創業140周年。時計とともに時を刻んできたセイコーが問いかける「やさしい時間」とは。

セイコーホールディングス株式会社

2021年に創業140周年を迎えたセイコーホールディングス株式会社が、新たに音声コンテンツ企画を始動させた。その名も『時問時答(じもんじとう)』。著名人が時間をテーマに自分との対話を重ね、自らの「やさしい時間」について語ってもらうプログラム。その内容は、特設サイトやSpotifyなど各種音声メディアで配信されている。

創業以来、日本初の腕時計、世界初のクオーツウオッチの製品化を行い、電子・情報機器の分野で業界を牽引してきたセイコーが、140周年という節目の年に、なぜ「やさしい時間」と向き合うことになったのか。セイコーホールディングス株式会社 コーポレートブランディング部 副参事 森谷はる代さんに話を伺った。

コロナ禍のいま、「時」に携わるメーカーとして

日本を代表する時計メーカーとして、その実績を重ねてきたセイコー。文明開化によって流入した西洋文化が日本人の生活様式を大きく変えた時代と間を置くことなく創業した同社は、いつの時代も時計とともに人々の暮らしに寄り添ってきた。

時は流れ、令和3年。我々の生活様式がまたもや変わろうとする渦中に、セイコーが問いかけたのが「やさしい時間」だ。この言葉に行き付くきっかけは、ちょうど1年前にさかのぼる。

「時計業界にとって重要な日である『時の記念日』。セイコーは、制定からちょうど100年となる昨年の6月10日、『時の記念日』当日に新聞にメッセージ広告を掲出しました。『時はあなたが刻む。』をテーマに、新型コロナウイルスによる日々の暮らしの変化は、時間の使い方を見直す契機であり、生き方を見つめなおすきっかけになるのではないか、というメッセージです。この広告は読者に好意的に受け止められるとともに、当社にとっても多くの人がコロナを機に自分にとって『時間』とは何かを考えていることが分かる手立てとなりました。それから半年後、今度は当社が140周年を迎えるにあたり、こうした反響を踏まえ、時間に寄り添う企画の実現を考えるようになりました。時間は、私たちにとってとても身近なものですが、普段はそこまで意識することがありません。『時』に携わる企業として、改めて考えてみる機会を提案したいと思ったのです。」

この思いのもと、セイコーがまず発表したのが、今度は「やさしい時間」をテーマにした今年元旦の新聞広告である。

「『誰にとっても等しく存在する時間を、誰かを攻撃したり非難したりするのではなく、自分や他人を思うためのやさしい時間にできたら世界はもっと良くなる』。そんなメッセージを、平和を願う気持ちを込めて発信しました。そのうえで、『やさしい時間』のイメージを具現化し、体感いただくプラットフォームとして用意したのが、『時問時答(じもんじとう)』です。」
「時問時答」特設サイト
「時問時答」特設サイト
『時問時答』とは、2021年3月25日より、創業140周年特設サイトにて公開されているコンテンツを指す。各界著名人が自分にとっての「やさしい時間」を語るメディアであり、インタビューの内容はテキストのほか、音声でも楽しめる。インタビューイ(取材を受ける人)が一人語りで話題を進行するスタイルが特徴的だ。
「やさしい時間」という抽象的なテーマを自分の言葉で語るには、自分自身と深く向き合わなければならない。この作業がまさに自問自答であることに、「時」を掛け合わせたのがネーミングの由来だ。

「音声をメインにしたのは、声の温もりを感じていただきたいからです。人の声を聞いていると落ち着きますよね。コロナで在宅時間が増えたことから、日中ラジオを聴取する人が増えたと聞きます。また、今年に入って音声SNSの『Clubhouse』が話題になるなど、音声メディアへの注目が集まっています。人と会うことがままならないなか、多くの人が、ホッとしたいという思いを人の声で満たそうとしているのではないかと考えました。
一人語りのスタイルも理由の一つです。その人の内面を知り共感することで自分は一人じゃないと感じたり、聴取を機会に自分について考えてみたり。こうした感情を喚起するには、情報を音声だけに絞り没入感に浸ってもらうことが有効と考えました。」

登場人物はアスリート、文化人、芸術家など多彩な顔ぶれである。年代も幅広い、バックボーンも身を置くフィールドも異なる人たちが、「やさしい時間」という共通の話題を掘り下げていくところは非常に興味深い。

「セイコーの社員アスリートや、グループアンバサダーを務める歌舞伎俳優の市川海老蔵さんなど、セイコーにゆかりのある方にも多くご登場いただいています。ただ、『時間』は誰にとっても共通のテーマですので、たくさんの方に聴いていただきたい思いのもと、『この人の時間に関する語りを聞いてみたい』と誰もが思うであろう、各界の第一線で活躍されている方にご出演いただいています。
20代から90代の方までの幅広いラインアップになっていますので、若い方にもぜひ聴いていただき、共感を寄せていただけたら。『時問時答』をきっかけに、セイコーのファンが増えると嬉しいです。」

未来をもっと良くするために。創業者の想いをこの時代に生かす

「やさしい時間」を周年企画のテーマに据えるにあたり、森谷さんはセイコーの創業者、服部金太郎の理念が底流に脈々と流れていると口にする。

「13歳で時計店に奉公し、21歳で服部時計店を創業した金太郎が晩年、力を注いだのが服部時計店本店(現 和光本館)の落成です。関東大震災後に建設された現在の時計塔は、服部金太郎がこだわりにこだわり、建設中にもなかなかデザインが決まらなかったと言われています。それから90年近くが経ついまも銀座の地で愛されている理由は、こだわり抜いた金太郎の思いが人々の心に響いたからだと私たちは考え、そのこだわりを“人々の大切な『時』に寄り添いたいという思い”ととらえています。
現代は一人ひとりの腕に時計がなくても時間の分かる時代です。しかし、役割がスマートフォンなどの情報機器に置き換わっているだけであり、時計本来の機能は失っていません。時代は変わっても、時計は誰しもの生活に密着しています。」
こうした時計の本質に情緒的な付加価値を見出した金太郎の思いと、事業にかける情熱には、いまの時代にも通ずる訓えがあるという。

