2019年9月18日

マーケティングを本来あるべき姿に。デジタルシフトはアカデミックとビジネスの現場をつなぐ。

オプトホールディング

お客さんとの幸せな関係をつくることこそが、マーケティングの本質なのではないか――。

購買行動のみを追い求めるマーケティングに違和感を覚えていた株式会社オプト マーケティングマネジメント部 部長の園部武義氏は、消費者行動論を専門とする法政大学の新倉貴士教授とともに、新たなマーケティング手法の創出に挑んでいる。目指すのは顧客とブランドとの長期的で幸せな関係を築くこと。デジタルを活用することで見えてきた、消費者理解の可能性とは。お二人にお話を伺った。

マーケティングの本質は「買わせるだけ」ではない

――法政大学で消費者行動を専門に研究されている新倉先生と、マーケティングの現場で実務をされている園部さんですが、お二人が出会ったきっかけを教えてください。

園部:2015年ごろ、あるマーケティングのワークショップに参加したとき、新倉先生が講師をされていたことがきっかけです。

僕はずっと通販業界にいて、CRMや広告、物流など様々な分野に携わる中で、マーケティングのあり方に違和感を持っていました。通販業界は、メールや電話でとにかく商品を購買させることを重視する風潮がありました。それに対して、購買してもらうことだけが成果でいいんだろうかと悶々としていたんです。お客さまと幸せな関係をつくることこそが、マーケティングの本質じゃないんだろうかと。

そういった思いがあってオプトに転職し、成果を求めるビジネスの現場と、お客さまと幸せな関係を築くマーケティング本来のあり方をつなぎ、マーケティングの世界に自分らしい、新しい価値提供をしたいと思っていたのです。

そんな時、新倉先生に出会いました。ワークショップの際に、先生がホワイトボードに描かれた「新倉モデル」の原型となる図を拝見しました。マーケティングをなんとかしなければという気持ちがあるときに見たからこそ、ビビッときたんだと思います。自分が考えていることが実現できるんじゃないかとひらめき、先生の研究室に通うようになりました。2週間に1回くらい押しかけて質問責めにしていたので、思い返すといい迷惑でしたよね。

新倉:なんかうるさい奴が来たなと!それは冗談で、細かいところまで質問してくる、熱心な方が来たと思いました。

そのワークショップでは、ブランドロイヤルティについて話しました。特定のブランドに対する消費者の愛着です。もともと私自身は消費者行動を研究していますが、専門領域ばかり研究するとどうしても局所的になり、マーケティング全体を俯瞰できないことに私自身もモヤモヤしていました。

そんなタイミングでワークショップを依頼され、研究の範囲を広げてみるチャンスでもあると思いお受けしたのです。そこで、事前アンケートで関心がある方が多かったブランドロイヤルティをテーマにして、独自にモデルを作り、図にしました。

購買行動は氷山の一角 デジタルで「態度」の変容を把握する

――園部さんが新倉先生を訪ねるきっかけとなった図とは、どんなものだったのでしょうか。

新倉:ブランドロイヤルティの構造を氷山になぞらえたモデルですね。消費者行動の研究では、消費者の反応を認知・態度・行動という反応のモードに分け、ブランドに対する6つのAを重視しています。すなわち、認知モードではAwareness(認知)とAssociation(連想)、態度モードではAffect(感情)とAttachment(愛着)、行動モードではAction(購買行為)とActivity(購買関連活動)がそれぞれ重要です。この図では、6つのAに基づいてブランドロイヤルティを捉えました。
新倉:氷山は、目に見えている部分の下に、それを支えるより大きな部分が潜んでいます。氷山全体を考えるとき、より大きな影響力を持っているのは水面下の、目に見えない部分ですね。ブランドロイヤルティの形成についても同じで、三角形の上部に当たる観察可能な行動モードの下に、目に見えない態度モード、認知モードが潜んでいる。そして実は、この目に見えない部分の方が、影響力が大きいことを示しています。

つまり、消費者が購買に至るまでには、実は認知モード、態度モードそれぞれでロイヤルティを獲得する必要がある。認知を獲得したり、感情に訴えたりする活動が非常に重要だということです。

園部:僕はこれまで、顧客の購買行動と態度、認知が自分の中で結びついていない状態でした。この図はそれが一つになっていることに、現場のマーケターとして使いやすさを感じました。    
 
態度や認知を向上させることが重要だと感じていても、ビジネスの現場では実際の行動に紐づかない施策は認めてもらいにくい現状があります。しかしこの図では、むしろ行動を引き起こすためには、認知や態度の向上が重要であるとわかりやすく示されているのです。
 
