2020年までに日本をWi-Fi大国へ。タウンWiFiが日本の眠った通信インフラを目覚めさせる
2020年を目指し、設置数が拡大しているフリーWi-Fi。通信料を抑えられるメリットがある一方で、ログイン作業の煩わしさや、遅いWi-Fiに繋がってしまうことがストレスでもある。そんな社会に突如「Wi-Fi自動接続サービス」を提供し、Wi-Fiユーザーを歓喜させた人物がいる。株式会社タウンWiFiのCEO荻田剛大氏だ。
株式会社タウンWiFi CEO 荻田剛大 氏
実は誰もが欲していた「フリーWi-Fi自動接続アプリ」
読者の皆様も一度ならず、カフェなどでフリーWi-Fiにはお世話になったことがあるのではないだろうか。しかしながら、Wi-Fi接続後にブラウザを立ち上げ登録作業を行うという利便性の悪さや、セキュリティ面の懸念から利用を躊躇してしまう一面があるのも事実。
『タウンWiFi』アプリは、このハードルを見事に解決してくれている。アプリをダウンロード後、初回設定を行えば、あとはアプリが周りのフリーWi-Fiを探し、登録/ログインを行い、暗号化してセキュリティを担保した上で通信を行ってくれるという優れものだ。
『タウンWiFiアプリ』近くのフリーWi-Fiに自動接続
タウンWiFiの暗号化機能
さらに、速度の遅いWi-Fiに繋がない設定や、通話時はWi-Fiに接続しない設定など、まさに“痒いところに手が届く”サービスづくり。その根底には、「誰もが快適にインターネットを楽しんで欲しい」という荻田氏の信念がある。
「タウンWiFiを立ち上げる前は、楽天で楽天市場の開発チームに所属し、楽天市場の流通向上やユーザビリティの改善に取り組んでいました。2014年頃、自宅の引っ越しを行ったのですが、部屋にWi-Fiがなかったので、携帯回線で動画を見ていると、スマホの通信制限に引っかかってしまい、ブラウザの閲覧はもちろんLINEすらおぼつかない状況に。とにかく不便で、インターネットに快適に繋がらないことがここまでストレスなのかと痛感しましたね。」
このシンプルな不満が、彼の人生を大きく変えることになる。
「友人にも聞いたところ、多くの人が通信制限の経験があり、制限が解除されるまでインターネットの利用を控えめにするという行動が浮き彫りになってきました。楽天市場の改善をして流通をあげようと努力していた身として、『インターネットを我慢するってなんだよ!もっと使えよ!』と思ったんです(笑)。通信制限ってインターネット業界の損失だと感じましたね」
「この問題を解決するのは自分だ!」となぜか確信したのだと笑う。とはいえ独立の気持ちはなく、楽天内の新サービスとして進めるつもりだった。楽天モバイルの立ち上げ時期とも重なり、楽天モバイルに付随するサービスとして「どこでもWi-Fi」のアイディアを提案した。ただ、残念ながら社内コンセンサスが取れなかったという。
「今思うと、アイディアも全然練れておらず、穴だらけだったんでしょうがないと思います。ただ、このサービスは楽天内では出来ないことが確定したので、サービスを諦めるか、会社を辞めるかの2択でした。今思うとすごいですが、じゃあ辞めようとスパッと決断できましたね。ここで諦めたら一生後悔すると思ったので」
楽天を退社後、1年ほど試行錯誤を繰り返した。その期間に得た教訓や課題を元に現在のサービスを開発、2016年5月に『タウンWiFi』をスタート。その瞬間、奇跡が起こったのだ。
「サービス開始からわずか2カ月で100万ダウンロードを達成しました。あまりの伸びに私たちも信じられませんでしたが、フリーWi-Fiに毎回ブラウザでログインする煩わしさを多くの人が感じていたのだと改めて実感しました」
その後もタウンWiFiは利用者数を順調に拡大し、350万ダウンロードを突破。ユーザーの課題を解決する、求められていたサービスである証明だ。
日本の高品質な光回線&Wi-Fi環境が活用しきれていない
ユーザー拡大だけではなく、タウンWiFiはフリーWi-Fiの設置スポット拡大にも力をいれている。アプリ内に「Wi-Fi設置リクエスト機能」を設け、要望が多い施設にWi-Fi設置の働きかけやWi-Fiルータの無料プレゼントを行っているのだ。タウンWiFiの自動接続スポットには、コンビニのように既に設置済みの場所と、独自にWi-Fiを設置した場所がある。すでに独自で約1万スポットにWi-Fi設置を行ったというから驚きだ。このWi-Fiスポット拡大を重点的に行う理由には、日本におけるWi-Fiの課題があるという。
「日本にはWi-Fiスポットが少ないと言われますが、弊社が世界中のWi-Fiを調査した限りでは、むしろ多い方です。問題なのは種類の多さと設置場所です」
タウンWiFiが把握しているWi-Fiスポットを光の粒にした画像。首都圏が多いのはもちろん、全国にスポットがあるのがわかる
「例えば東京には、駅や街中に数多くのWi-Fiがあります。ただそれぞれが別々のSSID(Wi-Fiの名称)、別々の認証形式で提供されているため利便性が落ちてしまっているのです」
確かに、千代田区には「CHIYODA_Free_Wi-Fi」や「CHIYODA_Free_Wi-Fi_01」というSSID、渋谷区には「0000Shibuya_City_01」や「-play-shibuya-free」というSSID。駅には、「Metro_Free_Wi-Fi(東京メトロ)」、「Toei_Subway_Free_Wi-Fi(都営地下鉄)」「JR-EAST_FREE_Wi-Fi(山手線など)」とそれぞれ別々のSSIDが、別々の認証で存在する。外国人の方からすると名前がわかりにくいし、それぞれに都度ログインが必要。これでは利便性が悪い。
