堅実な理念と着実な経営で世紀を超える企業へ。不動産業界のアクセラレーターが抱く理念【後編】
PROFILE
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株式会社シーラホールディングス 取締役会長 杉本宏之
1977年、茨城県守谷市生まれ。
2001年に株式会社エスグラントコーポレーションを設立。業界史上最短・最年少で株式上場を果たすも2008年のリーマン・ショックの影響を受け2009年に民事再生法の適用を申請。2010年株式会社SYホールディングス(現、株式会社シーラホールディングス)を創業。
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株式会社サイバーエージェント 代表取締役社長 藤田晋
1973年、福井県鯖江市生まれ。
青山学院大学経営学部卒業後、人材派遣会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア)に勤務。1998年に起業し株式会社サイバーエージェントを設立、代表取締役として2000年には、26歳という当時史上最年少で東証マザーズに上場を果たす。
新経済連盟 副代表理事。
杉本 宏之氏は24歳で起業し、わずか4年で当時経営していたエスグラントコーポレーションを上場させた。しかし、リーマン・ショックにより、400億円の負債を抱え、民事再生を申請。その後、再び起業し、シーラホールディングスをグループ7社、売上高200億円を超えるまでに大きく成長させた。また、メイクス、ヘヤギメ、ファンタステクノロジーなど、不動産ベンチャーに投資をおこない、売上高100億円を超える企業に成長させた。更に投資先のうちGAテクノロジーズ、ツクルバなどが新規上場を果たしている。直近では、トラスティーパートナーズやネクサスエージェント、アクティスアセットマネジメント、ガーネットなど新興の不動産企業にも積極的に出資を行い各社の事業グロースに大きく貢献し、不動産業界のアクセラレーターとしても高名だ。
後編では、杉本氏と公私ともに親交が深い株式会社サイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋氏との対談を通じて、杉本氏の経営者や人としての魅力に迫る。
前編はこちら(見城徹氏×杉本宏之氏)
悲観するよりもリスクを想定し難局を乗り越える。利他的行動が成長の鍵
――リーマン・ショックなど大きな試練も乗り越えられてきた経験を踏まえ、リスクに備えた心構えや、気をつけていることはありますか。
杉本氏
最善と最悪を常に同時に考えて情報を集め、ちょっとした変化に気づけるようにしています。当社では、5期連続過去最高益、過去最高売上を達成している現在でも、毎週役員全員が集まってブレストを行う場を設けており、常に最悪の事態が起きた時のことを想定した話し合いを行うように心掛けています。
――女性の社会進出やベンチャー企業の台頭、人口減少も含めて良い方向にも悪い方向にも日本が大きく変容している今、経営者にはどのようなことが求められていると思いますか。
杉本氏
マーケットの縮小や人口減少で、日本はもうだめになっていくと思っている人たちもいますが、僕は日本という国は世界に冠たる国だと思っていますし、経済的にも国民の本質的な意味でも、集団で力を発揮するという特徴があると思っています。借金が一千兆円あると言っても、逆に言えばバランスシートでは資産として評価されるものがあるということです。
悲観してばかりいても何の意味もないので、我々経営者を含め、日本国民一人一人がもう一度、この国を見つめ直して、少しでも日本をよくするために利他的行動をしていくべきだと思います。
――ご自身の経験をふまえて、起業家やビジネスマンが意識すべきだと思うことはございますか。
杉本氏
お客様と自分たちの幸せを両立しないといけないということです。僕は一度失敗して、究極の体験をしました。お金がなくなったら潮が引くように人が去りましたが、残ってくれた人たちに助けられて今があると思っています。その経験から僕は人生の目的を、「関わった人を幸せにする」と決めました。
会社においてお客様と社員を幸せにすると決めてから、売り上げはあまり気にしていません。もちろん上場を目指すという長期的な目標がありますが、売り上げは結果に過ぎません。
人生の中で一時は、利益を追求してしまうこともあるとは思いますが、最後は結局、お客様と社員の幸せ、そして社会への還元を考えた会社でなければ生き残れないと思っています。
ビジネスマンでも部下を踏み台にのし上がるなんてありますよね。振り返って反省して、還元できる人になれればいいですが、気づけない人も結構いるので良くないなと思いますし、会社でも取引先や下請けをないがしろにする人は恨まれますよね。すると結果的に、恨まれている人たちに足元を掬われてしまうんです。
株式会社サイバーエージェント代表取締役社長 藤田晋氏が語る杉本宏之氏とは
