部署の垣根を超えたドリームチーム「TAKT」がウェルネスガジェットで創り出す、新たなサービス事業とは
クラウドファンディングやIOTベンチャーなど、家電業界は大きなうねりの渦が巻き起こっている。松下幸之助が起業し、常に最先端の技術で利用者ニーズに即した製品を開発してきた「パナソニック」。新たな開発スキームとして、パナソニック アプライアンス社の新規事業公募制度「Game Changer Catapult」(以下、GCカタパルト)が開始された。今回は、GCカタパルトの中で「振舞い方」をコーチングするデバイス制作に取り組む「TAKT」。そのコアメンバーであるパナソニック株式会社 アプライアンス社 秋元伸浩さん、浅野花歩さん、小川智輝さん、株式会社ロフトワーク 川井敏昌さん、慶應義塾大学 山岡潤一さんに話を伺がった。
従来の固定概念に縛られないウェアラブルデバイスのプロトタイプ
新規事業創出制度「GCカタパルト」の中でひと際光るウェアラブルデバイス。社外との連携を通じて既存の事業にとらわれないサービスの創出を目指したプロジェクト「TAKT」は、家電というよりかは、ガジェット分野の製品だ。一目で見ただけでは使用の仕方がわからない特殊なデザイン。本製品はどの様な使い方のウェアラブルデバイスなのだろうか。
「本デバイスは、姿勢の傾き、声のトーン、身振り手振り、ストレスを感知・理解・コーチングするウェルネスツールです。アメリカの大学とのハッカソンやユーザーインタビュー、ロフトワークとのコラボによって検討を重ね、2ヵ月前から本格的な開発を開始。短期間で中核となる姿勢の傾きのみ実装したプロトタイプモデルの製作にこぎつけました。」(秋元さん)
TAKT本体
「マネージャーやチームリーダー」などになりたい人に向けて「自分の見せかた」をコーチングするウェアラブルデバイスとして開発を行っています。例えば、人前で行うプレゼンテーション。「TAKT」をつけながら、発表を行うと立ち振る舞いがデータで可視化されます。まっすぐ立って話しているつもりでも、意外と前後左右に体が動いてしまっている事が多いです。長時間勤務中に付ける事で、姿勢情報が段々とデータ化されていきます。今まではビデオで録画し、コーチングするしかありませんでした。このウェアラブルデバイスを使うことで、正しい姿勢でいた時間や、ズレた回数、傾きの角度などが可視化されます。」(秋元さん)
メガネや腕や足などに仕込む傾きを感知するデバイスは現存している。しかし、本デバイスでは従来型のガジェットとは異なり、センサーを2ヵ所につける。従来の製品と異なり、TAKTが複数センサーを活用している理由は、どこにあるのだろうか。
「体全体の傾きや姿勢を計測しなければ、コーチングが出来ません。傾きを感知するセンサーが頭のバンド部分とネック部分に内蔵されていて、細かな情報までチェックします。」(川井さん)
「従来製品の様な形の単一センサーは胴体もしくは頭の動きのみしか感知できません。体全体の細かい動きや首の傾きなどを、センシングする為には、2ヵ所のチェックが必須となります。前後左右の上半身の動きをタブレットなどに常時出力することで、直立不動でいる事の難しさが体感できます。」(小川さん)
TAKT利用画面
プロトタイプモデルは、ベルト、メガネ、そして女性用下着
今回のインタビューにおいてひと際、目立つ製品が机の上に鎮座していた。それは「センサーが付いた女性用下着」だ。TAKTの「コーチング」を目標としたガジェット設計には、紆余曲折があったそうだ。
「コーチングという分野において、傾きをチェックしフィードバックするというコンセプト。そこまでは、かなり早い段階で決定されました。ですが、測り方については紆余曲折がありました。」(秋元さん)
「ベルト、メガネ、女性用下着など多くの試作を作成しました。メガネは、バッテリーが大きくなりすぎ首に負担をかけてしまうことに。女性用下着のフロント部分にセンサーを付けるのは妙案だったのですが、それだけだと、頭の動きのチェックが難しいという問題も発生しました。常識に囚われない試作の結果が今のTAKTへとつながっています。」(山岡さん)
TAKTプロトタイプモデル
TAKT制作は実業務と同時並行。よくある社内プロジェクトの様に、業務負担が多かったのではないかと予想していた。しかし、実業務への好影響も多く「TAKT」にやりがいを感じているという。その源泉とは何なのだろうか?
