ソニー発のIoTスタートアップ企業がスマートホーム市場に見る勝機
今、IoTの波が住宅業界にスマートホームというトレンドを生んでいる。今ではIT関連企業や住宅関連企業がこの分野に続々と商品やサービスを送り込み、将来的な市場規模は2020年には世界全体で6兆円、2030年には45兆円にまで拡大する※と見られている。そのスマートホームを“玄関”で実現させるのが、スマホで家の施錠・解錠を可能にするスマートロックだ。今回、スマートロックで圧倒的なシェアを誇るQrio(キュリオ)が約3年ぶりにスマートロック製品「Qrio Smart Lock」をアップグレードした新商品「Qrio Lock」を7月19日(木)に発売するにあたり、Qrio株式会社 代表取締役の西條晋一氏と、ソニーネットワークコミュニケーションズのIoT事業部門 ビジネスプラットフォーム部 サービスシステム課 課長でQrioの取締役でもある井宮大輔氏に、Qrio社のブランドストーリー、新型スマートロック製品「Qrio Lock」への期待、そして理想のスマートホーム構想までを伺った。
※出典:A.T.カーニー分析
ソニーのSeed Acceleration Program(SAP)から生まれたIoTスタートアップ企業
――まずは、Qrioの成り立ちについて教えてください。
西條氏「もともとQrioはソニーとベンチャーキャピタルWiLによる合弁企業で、ソニーが2014年に始めたSeed Acceleration Program(SAP)というスタートアップの創出と事業化を支援するプログラムを運営する部門に私が企画を持ち込んで生まれた会社です。弊社の他にはスマートウォッチのwena wrist(ウェナリスト)やソニー不動産などもSAP発のスタートアップとして知られています。代表商品の『Qrio Smart Lock』をはじめ、弊社製品のハードウェア部分は主にソニーで作っています」
Qrio株式会社 代表取締役 西條晋一氏
――井宮氏にもお伺いします。当時のソニーにとってスマートロックのような商品をSAPのような形で開発される狙いはどんなところにあったのでしょうか。
井宮氏「今はIoTの流れが進み、それによって様々なハードウェアが出てきていますが、ソニーの設計、製造技術を生かしてユニークなハードウェアを開発し、スタートアップでPDCAサイクルを早く回しながらビジネスになる段階まで持っていこうというのが狙いでした」
ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社 IoT事業部門 ビジネスプラットフォーム部 サービスシステム課 課長 兼 Qrio取締役 井宮大輔氏
――Qrioというのはソニーの社員にとっても深い親しみのある名前だそうですね。
井宮氏「はい。Qrioというのは以前にソニーが開発していた二足歩行ロボットのブランド名を引き継いだ名前なんです。かつてはラスベガスのCES(国際コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)にも展示されるほどのソニーの象徴的な製品だったこともあり、今のQrioも事業の規模以上に社内でよく知られた存在になっています。その名前を継がせてもらっているので、恥じないものを作っていこうという想いは強くありますね」
――昨年6月にはQrioをソニーと投資会社の合弁会社からソニーグループの100%子会社にしています。これが意味するところを教えてください。
井宮氏「Qrioを完全子会社にした背景は、Qrioを今まで以上にしっかり盛り上げていこうというソニーグループのシンプルな意思の表れだと思います。さらに、直接の親会社であるソニーネットワークコミュニケーションズは光ファイバーサービスのNURO光に代表されるようなサービス事業の会社なので、Qrioが届けたいことをサポートするという体勢ができあがり、子会社化して以降、実際に様々なサービスの開発が加速していると感じています」
ソニーの確かな技術力とQrioのソフトウェア開発力で、スマートロックのトップへ
――様々なIoT家電が誕生している中で、西條さんがスマートロックを開発しようと思った理由を教えてください。
西條氏「ソニーはこれまでもウォークマンだったりハンディカムなどイノベーティブな製品を通して人々の生活を変えてきたという歴史があります。その文脈で今後どんな分野がイノベーティブになっていくかと考えた時に、IoT家電が面白いのではと思いました。家庭内のソニー製品といえば、インターネットに繋がるブラビアやプレイステーションなど、通信とつながっているものが多いという点でもIoTとの相性が良く、一緒にスマートロックを作ってみようと考えたんです」
