木下さんはとても勉強家で、デジタルリテラシーはもちろんのことですが、自分でジャッジするためにインプットし続けている印象です。

木下:「自分はわからないけど、あの人が言ってるから、いいんじゃないか」では経営になりません。それは任せているのではなく、ただの放任。私の経営者としての存在意義がなくなります。少なくとも、「あなたが言っていることはわかる」とならないと判断できません。全ては無理かもしれませんが、ある程度は理解できるようにしています。

――理解することで経営層と現場社員の意識の差が埋まるのですね。

金澤:中国への視察にも社員を15名連れて行かれましたよね。

木下:2018年、金澤さんのご紹介で中国に視察へ行きました。金澤さんと2人で行くこともできたのですが、社員を連れていくということに意義がありました。
私が向こうで見てきたことを「中国はこれほど進んでいるのだから、私たちもやろう」と社員に言っても、「それは中国の話でしょ」と受け止められる可能性が高いからです。
そうではなくて、同じ風景を見せることで、「世の中にはこんな絶景があるんだ」と気づいて欲しかったのです。
実際、今回の中国視察で、「これは時代が変わってきている」と社員が認識していたので、私と社員の意識の差が埋まることにつながりました。

――社員も自ら学ぶと。

木下:例えば、同行したシステム統轄部のメンバーは、普段、開発期間を数カ月単位で考えています。でも、中国の企業で「このシステムなら半日でできます」というプレゼンテーションを受けて、「私たちのスピート感では、遅いのではないか・・・」と考えました。これは、私が「あなたたちのスピード感では遅い」と口で言っても、きっと伝わらなかったと思います。

金澤:「15人」ですよ(笑)。もちろんコストがかかりますから、実行しにくいと思いますが、これこそ「トップの判断」だなと。
でも、同行メンバーが移動のバスの中でもずっと議論しているのを見て、「15人も連れて行きたかった理由はこれだな」とわかりました。

「デジタルはあくまでツール。お客さまが求めているものを提供し続ける」

――今の課題は何でしょうか?

木下:新たな競争相手が出ていることが非常に大きいです。私たちのお客さまは、キャッシュが欲しい訳でもクレジットカードが欲しい訳でもないのです。今日欲しいもの、今日受けたいサービスがあるけれど、手元に決済する手段がないだけなのです。
決済手段は、現金からクレジットカードに変わり、今はスマホになりつつあります。その手段に合わせることができれば、ニーズは日本でも、世界でもなくならないと思います。この領域に、他の企業、特に、楽天やLINE、ヤフーなどのような既に多くのユーザーを持っている企業が参入した時に、マーケットがどのようになるのかという危機感はあります。

――競合相手が増えている、と。

木下:増えてはいます。ただ、興味深いのが、競合相手が増えることで、マーケットが広がっているんです。例えば、新しいwebサービスに触れながら「ローンを組んでも良いんだ」と感じて、今までローンを組んだことがない人が、ローンを組むことがあります。実際、当社の新規のお客さまは、5年前と比較して25%以上増えています。もちろん日本の人口は減っているので、資金ニーズという意味でのマーケットが大きくなっている、ということだと解釈しています。競争相手が増えるということは脅威でもありますし、チャンスでもあります。

――脅威とチャンスの岐路で、今後どのような展開を考えていますか?

木下:私たちは、お客さまが求めているものを提供し続けます。当社の事業において、お客さまが求めているものは5つのSで表わすことができます。それは、「Speed(即時性)、Simple(利便性)、Secret(秘匿性)、Safety(安心感)、Self service(自己操作性)」の5つです。今後、サービスレベル上げるためには、5つのSをどれだけ強化することができるかにかかってきます。
例えば、Speedでいうと、今は審査に30分ほどかかっていますが、デジタルを使うことで、2秒で回答できるかもしれないと考えています。

金澤:デジタル活用は、5つのSをアップデートするための手段ということですね。

木下氏:そうです。デジタルはあくまでツールです。デジタルも含めて、何かを行う時に、「流行っているから」とか「コンサルが勧めるから」というのは、違うと思うのです。そうではなく、「当社のお客さまは、どのような方で、どのような心境で、どこにペインポイントがあるのか」を理解しなければならないと思っています。
――デジタルは手段ということですね。

木下:デジタルはあくまでツールであり、方法論なので、どう使うかが非常に大事です。そのために社員をどう育てるかを考えると、デジタルを知っているということはもちろん必要ですが、本質を抑えている人や、仮説を立てて物事を遂行できる人を育てていかなければなりません。

金澤:逆に私たちは、デジタルリテラシーはあります。でも、木下さんからは「事業内容を理解して欲しい」と言われます。そのために、アコムの横浜のコールセンターにお邪魔して、1日みっちりと、どのようなお客さま対応をしているか、また、お客さま対応のロール・プレイングなどを体験させていただきました。私たちが目先で追うCPA(Cost per Acquisition)などの数字の先に、実際にお客さまへの対応をしている人たちがいることは、なかなか見ることができないので、大変勉強になりましたね。

Whyを探求し、「昨日と同じ時間を作らない」

――とはいえ、手段と目的が曖昧になる企業も多い印象です。そうならないためにどうすれば良いか。経営層へアドバイスをください。

木下:私の場合、子供の頃から好奇心が旺盛であったと母から聞いています。でも、「What」を知りたいというより「Why」を知りたいのです。「なんでこうなってるの?」「なんであの人は、ここに並んでいる商品の中で、これを選んだんだろう?」などを知るのが大好きです。
あと、「毎日、昨日と同じ時間を作ってはいけない」と思っています。例えば、「昨日と同じ人とランチを取っていませんか?」ということを含めて、行動を変えていくのが重要なのかなと。

金澤:私も、木下さんからは常に、「なんでですか?」と聞かれます(笑)。
ひょっとしたら、これからのトップに求められる資質は、常に「Why」を探求することかもしれません。「デジタルシフト」は目的というより、探求の結果として行き着くのかなと。木下さんは、常に「Why」を追求して、自分の言葉でデジタルをどう活用するかをお話しできている方だなと、今日お話して改めて思いました。
木下政孝(Masataka Kinoshita)
アコム株式会社 代表取締役副社長 経営企画部、人事部、システム統轄部担当
デジタルマーケティング戦略の基盤を構築するとともに、「はじめてのアコム♪」のサウンドロゴを用いたCMを世の中に浸透。また、フィンテックへの取り組みなど、ビジネスモデルの変革を推進中。
金澤大輔(Daisuke Kanazawa)
TV番組制作会社にて映像制作業務に従事した後、2005年にオプト(現オプトホールディング)入社。2013年に広告代理事業部門管掌の執行役員に就任。2015年にオプト代表取締役社長CEOに就任。2017年よりグループのマーケティング事業を管掌する上席執行役員を兼任し、2019年4月よりオプトグループ執行役員としてデジタルシフト支援領域及びマーケティング大手領域管掌。
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