大正7年創立、100周年を迎えた帝人グループ。次の100年に向けた新たなる挑戦
去る6月17日に創立100周年を迎えた帝人グループ。創立記念日に先立つ6月15日に、グループの長期ビジョン「未来の社会を支える会社」に向かって、力強く発信する新たなグローバルメッセージ「FUTURE NAVIGATION」を社内外に発表した。併せて、この言葉を具現化する象徴的な取り組み「THINK HUMAN PROJECT」も明らかになり、先人のスピリッツを受け継ぎ、次の100年に向けた新たな挑戦に踏み出そうとしている。日本初のレーヨンメーカーとして米沢の地に創業し、いまや2万人近い従業員を抱える巨大企業グループに成長した帝人。何が100年の歴史を支え、次の100年はどんな未来を描いていくのか。企業の現在地と未来をCEOの鈴木 純氏に伺った。
帝人株式会社 代表取締役社長執行役員 鈴木 純 氏
作るもの、売るものを変え、挑戦と革新で進化を遂げながら歩んできた100年
帝人の歴史は、大正7年(1918年)に当時「日本一の総合商社」と呼ばれた鈴木商店の子会社から人造絹糸(レーヨン)の製造部門が独立したことから始まる。まずは帝人のこれまでと現在地を鈴木氏に伺った。
――帝人というと化学メーカーというイメージが強いのですが、現在は大きく分けてどのような領域の事業を展開されていますか。
鈴木氏「帝人は100年前にレーヨンの製造企業として創業して以来、長きにわたりポリエステルをはじめとする化学繊維を軸としたマテリアル事業を展開してきました。その途上で1960年代からは経営多角化を図り、1970年代には医薬事業に参入。1980年代からは日本の企業の中でいち早く在宅医療のニーズに応え、さらに当時まだ珍しかったIT事業に取り組んできました。今はもう祖業のレーヨンを作っておらず、マテリアル事業はアラミド繊維、炭素繊維などの高機能繊維が主流になっています。そうした移り変わりを振り返ってみても、作るもの、売るものを変えながら、マテリアル、ヘルスケア、ITそれぞれを強みにしてきた企業であり、こうして進化を遂げながら100年を迎えられたことに喜びと誇りを感じています」
――CEOに就任されて4年。100年という歴史の重みを日々感じながらこの日を迎えられたと思いますが、ここまで帝人という企業を支えてきたものは何であるとお考えですか。
鈴木氏「創業期の帝人は今でいう米沢市(山形県)発のスタートアップのような企業で、そこから化学繊維の分野をきっかけに海外でも認知されるようになりました。その一方で、最先端の研究開発や日本になかったビジネスモデルの導入などの画期的なイノベーションを起こしながら今日まで成長してきた企業でもあります。そうしたベンチャースピリットやグローバルマインド、そしてチャレンジングなDNAの継承が今の帝人を支えていると思います。もちろん100年の歴史の中には苦難の時期があったことも事実で、そこを懸命に乗り越えてきた、先人たちの努力のおかげで今日を迎えられたとも感じています」
帝人 の発祥の地であり、日本人繊工業が生まれた原点である米沢。1971年、「人繊工業発祥之地」の石碑が建立された
新グローバルメッセージ「FUTURE NAVIGATION」。人を知り、人を考え、人があるべき未来の案内役になりたい
今回、創立100周年に際して鈴木氏から発信されたのが「FUTURE NAVIGATION(フューチャー・ナビゲーション)」という新たなグローバルメッセージである。さらに、そのメッセージに基づく具体的な取り組みとして「THINK HUMAN PROJECT(シンク・ヒューマン・プロジェクト)」を展開することも明らかになった。これは「未来の社会を支える会社」という長期ビジョン、ひいては「QOL(クォリティ・オブ・ライフ=生きていることの価値)向上のためのイノベーションを起こす」という企業理念をより目に見える形で実現していこうという姿勢の表れだ。
――2017年2月には2019年度までの3カ年の目標、および長期ビジョンを含めた中期経営計画を発表されていますが、その上で新たに「FUTURE NAVIGATION」というグローバルメッセージを掲げられた狙いは何ですか。
鈴木氏「このタイミングを節目として次の100年を考えた時に、『未来の社会を支える会社になる』という長期ビジョンの実現に向けたグローバルなメッセージとしてより力強く打ち出したかった。この言葉の中には、これからもQOLの向上を示し、世の中へ価値創造を届け続けていく提案型の企業でありたいという当社の想いが込められています。また、このメッセージは世界中に存在する帝人グループ企業の共通概念として、世界各国でこのメッセージを元にした活動を行っていきます。