――世界的に見てもスマートロックの市場規模は今後年間20%近い伸び率で推移していくと見込まれています。Qrioの「Qrio Smart Lock」も2017年度は前年比3倍以上の売上数を達成したそうですね。西條さんは、こうした成長を後押ししている要因は何であるとお考えですか。
西條氏「我々はスマートロックの認知度はまだまだ低いと感じていますが、ここ1年でいえばスマートスピーカーが普及して、IoTが世間により身近になったことが大きかったですね。とりあえず何となくスマートスピーカーを買った人が、もっと家の中を便利にしたいと思うニーズが顕在化してきています。購買層も大きく変わってきていて、かつてはガジェット系に関心の高い層を中心に男性が95%を占めていましたが、現在は女性が20%近くまで伸びてきています」
――成長分野だけに国内外から新規参入が続いている分野でもあると思うのですが、その中でQrioは一般消費者向けの販売で圧倒的なシェアを誇っています。御社製品の強みはどこにありますか。
西條氏「まずはソニーの技術力に裏付けされた製品の完成度の高さです。当社の製品にはソニーでHDDレコーダーや携帯のアンテナの開発に携わった方、ネットワークサービスに関わってきた方らの技術が結集されています。それに加えて、国内工場で何度もテストを重ねながら作っているので、クオリティと信頼性は世界一であると自負しています。もうひとつは、当社の従業員はインターネット企業から転職してきた人間が中心で、ソフトウェアに関するスキルが高い点です。ソフトについてのクレームを頂いたことはほぼなく、UI・UXについてもかなり研究されたものをお届けできているのも強みです」
――7月5日には「Qrio Smart Lock」の約3年ぶりのアップデートとなる「Qrio Lock」を発表されました。新製品に懸ける意気込みや今回追加された新機能について、教えてください。
西條氏「新製品は帰宅時にスマートフォンアプリを立ち上げなくても自動的に解錠してくれるハンズフリー機能や、ドアが閉まると自動で施錠してくれるオートロック機能がリニューアルされ、ほぼスマホを取り出すことなく鍵の開け締めが可能になります。1号機も十分なスペックだったと感じていますが、スマートフォンアプリを操作してから実際に施解錠動作するまでの時間を1秒以下に短縮したり、本体の小型化など、あと一歩と感じていた部分を改善しています。UI・UXにもかなりこだわっていて、とても満足いく製品が出来上がりました」
Qrio Lock
井宮氏「1号機が出て約3年が経ち、Qrio自体も様々な知見が得られており、それがしっかりと反映された製品だと思っています。品質や性能、特にお客様が感じるUXは格段に上がっています」
スマートロックを突破口に、スマートホームの未来を描く
――ソニーが、今後Qrioに期待する役割は何だと考えていますか。
井宮氏「Qrioは鍵の会社ではなくサービスの会社だと感じています。ソニーの技術サポートを受け製造したスマートロックをサービスとしてお客様に届けるまでがQrioの役割です。Qrioはインターネット関係の人材が多く、ハードウェアと既存のサービスを結びつけて新しいことを考えることが得意な会社です。Qrioは将来的にスマートホームのプラットフォームになっていくような存在。ソニーネットワークコミュニケーションズも技術面と販売面で全面的にバックアップし、Qrioが新しいサービスにチャレンジできる環境を揃えていきたいです」
――最後に西條さんに伺いますが、今後Qrioはどのような将来像を描き、どんな快適な暮らしを私たちに届けてくれるのでしょう。
西條氏「スマートホームという概念は少しずつ浸透し始めているものの、一般消費者の熱量はこれからさらに高まっていく段階だと感じています。Qrioでは、スマートロック製品の他に、子供の帰宅をスマホに伝えてくれる『Qrio ただいまキット』やスマホに物のありかを知らせてくれる『Qrio Smart Tag』など一般消費者に便利だと思っていただけるスマートホーム関連サービスをいち早く提供してきました。これからも皆様にIoTのサービスを通じて、スマートホームだからこそ実現できる生活の豊かさ、便利さ、安心感などを次々に届けていければと思います」
Qrioが描くブランドストーリーは、スマートロックを突破口として、人々の快適な生活全般へとさらに広い世界に向かっている。スマートホーム、ひいては住宅の未来を感じたい人はぜひQrioのスマートロックを手に取り、その第一歩を踏み出してみてはいかがだろう。新型の「Qrio Lock」は、7月19日(木)からAmazon、大手家電量販店などで一般販売を開始する。
★Qrio Lock公式HP
https://qrio.me/smartlock/
Qrio