大学のキャリア教育に新風 自主性が持てない若者の壁の解決策は「キャリア教育」にあった
昨今、新入社員の人材について様々なニュースが紹介されている。その中で、企業のよくある悩みとしては「就活時に主体性をアピールしていた学生が、入社すると受身的になってしまう。最悪の場合、離職してしまう」という事。企業の抱える人材への重要な課題に、学生教育支援という新たな解決策を提示するOriginal Point株式会社。従来の「就活対策」と一線を画すキャリア教育とは何なのか? キャリア教育の枠組みの中で、入社後活躍する人材を育てる独自のメソッドとは? 同社の代表取締役 高橋 政成氏と取締役 犬尾 裕史氏に話を伺った。
左:Original Point株式会社 取締役 犬尾 裕史氏 右:Original Point株式会社 代表取締役 高橋 政成氏
学生の主体性を育てる産学連携型キャリア教育
高橋氏「大学1年生〜4年生対象に意識調査を行ったところ、『大学生活に後悔している人』や『自分に対する自信がない』と考える人が約70%という結果になりました。その背景には、『楽単(らくたん)』という言葉が象徴するように、卒業まで何となく授業をこなす人が増えているからです。余った自由な時間を自己研鑽に使わず、消費するように遊びやバイトをしてしまう学生が非常に多いです。その結果、短期化する就職活動の中で、自分と会社に対する理解が浅いままに就職してしまいます。思い描いていた理想と現実の乖離(=リアリティショック)に苦しむ人が一定数存在します。」
学生がそうした悩みを持つ一方、企業側は採用目標の達成に奔走。短期間の新入社員研修の中で「意識変革」というテーマで主体性を引き出すのではなく、対処療法的に躾けるという状況になっているのが現状だ。
高橋氏「多くの大学で行われているキャリア教育と言えば、いわゆる『就活対策』が中心です。大学3年生になったら「ナビサイトへ登録し、早期から行動することを促す」「内定獲得のための面接テクニックを指導する」といったすぐ使える反面、本質から少し外れた内容が多いです。しかし、将来の選択肢を知らない中で、業界研究本やネットの情報から短期間で業界や企業のことを理解することや、納得した上で就職活動を行うことは簡単ではありません。だからこそ、Original Pointでは、『社会で活躍することを見据え』早期のタイミングから、企業研修のノウハウを活かしたキャリア支援講座行っています。」
Original Pointが行うキャリア教育は、従来の就活対策セミナーとはベクトルが異なる。将来社会に出たあとも主体的に自分の人生を考え、社会にコミットしていける人材の育成活動だ。大学から社会への橋渡しを考えるにあたって、内定獲得の先にある入社後の活躍まで見据えることの必要性を学生に伝える教育となっている。
3年になってからでは遅い。大学と協働で提供する新たなキャリア支援プログラム
多くの大学生が自分のキャリアに向き合い始めるタイミングは、就職活動であるが、本来はもっと早くに自分と社会の理解を深めるべきである。そうした機会を創るため、成城大学とOriginal Pointは協働で学生にキャリア支援プログラムを提供する。本プログラムは、3年次の学生に限らず、学年問わず受講可能となっている。
本年度は「澤柳塾」と題して、成城大学で10年以上前から取り組んできたキャリア支援プログラムのノウハウと、企業研修で培ってきたOriginal Pointのノウハウを掛け合わせた実践的なプログラムを提供している。
1. 内省力を高める
2. 社会で必要な力や、将来の選択肢を知る
3. 経験の中で自分の価値観や強みを磨く
4. ビジョンを描く
上記の4つのポイントをベースに組み込まれたプログラムは、学生にとっては新たな視点を得られるキッカケとなっているという。
高橋氏「プログラムでは実際の社会とのギャップを埋め、自主的に将来を考える事を学びます。一例としては、社会人と直接対話する機会を設け、将来を考える事の大切さや働くということは何なのかを知ってもらいます。というのも会社説明会では、内定が欲しいという背景もある為、本音で質問をぶつけることができません。また、就活対策では自己PRというのが重視されがちですが、もう少し踏み込んだ内省力を高める試みも実践しています。自分を客観的に省みる力が備わっていれば、本プログラムが終わった後も継続的に成長に繋げていくことができるはずです。最初は、戸惑う学生や消極的だった学生も、プログラムを受けていくごとに積極性が増していく姿が見られます。変化があったという話が伝わってくると、プログラムを設計する側としても嬉しい限りです。」
犬尾氏「社会で求められることを疑似体験する為、学生自身がセミナーを企画し実行するというプログラムも実施しています。最終的には学生がキャリアセンターへの協力要請も含めて自主的にセミナーを開催。学生自身が当事者意識を持っているため、『正しいきっかけ』を与える事ができれば、自主的な動きができるというのを肌で感じました。過去のプログラムを経た結果、学内活動でリーダーとなったり、やりたい仕事に近いアルバイトを始めたり、将来に向けてすぐにアクションを起こす学生が数多く見られました。」
