「Webマーケティング」と聞くと、多額の予算と時間がかかる印象を受けるのではないだろうか。リスティング広告の代理店をビジネスモデルとする場合、広告予算の中から手数料をもらう形式をとっている。そのため、広告予算が多い大企業を重要視しがちだ。だが、ソウルドアウト株式会社では地方・中小企業やベンチャー企業に特化にしたWebマーケティング支援事業を展開している。企業規模や、会社拠点に関わらず効果の高いマーケティングをどうやって実現するのか、同社SMB推進本部本部長の葛谷篤志さんに詳しい話を伺った。
テクノロジーを活用し、お問い合わせから受注まで最短で30分に
―――ソウルドアウトでは、地方・中小企業にどういったサービスの提供を行っているのでしょうか?
「ソウルドアウトでは、地方・中小企業向けに、ネット事業を加速するためのサービスを提供しています。これまでに3,000社以上のお客様をご支援してまいりました。私の所属するSMB(Small Middle Business)推進本部では、1万円からできる少額のネット広告活用サービスをご提供しております。」
――例えば、どのようなお客様からのお問い合わせが多いのでしょうか?
「かなり幅広い業種の企業様からのお問い合わせをいただきます。一例としては、ペット保険・女性限定のシェアハウス・男性向けコスメなどですね。それまでは、あまりWebマーケティングに注力してこなかった企業、初めてWebマーケティングを実施したいという企業からのご依頼も多いです。」(葛谷さん)
――生命保険や自動車保険の広告はよく見ますが、ペット保険は稀ですね。
「そうかもしれません。例えば、ペット保険はペットの生後すぐの数か月までの加入が圧倒的に多く、それ以降になると加入率が減少します。そのため、ペットを飼い始めたタイミングでいかにアプローチするのかということに集中して広告を出稿しています。このように広告効果を高めるためには、それぞれの事業構造を理解し個別にカスタマイズした広告配信が必要です。」(葛谷さん)
――そういったさまざまな業種のお客様からは、どういった経緯でお問い合わせをいただくのでしょうか?
「会社の設立当初はテレアポなどのプッシュ型の営業を中心に、お客様との接点を作っていました。しかし、数年前に大きく方針を変え、現在では多くのお客様からのお問い合わせはソウルドアウトが運営する「LISKUL」というメディアをきっかけに生まれています。」(葛谷さん)
――LISKULはどのようなメディアなのでしょうか?
「まだWebに注力していない、近くに相談できるWebの専門家がいないなどの理由でWebマーケティングの情報が得にくい中小企業経営者やWeb担当者向けに、リスティング広告などのWebマーケティング情報をお伝えするメディアです。おかげさまで、メディア設立から約3年半が経った今では、月間70万PVほどになり、毎月200社ほどからお問い合わせをいただけるようになりました。」(葛谷さん)
――Webメディアから、どのようにお問い合わせにつなげていらっしゃるんですか?
「お問い合わせてきた方が、それまでにどういった記事を読まれていたのか?などがわかるマーケティングオートメーションツールを活用しています。また、お問い合わせや電話をいただいたら、10分以内にご連絡をすることを心掛けています。現在、私たちの部署では会社訪問は行わずに、テレビ会議にてお客様とのやりとりを行っています。これによって、営業活動の生産性を大幅に改善することに成功しました。」(葛谷さん)
――テレビ会議ですか?
「そうです。今までは営業はお客様と顔をあわせないといけない、と考えられていました。しかし、まずは即日ご連絡を行い、自己紹介や資料などコミュニケーションにしっかりと工夫すれば、対面での営業と同じように信頼をいただけます。従来の営業スタイルでは、訪問日を調整、見積もり作成といった段取りで、数日から1週間程度かかっていましたが、すぐに広告を出稿したいというお客様のご要望にお応えすることで、今ではお問い合わせから30分もかからずに、ご発注をいただけるケースもあります。」(葛谷さん)
――30分は非常に短いですね。
「テレビ電話を使えば、お客様側としてもすぐに相談や不安の解消ができますし、来客の準備などの手間も省くことができます。私たちも営業の移動や外出の時間を減らせるため、営業とネット広告を実際に運用するチームとの連携を取りやすくしました。その結果、お客様の希望される広告出稿のタイミングへの対応もさらにスムーズに行えるようになりました。移動時間、準備時間を減らすのが目的ではなく、お客様からの広告出稿のご要望にお応えするために考える時間、広告による効果を上げるための時間を捻出するために取った工夫の1つです。」(葛谷さん)
――ネット広告の運用面でも、何か工夫をされているのでしょうか?
「はい。広告の効果についての報告書作成や広告の状況が管理できるツールを使って、作業の効率化を図っています。お客様にネット広告の成果を報告するために、一目で広告全体の効果がわかる資料を毎回作ります。しかしネット広告は種類もターゲティングも多く、結果の数字も複雑になりがちです。そういった細かな数字をExcelに貼り付けるといった作業は、多くの担当者の負担となっていました。そこで、グループ会社の株式会社テクロコでそれらを自動的に行い、お客様に毎週送信するところまでできるツールを開発し、そういった“作業”にかかる時間を大幅に削減しました。レポートに関しても自動送付により透明性を担保し、社内の不正やミスなどの予防をするという意味でも重要だと思っています。それによってもちろんミスも減り、さらに次にどういったアクションを行っていくべきかという検討やコミュニケーションなどにより多くの時間を使えるようになりました。」(葛谷さん)
――テクノロジーと人ができることの両方で、さまざまな工夫をされているんですね。
「ありがとうございます。とはいえ実はテレビ会議などの施策には、お客様側に準備の手間などを要求してしまう面もあります。しかしこういった手法を取る背景には、2011年に私が新潟でソウルドアウトの営業所を立ち上げた時にした経験があります。例えば、新潟のお客様にお会いすると『Webのマーケティングを支援してくれる会社』というよりも、『インターネットに関するすべてを教えてくれる会社』として捉えられる場合が多いんです。」(葛谷さん)
――インターネットに関するすべて、というと?
