実践的で魅力的なプログラムを通じて最先端の情報技術が学べるほか、実践力も鍛えられるプログラムとして、数多くの大学が連携して実施しているのが「enPiT」です。今回、その対象分野の1つである組込みシステムにおいて、ウフルの「enebular」と「Milkcocoa」が教材として採用されました。このenPiTの趣旨やウフルのプロダクトが採用された背景などについて、enPiTに参画する東海大学の渡辺晴美教授、そして佐藤未来子特任講師にお話を伺います。
東海大学 情報通信学部 組込みソフトウェア工学科 渡辺晴美 教授(写真中)、佐藤未来子 特任講師(写真右)、 ウフルIoT×enebularビジネス本部第3営業部部長 青木隆雄(写真左)
知識だけでなく、実践力も養うことができるenPiTの特徴
――まずenPiTがどのような取り組みなのかについて教えてください。
渡辺:enPiTは情報系の人材育成を目的に立ち上げられた教育プロジェクトであり、情報技術を活用して社会の課題を解決できる人材の育成を目的としています。特徴となっているのは、アクティブラーニングやプロジェクトベースドラーニングといった教育方法を採り入れ、学生たちが実践力を付けながら学習を進められる点になります。
――enPiTには「enPiT1」と「enPiT2」の2つがあると伺いました。それぞれどのような役割なのでしょうか。
渡辺:enPiT1は大学院生向けのプログラムであり、クラウドコンピューティング、ビジネスアプリケーション、セキュリティ、そして組込みシステムの4分野があります。一方enPiT2は学部生向けで、対象分野はビッグデータ・AI、ビジネスシステムデザイン、セキュリティ、組込みシステムの4つです。
私たちはenPiT1の組込みシステム分野に参加校として、enPiT2では同じ組込みシステム分野に連携校として参画しています。enPiT1は大学院生を教育対象として、解決することが難しい課題にもチャレンジしてもらっています。その中でスケジューリング力やマネジメント力を身に付けてもらい、それを研究に活かすという方針です。一方、enPiT2は学部生を教育対象として、システムを作る技術力(Product)や開発工程を進める能力(Process)、プロジェクト管理の能力(Project)、そしてプロフェッショナルを目指す心(Professionalism)の4つのPを育む、「QuadPro教育フレーム」を用いて段階的に学習を進めます。去年から学習教材も変更し、授業の中で行う実験などで役立てられるようにしています。
enPiT2の「QuadPro教育フレーム」
――現状のenPiTの成果について、どのように捉えられていますか。
渡辺:enPiTの成果として、文部科学省から求められているのは修了生数です。2017年度は75名を目標としていましたが、それを大きく上回る179名が終了しました。また開講数や参加校数、連携企業数なども予定を上回っており、手応えを感じています。
学生の満足度や実践力についてもチェックしています。実践力はPROGテストと呼ばれる方法で確認していますが、enPiTへの参加前後で比較すると着実に伸びることが分かっており、文部科学省からも高く評価されている点です。
IoT時代にマッチしたカリキュラムを提供する東海大学
――現在IoTが大きな注目を集めており、さまざまなIoTデバイスが我々の生活の中でも使われ始めています。東海大学の組込みソフトウェア工学科においても、IoTは意識されているのでしょうか。
渡辺:我々としてもIoTは強く意識しています。具体的には、IoTに精通している教員を採用しているほか、今年度から始めた新たなカリキュラムでもIoTについて学ぶ授業を組み込みました。IoT時代の組込みシステムは、単にデバイス同士をつなぐだけでなく、サービスの提案や環境への適応など、考えるべき事柄も大幅に増えてきます。それらを1年生のときから学べるように、大学としても力を入れているところです。
組込みというと、電気回路のイメージを思い浮かべる方が多いと思います。もちろん、そうした授業も継続していくのですが、それだけでは社会のニーズに十分に応えられないため、上流も見据えながらカリキュラムを構成しています。
――そのようなカリキュラムの中で使う教材を選定する際、どういったポイントでチェックされているのでしょうか。
渡辺:IoTで言えば、要素技術であるクラウドやエッジコンピューティング等の通信や組込み技術が用いられているシステムがポイントになります。ただ、それ以上に重要になるのは教員にとっての使いやすさなんです。たとえば教員がその教材を自分でカスタマイズできなければ、よい教材を作ることができず、授業の質も高められません。そのため、教員が理解しやすいこと、また製品について詳しい人が周囲にいて気軽に教えてもらえる環境がある、そういったことも重要です。
もう1つは長期に渡って利用できることです。東海大学の組込みソフトウェア工学科では、地下の実験室にプロジェクションマッピングの装置を導入しました。もともとは、自動車や組込み製品などを導入する予定だったんです。ただ、企業の方々とディスカッションさせていただく中で、将来的に陳腐化してしまう製品を置くよりも、リアルな映像を使って学べる方が有効ではないかと考えるようになりました。同様に教材を選定する際にも、長く使えるかどうかは意識します。
教材としてのenebular/Milkcocoaの魅力
――今回、ウフルの「enebular」と「Milkcocoa」を教材として導入されましたが、そこにはどういった判断があったのでしょうか。
渡辺:九州大学で導入されていて、すでに実績があったことが理由の1つになります。それに、製品のことで分からないことがあれば聞くことができますし、ウフルのパートナーの方から、enPiTの授業として学生たちに講演していただくことも可能でした。そういった点も加味し、教材として採用することを決めました。
――実際に教材として使われてみた印象を教えてください。
佐藤:今年の春に実施したenPiT-Embスプリングスクール2018では、ウフルのパートナーの方から学生向けに授業を行っていただいたんです。とても熱心に、分かりやすく授業をしていただきました。また、受講したある学生にスプリングスクール以降もenebularを使ってもらい、IoTの課題に挑戦してもらっていますが、学生自身が興味深く作業を続けているんですね。そういった様子を見ると、enebularやMilkcocoaを選んでよかったと感じます。
今後は1年生向けの教材を作るのですが、enebularはビジュアルプログラミングの仕組みも備えているため、プログラミングが苦手な学生でも興味を持ってもらえることもメリットだと感じています。ルーティンをドラッグ&ドロップで作成することができるため、学生自身も楽しんで使っています。
東海大学の研究室にて、ロボット掃除機とプロジェクションマッピングを用いた実験
――enPiTや大学での授業を通じ、学生にどのようなことを学んでほしいとお考えでしょうか。
渡辺:以前「メカ・エレキ・ソフト」という言葉があったように、組込みは境界領域であり、広範にわたる知識が求められます。たとえばロボット用のプラットフォームとして授業で利用しているZumo、あるいはレゴブロックを使ったロボットなどは、「forward」のようなコマンドを使うと前に進みますが、直線的にまっすぐ進むように制御されているわけではないんですね。ただ組込みソフトウェアの設計を専門に勉強している学生が、まっすぐ進ませるために必要となる制御の深いアルゴリズムまで理解できるかというと難しい。ただ、目的を達成するためには別の専門分野の知識が必要で、力を借りる必要があると気づけるようになってほしいと考えています。
その意味でenPiTは、非常によい学びの場になっています。ロボットを使った課題に取り組んでいて、うまく動かないといった場合、機械制御など別の分野の学生に質問するといったことができるため、新たな知識を取り入れられるんです。実際、学生の間でさまざまな質問が飛び交っています。そういった点で、他大学と一緒に進めていくメリットは大きいのではないでしょうか。
――本日はお時間をいただき、ありがとうございました。
ウフル