就職後の「がっかり」をなくす採用を実現するRJP
就職した若者が主体的に仕事に取り組めない大きな原因として挙げられるのが「リアリティショック」。前述の通り、就職活動中に抱いていた理想と現実が乖離を感じてしまう状態を指す。とはいえ企業側の採用ページには、学生を惹き付けるための美辞麗句ばかりが並ぶ。長い目で見ると入社後のやる気をそぎ、パフォーマンスを下げる要因となりかねない。
これを防ぐために提唱されているのが、「RJP」という考え方だ。RJPとはRealistic Job Preview、「現実的な仕事内容の事前開示」という意味だ。組織の良い面、悪い面の両方を求職者に対して開示することにより、入社後のミスマッチを減らす事が可能だと示されている。
高橋氏「例えば『うちの会社では、こんなプロジェクトを成功させました!』という事がHPに書いてありますよね。でも、その華々しい結果に至るまでの苦しい過程にこそ、仕事の本質や社会において大切なことが詰まっています。どんな仕事を行なっていても、しんどい事や葛藤する事はありますから。」
Original Pointでは、企業のリアルを伝える為に、ジョブシャドウイングという手法で、大学生が社員の1日に同行する様子を映像化すること。インターンシップや説明会の場面で、事業を疑似体験できるコンテンツを製作し提供することに取り組んでいる。
高橋氏「企業のリアルを知るためには、働いてみることが手っ取り早いと思っています。ただ、インターンシップで職場に学生を受け入れるのは現場に負担がかかります。だからこそ、採用広報の手段として、学生が社会人の仕事に1日密着してもらい、その仕事の様子や肌で感じた新卒の声を映像化することで、企業の良い点やリアルなやりがいを動的に発信しています。また、インターンシップや説明会のコンテンツとして、現場へのインタビューの声をケースワークに落とし込み、実際の仕事を疑似体験していくことも行っています。概要説明だけでは伝わらない、仕事の魅力や難しさを感じてもらうことを大切にしています。」
ジョブシャドウイングの様子を映像化して、仕事のリアルを学生に訴求する「ハタチのトビラ」
VIDEO
インバウンド事業におけるコミュニティ活性とデザイナーの仕事とは?ハタチのトビラ予告編
柔軟な学生時代から、人生をデザインする訓練を!
主体性を持って社会を生きていくためには、学生時代の過ごし方が鍵である。キャリアについて深く考え、自力で枠を取り払う力を育てる活動に取り組む必要があるのは明白だ。しかし、大学のキャリア教育の市場は約13億円と広告市場※とくらべると狭いのが現実だ。
※大学広告の市場は約340億円
高橋氏「今はまだ市場規模は小さいものの、学生のキャリアを開発するために舵を切り始めている大学も複数存在します。例えば、東京経済大学ではこの4月から、キャリアデザインプログラムを始動しました。本プログラムの特徴は、4年間にわたる徹底的なキャリア教育のほか、1年次に各学部の入門科目を学びながら各自のキャリアデザインを考えます。1年間で固まってきたキャリア目標にもとづいて、2年次以降の所属学部を選択できる形になっています。また、東京経済大学ではキャリアデザイン研究所もこの4月に設立され、弊社も共同研究を行っています。今後は大学そのものが教育の質を向上させることが必須となってきます。弊社としては、プログラムの提供以外に、本研究からキャリア教育のあるべき姿を探究していきたいと考えています。」
大学とは専門教育機関でありながら、社会人としてのキャリア選択を求められるハイブリットな場所である。だからこそ表面的に単位や内定を求めていくのではなく、自主的に考えられる様になるべきである。その手助けがOriginal Pointであれば可能なのだ。
高橋氏「自分を知ることと、社会を知ることは、キャリアを作り出していく中で重要な両輪となります。働くことの楽しさを見出し、動くことの大切さや楽しさを学生自身で掴み取ってもらいたいです。弊社としては、取締役の犬尾が所属する企業向け人材育成支援からみえる企業ニーズや、大学におけるプログラムの実践と共同研究から、大学生にとって必要な本質的なキャリア教育プログラムを今後も探究していきます。また、企業における採用・育成の支援から、大学から社会への橋渡しにおけるあるべき姿を模索していきたいと思います。」
犬尾氏「多くの企業における決められた枠組みの中では、仕事や人生を楽しくデザインすることは容易ではありません。社会や仕事に対して自分から何かを仕掛けられる人、自分の人生を積極的に作って行ける人を増やしていき、日本にとって価値ある取り組みをしていきたいです。」
自分の人生を本気で生き、自分の幸せの為に仕事を全力で行う。そんな若者が増えるきっかけづくりとなれば、今後の日本社会においても良い影響へと繋がるはずだ。社会的意義も強いOriginal Point株式会社の大学キャリア教育への取り組み。学生・企業両方にとって価値ある取り組みだ。今後Original Pointの考え方が日本の就職市場の課題を解決していく日も近いのではないだろうか。
Original Point