蔵元の笑顔がテーブルに届く! パナソニックが試行錯誤する日本酒&ワインクーラーとは?
パナソニック アプライアンス社が推進する新規事業創出プロジェクト「Game Changer Catapult(以下GCカタパルト)」。そのテーマのひとつとして選考を通過した「Sake Cooler」は、お酒と料理のペアリングを提案するなどお酒をより美味しく楽しむために開発された画期的な日本酒とワインに特化したボトルクーラーだ。プロジェクトを主宰する技術本部ホームアプライアンス開発センター幸裕弘さんが語る、製品にかける思いとは。
「Sake Cooler」を手にとって説明してくれる幸裕弘さん(右)と片山朋子さん(左)
味だけでなく、ストーリーを提供するボトルクーラーを
パナソニックの次世代を担うプロダクトを開発するべく、日々、新製品の開発が行われる「ヒトティクス研究所。」そのミーティングスペースの一角に、漆塗りの外観が目をひく筒状のインテリアが置かれていた。隣に日本酒とワインのボトルが並べられていることから、それがボトルクーラーであることがわかる。しかし、なぜ今、家電メーカー大手の同社がボトルクーラーを開発しているのだろうか?
「この製品の正式名称は、『Sake Cooler』です」 そう嬉しそうに語るのは、プロジェクトを主宰した幸裕弘さんだ。お酒を楽しむ空間が好きだという彼が、起案の背景を語る。
幸「ワインボトルには『エチケット』と呼ばれるラベルがついていますよね。ワイン好きな方々は、自分が飲んだワインのエチケットを保存したり、そこに記された生産地や生産年を情報として楽しまれています。しかし、ワインクーラーの多くは、氷を張るドブ漬けタイプのもの。これではボトルを冷やしているうちにこのエチケットが濡れてふやけてしまいます。エチケットを濡らさずに保存でき、さらにお酒の製造工程やその背景にあるストーリーをアプリとディスプレイに表示するワインクーラーがあれば、多くの方に喜んでいただけるのではないか……そんなことを考えたのが、このプロジェクトの発端でした」
当初はワインを適切な温度で冷やすための家電として起案された「Sake Cooler」。しかし、現在では日本酒とワインの両方を対象としたプロダクトとなっている。この“微妙な路線変更”の背景には、見過ごすことのできない日本酒市場の伸びがあるという。
幸「近年、日本酒のマーケットは世界的な広がりを見せており、それに伴うボトルクーラーのニーズも無視できません。そこで私たちも、世界で唯一うまみを持つ食中酒としての日本酒に着目し、日本酒とマッチする料理や蔵元の情報を海外の方に伝えられるツールとして、『Sake Cooler』を訴求していくことにしました。 ちなみに現時点で想定しているプロダクトは、スタンダードモデルと本体にディスプレイを搭載するプレミアムモデルの2タイプです。『Sake Cooler』に日本酒やワインのボトルを入れると、内蔵されているカメラがラベルを読み取り、専用アプリに情報が表示されます。プレミアムモデルにはモニターがついているので、アプリを起動せずともテーブルを囲んでいる家族や友人とお酒の情報を共有することができます。『Sake Cooler』が伝えるのは単なる製造情報ではなく、“紙のラベルでは伝えきれない”蔵元さんの笑顔や、そのお酒ができるまでのストーリーなのです」
振る舞い酒で商談成立?多彩な意見を集めたい
「Sake Cooler」チームは、GCカタパルトにエントリーしている他プロジェクトと同様に、3月に開催されるカルチャーの祭典「サウス・バイ・サウス・ウエスト」(以降、SXSW)に出展している。世界各国で広まりつつある日本酒を扱ったプロダクトであるがゆえに、そのデザインにも日本の文化を感じさせるこだわりがある。
幸「今回はSXSWへの出展を前提として、プロダクトの開発を進めてきました。やはり日本酒とともに食事の席に置いてもらうからには、家電らしくないインテリアとして存在するプロダクトにする必要があります。実は、試作1号機は周囲から「なんだか加湿器っぽい」と笑われました。そこで、会津若松の漆職人さんにお願いし、深みのある赤、金箔、いぶし銀、意外性の青など高級感のあるカラーバリエーションを用意してSXSW会場で意見を聞くことにしました」
昨年までのSXSWへの参加経験を生かし、「Sake Cooler」プロジェクトのアドバイザーをつとめた片山朋子さんも、イベント出展にかける思いを語ってくれた。
片山「アメリカへの駐在経験がある私は、過去にSXSWにも参加したことがあります。『Sake Cooler』は、日本酒やワインを冷やす家電だということが一目でわかるプロダクトだと思いますし、SXSWでの見せ方を考えるのはとても楽しかったです。海外の展示会では、キッチン家電が並んでいるブースではどのメーカーもお茶やジュースを並べるので、自社の製品がかすんでしまいがち。一方、私たちはワインだけではなく、海外で広まりつつある日本酒を時間限定で振る舞うことで、少し目立つ見せ方をできないかと考えました」
幸「やはりSXSWを経験している片山の意見はとても参考になります。SXSWは単なる展示会ではなく、お祭りの要素が強いイベントなので、私たちのブースでも『Sake Cooler』で冷やした日本酒を来場者のみなさんに振る舞いながら、楽しい場を提供して多彩な意見を集めて次の開発に活かしたいですね」
日本文化を伝える“おもてなし家電”を目指して
SXSWへ出展することで海外顧客の声をすくい上げ、製品のさらなるブラッシュアップを目指す幸さん。今後は、「Sake Cooler」を宿泊施設に常設してもらうことも検討しているという。
幸「『Sake Cooler』は、日本酒をおいしく飲むためのプロダクトなので、海外だけではなく国内での展開もいろいろと考えています。現状で検討しているプランのひとつには、海外からの旅行客が多く宿泊する京都のホテルに『Sake Cooler』を置いてもらおうというものがあります。このホテルの近所には地元の酒蔵があります。そこで、客室にこの酒蔵の日本酒を『Sake Cooler』とともに置かせていただき、その土地のおいしいお酒を知っていただくタッチポイントとして活用してもらいたいのです」
家庭や飲食店の食卓はもちろん、日本国内のホテルに常設されるようになれば、今後はこのプロダクトが日本の「おもてなし」を象徴する家電となるかもしれない。幸さんの夢は大きく膨らむ。
幸「このプロダクトを形にするにあたって会津の漆職人さんとお会いした際に『これはおもてなしの家電だね』という言葉をかけていただきました。これは本当に嬉しかったです。今後、例えば宿泊施設に置いていただくことで、その土地の日本酒を提案することができれば、まさに日本という国を宿泊客にアピールし、さりげなくおもてなしするプロダクトとなってくれるのではないかと期待しています」