――お二人は出会いから14、5年経たれていて、長いお付き合いだと伺っていますが、印象に残られているエピソードなどをお話いただけますか。
杉本氏
藤田さんは私にとって憧れの経営者であり、メンターであると同時に、以前私が経営していたエスグラントの大株主でもありました。リーマン・ショックで会社が危機を迎え、ご説明に伺った際、「役員会で株を売れと言われている、ちゃんと経営しろよ」と辛らつな叱咤激励を受けて、株は売られるんだろうな、と思いました。
しかし民事再生の後処理をしてわかりましたが、藤田さんとサイバーエージェントが所有する株は一株も売られていませんでした。その後、藤田さんにお会いしたら「売ると言ったつもりはない。二束三文で売るよりも杉本の再起の可能性に賭けた」と言って下さって、この人だけは一生裏切っちゃいけないと、何があってもこの人には誠意を尽くそうと思った初めての人です。
藤田氏
今の話をよく美談のように話してくれるんですが、辛らつな言葉というのは覚えていません。たぶん、単純に経営者同士としてしっかりしろよ、という話をしたのだと思います。
投資もしていましたが、株主としての付き合いより、リーマン・ショック直後、彼は車を持っていなかったのでゴルフや食事に行く際、何度も迎えに行かされていたのが印象深いといえば印象深いですね(笑)。
杉本くんにはそういう人間的な魅力があるということです。
――杉本氏は今は業界のアクセラレーターとして様々な企業に支援をしていらっしゃることで有名ですが、藤田氏から見た杉本氏の強みをお聞かせ下さい。
藤田氏
不動産業界における幅広い知識と金融機関からの信頼です。一度どん底を見ると心が折れたり、経営が怖くなったりします。過去のことで彼が銀行を恨んでいれば付き合えませんし、申し訳ないと思い過ぎていたら銀行からすれば頼りなく見えるものですが、彼はいい意味での鈍感力としたたかさを持っています。
杉本氏
手前味噌ですが、近年、金融機関は資金を貸したい企業と貸したくない企業の二極化が進んでいますが、お蔭様で貸したい企業の側だと言っていただいております。失敗の経験を元に今度は「借りてください」と言われる会社になろうと10年やってきて、やっと、それが実現しました。
――その評価は事業としての軸足がぶれていないというところにも繋がってくると思うのですが、藤田氏も「インターネット産業から軸足をぶらさない」という行動規範を掲げられています。そのお考えについてお聞かせください。
藤田氏
自分の領域からはみ出して失敗した方々を見ているので、ネットビジネスから軸足をぶらさないということを常に考えています。ネット産業が伸びているから、我々が強みを発揮できるんだということを忘れてはいけないと思っています。
杉本氏
僕はリーマン・ショックの経験と藤田さんから、余計なことをやらない、軸足をぶれさせないということを学びました。ひたすら当社が所有するマンションの家賃と管理収入で社員の給料をストックし、お客様が幸せにならない物件は作らない。そして売り上げや利益を気にしなくなったら、結果的に過去最高益を更新していました。
――お二人とも人材に重きをおいているところに共通項がおありですが、経営者として、人材育成の重要性をどのようにお考えでしょうか。
藤田氏
やる気のある社員に事業を経験させることで、成功も失敗も会社の資産になりますし、人材育成にもつながるというのが僕の考え方です。でも、たとえば「AbemaTV」のような、まったく新しい分野に参入する時は、リーダーである自分が先に立って背中を見せるようにしています。何にしても人を育成するのが目的という点では同じです。
杉本氏
僕は現場がわかっていないと言われる経営はだめだなと思っていて、現場と運営をバランスをとってやれるように配分しています。昔と比べてとても忙しいのですが、充実していますね。
藤田さんが仰ったように会社の勝負どころでリーダーが出ていかないと、人任せは無責任ですし、引っ張っていくことで社員の士気が高まります。たとえば、営業に同行すると、社員も違う視点で仕事を見れたりして喜んでくれるので、空いた時間はなるべく営業に同行します。
――お二人の交流の深さはお話からも伺えますが、杉本氏が藤田氏から影響を受けているなと感じることはありますか。
杉本氏
藤田さんがいつでも冷静に俯瞰して現状を分析されるところが、経営者としてすごいと思います。冷静に俯瞰して、自分たちの組織も違う角度から見るということを、藤田さんから学びました。今では、規模の大きな話をする人と対峙した際は、すぐにその会社の財務分析をするようにしています。不動産業界では話を盛る人が多いので(笑)。
藤田氏
不動産業界は華やかな人がたくさんいるから、煽ってくる人も多いだろうしね。
杉本氏
人間の心理として「俺だって」という気持ちが出てしまう若手もいると思いますね。
僕の場合、様々な経験をしたので、謙虚に愚直にと自分に強く言い聞かせています(笑)。
株式会社シーラ