「金太郎は関東大震災で工場も自宅も失いました。しかし、4日後には工場の再開を宣言します。さらに、震災で焼失した修理のために顧客から預かっていた時計を、同程度の新品に代えて弁済しました。その後、ビジネスは震災前と比べて飛躍的に拡大したのです。現在はコロナの渦中にあります。当時の金太郎と同じ状況ではありませんが、『いまを耐えれば、良い未来が訪れるのではないか』という期待を私たちは持たずにはいられません。
『やさしい時間』というメッセージは、今年だから響くものがあると思っています。いまの時代に必要なものを創業者の生き方になぞらえたのが、先の新聞広告であり、『時問時答』なのです。」

「やさしい時間」とは、自分を認めること

『時問時答』で繰り広げられる、登場者一人ひとりにとっての「やさしい時間」。人となりとともに触れられる、そのたくさんのメッセージを、私たちは「やさしい時間」としてどう受け止めるとよいのだろう。
森谷さんは、現在公開されている内容を交えながら、下記のように答えてくれた。

「6月10日の『時の記念日』に合わせて、前日に公開されたのが、千葉大学 一川誠先生のインタビューです。一川先生は、心理的なアプローチによる『時間学』を提唱されており、当社が毎年発表している『セイコー時間白書』にもご協力いただいています。インタビューのなかで一川先生は、「人それぞれに心地よく過ごせる時間のペースがある」とおっしゃっています。これは、人の多様性に通じる考え方でもあり、『時問時答』をとおし、こうした違いを認め合える素晴らしさに気づいていただければと思います。

また、染色家の柚木沙弥郎(ゆのき・さみろう)さんは、インタビューで「ワクワクし続けるには、何でも面白がって、自分でワクワクするように発見すること」と語られています。いくつになってもワクワクするものを自分で見つける、そういった時間が、98歳の今も現役で創作に励まれ、日常にある身近なモチーフから、見る人の心を和ます彩り豊かな作品を創られる柚木さんにとっての「やさしい時間」であることに、共感される方は多いのではないでしょうか。

このほか、国立アイヌ民族博物館で学芸員をされている北嶋由紀さんは、子どものころ、自分のルーツであるアイヌを遠ざけてしまっていたと言います。しかし、アイヌ文化に触れその魅力を知った今では「自分がアイヌでないことは想像もできない」「今はとても幸せ」と話しています。

「やさしい」という言葉は本来、「あの人、やさしいよね」のように人を表すときに使われますが、自分にやさしくなれない、つまり自分を認めてあげられないときが誰にもあると思います。けれども、自分を認めてあげられると気持ちが楽になり、ハッピーにもなれます。自分に対してそうであるのなら当然、人に対してもやさしい気持ちになれる、それに気づくことが「やさしい時間」ではないでしょうか。わたし自身、皆さんの話を伺いながら、考えているところです。」

ウェブとリアルで140周年を訴求

現在、『時問時答』は月2回のペースで更新されている。また、このほかの周年企画としてセイコーウオッチから140周年記念モデルが発売中だ。6月4日(金)~10日(木)に和光ホールで開催中の「セイコー創業140周年記念展」の他、製品の発売イベントを各地の百貨店などで順次展開する予定という。

「ここでは製品のご案内だけでなく、セイコーウオッチを歴史的な文脈でもご紹介できる映像や、昨年夏にオープンした『セイコーミュージアム 銀座』の展示物もご用意しながら、プロモーションを行う予定です。ご来店の皆さまにセイコーの歴史をご理解いただきながらお買い物をお楽しみいただける企画にしたいと考えています。」
ウィズコロナの時代、私たちの生活は多くの制限を受け、自由に移動することも人に会うことにも我慢を余儀なくされている。周りで咳が聞こえれば疑心暗鬼になり、感染者情報に触れては一喜一憂する。
このようにして心をすり減らす時間が生まれるなか、コロナをきっかけに時間の使い方を見直し、自分にとって大切にしたいことが何か見つけ出せた、と精神的な豊かさを得た人も多い。
こうした「やさしい時間」を過ごせる人が、もっと増える世の中になるといい。自分はもちろん他人に対してもそう祈れる人が増えれば、コロナが明けた世界はいままでとは違う景色を見せてくれるはずだ。

おりしも、きょうは時の記念日。
あなたにとっての「やさしい時間」とは? 『時問時答』が静かに紡ぐ「やさしい時間」に触れながら、思いを巡らせる1日を過ごしてみてはいかがだろう。


セイコー140周年記念 インタビュー「時問時答」
 - 特設サイト
https://www.seiko.co.jp/140th/
 - Spotify | https://open.spotify.com/show/4d5BCZdxhU8NvKYUGhgkqO

セイコー140周年特設サイトhttps://www.seikowatches.com/jp-ja/special/140years/

PROFILE

  • セイコーホールディングス株式会社 コーポレートブランディング部 副参事 森谷はる代

    セイコーホールディングス株式会社 コーポレートブランディング部 副参事 森谷はる代

2021年6月10日

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