加えて、行動と態度と認知がこういった関係性にあるなら、新しいマーケティングが可能になるのではないかと思いました。そこで、デジタルを駆使することで態度や連想の変化を捉えることができるんじゃないか、そしてその変化は、購買以外のエンゲージメント行動に現れるんじゃないか、という仮説を立てました。

実際に態度や連想を直接取るのは脳波測定でもしないと無理です。しかし、態度変容したお客さんが購買以外の行動も起こすのであれば計測は可能です。あるブランドを好きになったとき、購買しなくても店舗に来るとか、誰かと話題にするとか、ネット上で口コミを書き込むとか、いろいろな行動が生まれるはずです。そういった行動を計測していくことで、行動モードだけでなく、認知・態度モードの段階でもブランドロイヤルティを評価できるのではないかと考えました。
――実際に検証されたのですか。

園部:ある化粧品の通販企業に先生の図を紹介し、それを元にブランドロイヤルティを育成するプロジェクトを行いました。

プロジェクトは、大きく3つのフェーズで進行していきました。
1つ目が顧客の理解です。クラスタリングの手法を使って、ライフスタイルや価値観など、お客さんをいくつかのクラスタに分けて、それぞれのブランドに対する連想、態度、購買行動など8つの項目に沿って分解していきました。

2つ目はプランニングです。各クラスタごとに、ブランドロイヤルティを育てるために何を提供し、どう感じてもらうべきか計画を立てました。そもそもクラスタごとにゴールが違うという前提に立って検討しています。

例えば自然派化粧品が好きな人がいたとして、健康のために選んでいる人と、「この化粧品を選ぶことで自然派だと思われたい」と考えて選んでいる人とでは、全くゴールが違いますよね。ゴールが違えばそこに至るルートも違う。だからそのお客さんと適切な距離で、一番幸せな関係性を築くにはどうすればいいか考えて設計していきました。

新倉:ブランドロイヤルティを考える上で大切なのは、消費者には競合と比べて相対的価値を感じている人と、そのブランドに絶対的価値を感じている人の2パターンいるということです。ターゲットがどちらの価値を感じているのかは常にキャッチアップしていくべきだと思います。それが関係性の構築においても重要ですね。

園部:相対的な価値を感じているお客さんを絶対的価値に近づけていくのが、マーケターの一つの役割ではないかと思っています。

3つ目は評価方法です。先ほどお伝えしたような、店舗に来ている、サイトを見ている、クチコミをしているなど、エンゲージメント行動となり得る行動を計測していきました。これらの数値と、お客さん一人ひとりのライフスタイルや価値観などのデータを組み合わせて評価をしようとしています。

今は、指標とすべきエンゲージメント行動を決めて計測している段階です。お客さん一人ひとりの情報をマーケティングに使える形でデータベース化するのは、今はまだ難しく、今後の重要な課題だと思っています。
 
新倉:エンゲージメント行動は、地震で言ったら予震のようなものですよね。
 
園部:そうですね、鳥が飛ぶとか、ナマズが暴れるとか。そういう予兆って、実際にあると思うんですよ。ブランドに対するお客さんの積極的な関与、エンゲージメント行動を捉えることができれば、本震、つまりブランドロイヤルティの変化を予測できるようになるはずです。

ブランドロイヤルティは企業の資産 デジタルシフトで消費者理解に立ち返る

――今後のマーケティングでは、購買だけではなく、エンゲージメント行動が新しい指標になってくるということですか?

園部:そうですね。エンゲージメント行動は、ブランドロイヤルティ育成に大きな影響を与え、結果として購買を最大化していきます。一方で、購買意図を捉えた買わせるためのマーケティングは、近い将来AIに取って代われる可能性が高いと思います。

マーケターが取り組んでいくべき課題は、購買行動だけではなく、エンゲージメント行動の測定など、デジタルを駆使して顧客の態度を計測し、評価していくことに移っていくでしょう。それがマーケティングにおいて、本質的なデジタルシフトではないかと思うのです。          

CRM活動によるブランド体験のデザインや広報活動なども含めて、ユーザーのエンゲージメント行動を起こさせる全てがマーケターの仕事になる。そうなった時、マーケティングってすごく楽しい、意義のあるものになると思うんですよ。    