「翻って、韓国の首都であるソウルで提供されているのは、「PublicWiFi@Seoul」というSSIDです。非常にわかりやすいし、認証も共通で一度ログインすればOKと利便性も高いです。設置されているWi-Fiの数は日本のほうが多く、速度も日本のほうが早いのに、伝え方が悪く、非常にもったいないんです。私達が認証の共通化部分を担うことで利便性を上げ、より多くの人が日本のWi-Fiを快適に利用できるようにしていきたいと思っています」
本来であれば韓国のように国が主導するべき認証の共通化をタウンWiFiが実施し、課題解決をしてくれているわけだが、日本におけるWi-Fiの最大の問題点は認証の共通化ではないと荻田氏は言う。
「最大の問題は、飲食店のWi-Fi設置が少ないことです。野村総合研究所の委託調査結果等に基づく推計値によると、行政主導で普及が進められる観光案内所のWi-Fi普及率が72%であるのに対し、民間に頼らざるを得ない飲食店では9%にとどまっています。海外などでは、お店には大体Wi-Fiがあり、お店の人に聞けば利用できます。日本にはそれがなく、一番使いたい時間や場所で使えないことが問題なのです。ですからタウンWiFiでは特に飲食店へのWi-Fi設置を進めています。ここで重要なのは、今までWi-Fiを提供していなかった飲食店の方々に「Wi-Fiを提供したい」と思ってもらえるメリットの提示です」
通常、Wi-Fi設置のメリットを飲食店などに説明する際は、Wi-Fi接続後にPRページを表示して情報を発信できることをアピールするのが一般的だが、既に来店しているユーザーにしかリーチが出来ない。その上、約9割のユーザーが接続後のPRページを「記憶に残らない・役に立たない」と回答している(※)こともあり、現時点ではWi-Fiを提供するモチベーションにはつながりにくいといえる。
※過去1ヶ月以内にフリーWi-Fiを利用した経験がある7,000人のユーザーにPRページについてのアンケートを楽天リサーチにて実施
「この課題を解決し、タウンWiFiと連携すれば、集客や再来店が促進されるという状況を作るために、『WiFiチラシ』という商品を開発しました」
『WiFiチラシ』は、自店舗の近くにいる『タウンWiFi』ユーザーにリアルタイムで情報を配信し、来店を促進できるサービスだ。性別や年齢、来店頻度など、条件を絞り込みしての配信も可能となっている。それだけではなく、こうしたデジタルチラシの集客効果を測定・分析することができるWi-Fiオーナー向けのダッシュボードも独自に開発。タウンWiFiがオーナーに向けてWi-Fi活用を一貫して支援する体制が整いつつある。
近くにいるタウンWiFiユーザーに店舗のオススメ情報などを配信できる
「実は、店舗に光回線自体は引いている場合も多く、あともうひと手間だけなんです。タウンWiFiと連携すれば、Wi-Fi設置が集客・再来訪につながる、だからWi-Fiを設置しよう!そう思ってもらい、眠ってしまっている回線を活用してもらえるように、飲食店の方を中心に1社1社話し合いを行っています」
アイディアと技術で未来に向かうタウンWiFi
タームごとに目標を決めてサービスを拡大させてきたタウンWiFi。ログインを自動化して便利にすることから、巷のWi-Fi環境を充実させることへ。そして今、また新たな目標がある。
「程度の差こそあれ、ログインページがいちいち出てきてフリーWi-Fiの使い心地が悪いというのは実は世界共通の課題です。言葉が通じない国でも、本来Wi-Fiには簡単に接続できるはずなんです。旅行などで海外に行ってもWi-Fiが気軽に使えて通信に困らない世界を作りたいですね」
タウンWiFiは、対象外のフリーWi-FiにタウンWiFiユーザーが接続すると、AIが必要情報を読み取って自社のサーバに情報を蓄積し、自動的にタウンWiFiの対象にして、自動的につながるようにする「WiFi認証AI」を開発し、特許も取得している。この技術で対応国は、カナダ、ヨーロッパやアジア圏の計34カ国まで一気に拡大。将来的にめざすのは「世界のタウンWiFi」だ。
もちろん国内での課題も山積みだ。ユーザーからのニーズが一番多い場所は、ディズニーリゾートへのWi-Fi設置リクエストだという。
「楽しむ様子を中継したり、Instagramにアップしたり、待ち時間にインターネットを見たりと、活用の機会は大きいと思うんですが交渉してもなかなか相手にされず…。もっと影響力を強くして、ユーザーのためにWi-Fi設置ができるようにがんばります。その他の遊園地もWi-Fiがない場所が多いので地道にアタックしていきたいです」
その他、Wi-Fi設置場所として同社が力を入れているのが賃貸マンション。物件によっては、Wi-Fiの開通工事費や利用費などの負担がかなり大きい。そこでマンション自体にWi-Fiがあれば、住人は引っ越し時から即インターネットに接続することができる。物件の資産価値アップにも繋がるというメリットを掲げ、こちらも順次拡大する予定。マンション全体をフリーWi-Fi化した事例もようやく出来てきた。そして最後はやはり『WiFiチラシ』を活用した小売店との協業だ。
「これからオリンピックに向けてWi-Fiの重要性が高まってくる中、世界中の人が日本のWi-Fi環境は素晴らしいと思ってもらうことに、タウンWiFiが貢献してきたいと思っています」
ユーザーの声を聞き、一歩ずつ改善してきたからこそ今がある。ユーザーやWi-Fiオーナー、そして世界へ。熱いビジョンを胸に、タウンWiFiは成長していく。
text:木村早苗
タウンWiFi