「例えば、私が新潟にいたころはサーバ設置からメールアドレスの取得まで、質問されていました。お客様から信頼されるのは嬉しいですが、そういう作業に時間を使っていては、お客様が本当に求めている成果に貢献しきれません。まずお客様自身に、ある程度インターネットを好きになってもらったり、慣れ親しんでもらったりする必要があると考えていました。テレビ電話での打ち合わせも、企業によってはそういうインターネットに慣れ親しむ1つのきっかけになっている面があります。」(葛谷さん)
理論とは異なる「ゼロからの地方営業拠点立ち上げ」
――新潟営業にいらしたんですか。
「はい、ソウルドアウト設立の翌年の2011年に1人で立ち上げました。そこでは2年間、新潟エリアのさまざまな業種の企業さまの支援を行い、地方の中小企業様の抱える問題を間近で見て、支援をしてきました。その後、東京本社の新規営業部門の統括を経て、現在のSMB推進本部の本部長を務めています。」(葛谷さん)
――新潟は、ご縁のある土地だったのでしょうか?
「いえ、まったく住んだこともない土地でした。もちろん立ち上げ当初は、取引のあるクライアントはもちろんゼロ。なので電話帳を見てテレアポ、というアナログな営業スタイルで開拓していきました。新潟営業所では、東京での営業とは全く違う悩みも抱えました。」(葛谷さん)
――例えば、どのような悩みですか?
「まず東京と地方では、Web担当者のおかれている状況が大きく違います。例えば、東京のWeb担当者は比較的年次の若い社員が対応することが多いです。しかし、新潟ではベテランと呼んでも遜色ない方や社長が兼任でWebを担当されている場合も多くありました。なので若いというだけで怪しまれてしまうことも、非常に苦労しました。少しでも信頼してもらいたくて、代表の荻原から髪型から服装までアドバイスをもらい、見た目の貫禄をつけるなど、さまざまな工夫をしていました。また営業活動以外にも新潟ならではの稲刈りのお祭りや酒蔵見学の地域のイベントにも積極的に参加し、お客様との信頼関係をつくっていきました。よそ者と思われないために、新潟人になることに1年間集中しました。お客様と過ごす時間があれだけ多かったのは、本当に良い経験で、良い思い出です。余談ですが、後任で配属された担当は稲刈り後の「伝統舞踊」にハマり、今でもその行事に関わっているくらいです。」(葛谷さん)
――新潟らしいご経験ですね。他にも、新潟の企業と向き合う中で悩みはありましたか?
「打ち合わせで使用する言葉にも非常に苦労しました。例えば、中小企業の経営者と商談をしていると、『リスティング広告』というキーワードだけでは、いったいどういう広告なのか?が伝わらないこともしばしばありました。『インターネットの広告』と伝えるべきなのか、『ホームページに誘導する施策』と伝えるべきなのか、はたまた『ネットのチラシ』というべきなのか。それぞれの方の状況に合わせて、イメージがしやすい言葉でわかりやすく伝えるように気を付けていました。そういったコミュニケーションの取り方のポイントなどは、今も活きています。」(葛谷さん)
2017年は「使命感」に則って挑戦する年
――2017年のビジョンを教えてください。
「地方の企業様では、まだまだテクノロジーを活用したマーケティングは十分に浸透していないと感じています。例えば、塾・エステ・結婚相談所など、新聞読者とマッチしていないにもかかわらずチラシ配布を続けている事業者は意外と多いのが現状です。それまでそこにかけていた費用の半分でもWebの広告に投資してもらうことで、より大きな結果を出せるように支援していく。2017年もそういった課題を抱える企業様の支援をすすめ、SMB市場の創造をしていきたいと考えています。」(葛谷さん)
――そのためには、何が必要なのでしょうか?
「先ほども少し伝えましたが、中小企業がインターネットの力で成長するためには、“インターネットを楽しんで使えるか?”が大切です。実際に、上手にインターネットを活用して、楽しみながら見込み客やお客様を獲得している中小企業はたくさんあります。そもそも興味をもてないとなかなかうまくいきません。ソウルドアウトでは、地方・中小企業の経営者だからこその問題をきちんと理解した上で、そういったところからアドバイスができる存在でありたいと思っています。」(葛谷さん)
ネット広告の分野から、地方・中小・ベンチャー企業に新たな風を吹き込むソウルドアウト。アナログな熱い部分とテクノロジーを活用するクールな部分。その2つをバランスよく持つ、稀有な企業と言えるのではないだろうか。創業から10年立たずに、3,000社以上の実績を作った背景には、そうした背景があるのかもしれない。