新倉:そうですね。今後のマーケターの仕事は、見えない空気をどう把握していくかが重要     になっていくでしょう。デジタルを使って空気を捉えることができれば、それで次の購買が正確に予測できたり、あるべき購買を作り出すことができる。今は行動の部分しか見えないブランドロイヤルティという氷山が、より深層部まで鮮明に見えるようになるはずです。

園部:その通りだと思います。空気を把握するというのは、マーケティングの「7P」に近いお話しですよね。Product(製品)、Price(価格)、Place(場所)、Promotion(プロモーション)の4Pに加え、Personal(人)、Process(サービス提供プロセス)、Physical Evidence(サービス演出)の3Pが重要な要素になるという考え方です。Personal やProcessやPhysical Evidenceは顧客体験に直結し、エンゲージメントを生み出す源泉となります。

こういった考え方はテクノロジーの進化によって生まれてきたものです。新倉先生をはじめとした研究者によってアカデミックな世界で提唱されてきた理論が、デジタルシフトによって実現されていくのは、非常に刺激的なことだと思います。

新倉:そうですね。デジタルシフトによってマーケティングが変わるというより、基本に戻るんだと思います。

買わせることにばかりとらわれていると、ともすれば消費者の心理が忘れられがちになってしまいます。消費者の心は形がないし、揺れ動きやすいし、捉えどころがない。だから製品などわかりやすいものに寄ってしまいがちです。しかし、デジタルを使えばそれも観測可能になる。捉えどころのない消費者の心を、デジタルをうまく使って把握していくことが大事でしょう。

学術研究の立場から見ると、今後はマーケターの方々が長期的な視点を持てるといいなと思っています。ビジネスだと成果を求められるので短期思考になりがちですが、長期的な視点を持たないとブランドは育っていきません。部分的な理解で終わり、全体像が見えなくなってしまいます。
園部:そう思います。僕は、デジタルを使うことで現場の短期的な指標と長期的な指標     とを繋げることもできるのではないかと考えています。デジタルの利点の一つは、長期的な視点で考えたものを、中期、短期と分解して、最終的に現場で見られる指標にまで分解できることだと思うんです。    

そしてそれは結果的に、長期的な視点で物事を考える経営陣と短期的なKPIを追う現場とが一体となってマーケティングに取り組むことにつながっていきます。デジタルシフトは、マーケティングを本来あるべき姿に近づけてくれるものでもあると思います。          

新倉:私は、ブランドロイヤルティは企業の資産と捉えていいと思うんですよね。「消費者の反応に基づいてできあがる資産」です。とにかくいっぱい購入してくれるというわかりやすい行動の資産もあるし、購入しないけど心の中ではすごく大事に想っているという資産もある。それは何かのきっかけで大化けする可能性もあるんですよね。だからこそ、認知・態度・行動それぞれのモードで、その資産の守り方を考えていくべきです。

特に態度の部分は揺れ動きやすいので、商品の製法や材料、使用者のイメージという連想をしっかり伝えて、認知を根っこのように張り巡らせていく。このようにして、資産が流動しないような頑健な施策を考えていくイメージですね。

園部:ブランドロイヤルティを企業の資産と捉えて、消費者理解の原点に立ち返っていく。それはデジタルシフトが進む時代で、マーケティングをしていく上で重要な考え方だと思います。
僕は、何かを解決したいとか、世の中を変えたいとか、お客さんに価値提供したいという想いやパッションが先にあって、その先にマーケティングがあると思うんです。想いがあって初めて手法が生きる。消費者理解に立ち返り、お客さんとの幸せな関係を築けるマーケティングに、本気で取り組んでいきたいです。
新倉貴士(Takashi Niikura)
法政大学大学院経営学研究科(法政ビジネススクール)教授。日本消費者行動研究学会会長、日本商業学会学会誌編集長、マーケティング・リテンション協会特別会員、樫尾俊雄記念財団評議員などを歴任。主な著書に、『消費者の認知世界:ブランドマーケティング・パースペクティブ』(単著)、『消費者行動論:マーケティングとブランド構築への応用』(共著)など。
園部 武義(Takeyoshi Sonobe)
株式会社オプト マーケティングマネジメント部 部長。通販業界で10年間、新規顧客獲得やCRM、物流改善などの業務を経験。2015年オプト入社。心理データと行動データの組み合わせ、ユーザー育成戦略とPDCAの高度化を推進。リアルとWEBを横断した顧客育成戦略の立案と実行、エンゲージメント向上のためのCEMコミュニケーション構築、BIやMAツールの導入支援など、多くのプロジェクトをマネジメント。
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