――100周年に際しては「未来のQOL向上の本質的な答えは“人”にある」ということを強調されています。帝人はこれまでも人に寄り添った製品を提供されてきたと思いますが、ここで改めて「人」を中心に考えると再定義した理由を教えてください。
鈴木氏「我々の事業では、すべてにおいて人が関わってきます。次の100年の中で化学やテクノロジーはさらに格段に進歩していきますが、それらが人の暮らしを飲み込んでしまってはならない。そこで我々は化学の領域を超え、改めて人を知り、人の本当の豊かさとは何かを踏まえて進化を遂げていくことで、人があるべき未来への案内役になれるのではないかと思っています。つまり、事象に対してソリューションを提供するというこれまでのスタイルから、自ら未来の人のQOL向上を考え、それに向けた提案型のソリューションを提供する組織になる。それを実現するための答えは「人」にあると思っています」
――そして、このグローバルメッセージを具体的な形で実行していくのが「THINK HUMAN PROJECT」であると伺いました。帝人の新たな挑戦に注目されている方も多いかと思いますが、ここではどのような展開をされていくのでしょうか。
鈴木氏「提案型企業を目指す上での実験的なプロジェクトと位置付けています。国内外から参画した社員を中心に、人間らしさ、衣服、感性、加齢、環境、住空間、食、移動、超高齢社会の各領域でプロジェクトチームを作り、未来の人のQOL向上に向けての様々な検証や考察を進めていきます。経過や成果は100周年特設サイト(https://100.teijin.co.jp)で継続的に順次発信していき、12月には各プロジェクトチームがその集大成となる発表を行う予定です」
――9つのテーマのうち一部は既に進行しているものもあるそうですね。
鈴木氏「環境プロジェクトの一部では、オランダ人冒険家のエドウィン氏が率いる「Clean 2 Antarctica」との取り組みが始動しています。これは“Zero Waste”をコンセプトに掲げる全く新しいアドベンチャープロジェクトで、リサイクル素材を使用した環境配慮型のソーラーカーで、再生可能エネルギーのみを利用して南極点を目指すというもの。我々は彼の想いに賛同し、サポートを決めました。持続可能な未来にこの「サーキュラーエコノミー(循環型社会)」という概念が何よりも必要であると感じており、未来の社会に対し、この概念を牽引する企業として貢献していきたいと思っています。このように様々な視点で人や未来の暮らしを見据えて「THINK HUMAN PROJECT」を推進し、これから随時経過をお伝えしていきますので、そちらを楽しみにしてください」
――ここから新製品が生まれることもあるのでしょうか?
鈴木氏「このプロジェクトでは今日のニーズではなくもっと将来のあるべき姿を想像していくつもりで、こうだったらいい“かもね”というようなテーマにも積極的に取り組んでいきます。そのため、すぐに事業化できるかといわれればそうでないものもありますが、こうしたプロジェクトを通じて、これまで以上に能動的にモノや技術を考えられる組織を作っていくことも目的のひとつです」
――未来を予測することは難しいと思いますが、帝人はどんな風に変わっていくのでしょうか。
鈴木氏「大きな意味でのマテリアル事業領域とヘルスケア事業領域を二本柱として成長を図るとともに、これらの事業をICT技術基盤が支え、それらが有機的に融合して発展を図っていく。そんな形を作りながら技術革新やビジネスモデルの刷新を進め、社会の抱える様々な課題、将来の課題に応えていく会社でありたいですね。これからも帝人ならではのソリューションを創出し、社会に対して新しい価値を提供し続けていきます」
最後に、新しい100年に残していきたい「帝人らしさ」は何かを問うと、「やはり先進先取の精神。チャレンジングな精神や時に物事をガラッと変えられる気質は絶対に残したい」と答えてくれた鈴木氏。その視線は新たなチャレンジに向けた期待感に満ちていた。今回発表された「FUTURE NAVIGATION」、さらにはこれから始まる「THINK HUMAN PROJECT」が、新たな帝人の姿を作り、未来の人のQOL向上に大きな貢献を果たしていくに違いない。随時更新されるプロジェクトの進捗を楽しみに待とう。
帝人