「通常の家電であれば、今あるものを高性能化やコストカットするという「1を10」にしていくプロセスが基本です。パナソニックに限らず大企業では、担当部門ごとに、役割分担をして効率的に職務を遂行します。しかし、本プロジェクトはゼロスタートで開始しました。デザインセンターや技術本部など部門の垣根を超え、外部企業との協力で「0から1」を生み出していく開発です。この何もないところから新規の物を作り上げるプロセスは、商品開発や技術改善などの既存の業務プロセスにも好影響を与えてくれます。本プロジェクトに惜しくも参加できなかったメンバーも、非常に刺激を受けていると感じています」(浅野さん)
「社内でのアイディア実現は、良くも悪くも石橋を叩いて100%の製品を出し続ける事を目標とすることが多いです。ですが、社外のスピード感を感じながらTAKTを開発する中で、「とりあえず動くモノ・サンプルを作る事」や「ミニマルなプロトタイプを作ってユーザーインタビューする事」も大切だと感じています。大企業の常識のまま何かを作っているだけでは駄目だという危機感自体は多くの社員が感じていましたが、そのプロセスを学べる、非常に価値のあるプロジェクトだと思います。」
デザインセンター 浅野花歩さん
サウス・バイ・サウス・ウエストが発表会の場になった理由
家電の新製品発表会といえば、「CEATEC」や「CES」などの展示会や個別発表会が基本だろう。しかし、TAKTをはじめとするGCカタパルトでは一般家電メーカーが選択しない「サウス・バイ・サウス・ウエスト」(以下SXSW)を選んだ。その理由について伺った。
「通常の家電設計プロセスに縛られていないのが、GCカタパルトの特徴です。国内家電の販売を目標とするのであれば、現状売れ筋とされる商品に対して、新たに付加価値を付けたり、利用者ニーズを深堀するプロセスを踏みます。「TAKT」を始めとする、GCカタパルトはグローバルで利用される製品設計を目標としている為、国内でのユーザーインタビューは行わずにアメリカでのヒアリングを軸にコンセプト設計しました。」(小川さん)
「SXSWは、家電見本市ではなく映画・音楽・アート・ITなど複合的な町全体で実施されるイベントです。テクノロジ-の開発能力やスペックなどではなく、製品に対するアイディアが評価される場所で、多くのガジェット愛好家などが集まり、とにかく面白いものを求めています。グローバルやボーダーレスな視点で「TAKT」を観察してもらえる状況が、SXSWの発表会だと考えています。」(秋元さん)
「今までと同じやり方をしても、革新的な家電というのは生まれないと感じています。こうした場所で、将来的な利用者にインタビューし認められる様な製品でなければいけません。今回の出展を経て、TAKTを世界中の人達が求める様な、洗練された製品にまで昇華させていきたいです。」(浅野さん)
アライアンス社 秋元伸浩さん
「SXSWで認められたとしても製品化に向けては、さらに大きな壁があります。現在はセンサーをむき出しのまま使っていますが、利用シーンに合わせたデザインや安全性を考慮した設計に変更していく必要があります。また、小ロットで作っていくための生産方法や購入希望者に向けて販売していく方法なども確立していく必要があります。SXSWに行き他の製品と競い合い、良いコラボレーションを行う事で、その実現に少しでも近づける事が直近の目標です。最終目標は多くの人に使ってもらえる製品とすることですので、今後も邁進していきたいと考えています。」(秋元さん)
GCカタパルト発で制作された「TAKT」。パナソニックから生まれた製品の中では、特に尖って先進的なガジェットであると言えるだろう。多くのユーザーがまだ気が付いていないコーチング分野に対して一石を投じるプロダクトだ。完成には、まだまだ乗り越えなければ行けないプロセスが多いそうだが、「SXSW」でのユーザーヒアリングを経て是非とも製品化まで漕ぎつけて欲しい。
文:佐藤大介 写真:林孝典
第1話
https://brandtimes.jp/companies-post/panasonic-appliance1/
第2話
https://brandtimes.jp/companies-post/panasonic-appliance2/