地域を守り、地域に愛される公園に。UR都市機構の防災公園が増えている理由

独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)

10年近く経つ今も記憶から風化することのない東日本大震災や2016年の熊本地震など、大災害を目の当たりにし、私たちの防災意識もかつてないほど高まっている。居住地を決める際に防災機能を重視する人も増えており、災害に強いまちづくりは喫緊の課題となっている。そんな中、防災公園の整備と都市再生を「防災公園街区整備事業」として一体的に行っているのが、UR賃貸住宅でおなじみのUR都市機構。今回は本事業の最新事例である、さいたま市『さいたま新都心公園』と防災公園整備のもう一つの手法である「都市公園受託事業」により整備を行った柏市『大堀川防災レクリエーション公園』の話を交えつつ、同機構・東日本都市再生本部の折原夏志氏と芦野光憲氏に話を伺った。

阪神淡路大震災と大規模工場の移転・廃止が契機に

―UR都市機構は主として「都市再生」「賃貸住宅」「災害復興」という3つのフィールドで事業を展開し、中でもUR賃貸住宅はテレビCM等の効果もあって世間に広く知られています。また、地方公共団体や民間事業者と協力した都市再生でも数多くの実績を持ち、今回、話を伺う「防災公園街区整備事業」もその都市再生のフィールドのうちの1つにあたります。まずは本事業の概要を教えてください。

芦野氏
「UR都市機構は『人が輝く都市をめざして、美しく安全で快適なまちをプロデュースします』をミッションとし、少子高齢化や大規模災害、環境問題などの重要な社会課題について、地方公共団体や民間事業者といったステークホルダーと丁寧に向き合いながら、持続可能な社会の構築に取り組んでいます。そのうち都市再生の一環として防災公園街区整備事業が始まったのは1999年(平成11年)のことで、これまでに大都市圏を中心に全国26か所の事業を行ってきました。UR賃貸住宅に比べると一般の方々にはあまり知られていない事業ではありますが、20年近い事業蓄積の中で地方公共団体の方々の間では一定の認知をいただいていると理解しています」
UR都市機構 東日本都市再生本部 芦野光憲 氏
UR都市機構 東日本都市再生本部 芦野光憲 氏
―こうした事業を始められた背景には、時代の要請みたいなものもあったのでしょうか。

折原氏
「防災公園街区整備事業は平成11年度に創設されました。当時は1995年(平成7年)の阪神淡路大震災により社会の防災意識が高まってきた時代で、その一方で大規模な工場の移転や廃止が相次ぎ、各地で都市再生の議論がされ始めた頃でした。そうした背景もあって、公園整備と市街地整備を一体的に推進する防災公園街区整備事業という形が生まれたのです。また、昨今の都心部や中心市街地のような狭い範囲に建物が密集した都市再生においては公園単体ではなく周辺の開発と一体となった防災機能の必要性が求められています。そこで、防災公園を都市再生事業の一つのツールとして積極的に使い、新たなまちづくりを推進できればと考えています」
UR都市機構 東日本都市再生本部 折原夏志 氏
UR都市機構 東日本都市再生本部 折原夏志 氏

都市部には公園がまだまだ足りない

―私たちが今いる『さいたま新都心公園』にも、災害時の避難支援拠点となる管理棟をはじめ、仮設テントとして利用できる防災パーゴラやマンホールトイレなどの災害時用設備が揃っていますね。こうしたハード面に加えて現在の防災公園に求められる要素にはどんなことが挙げられますか?
さいたま新都心公園
さいたま新都心公園
折原氏
「災害時と平常時の両方で有効活用が可能な防災公園が求められています。この『さいたま新都心公園』は、災害時は一時避難場所として機能し、避難者が広域避難場所に移った段階ではTEC-FORCE(テックフォース/緊急災害対策派遣隊)の拠点として使用することが可能な整備を施しています。その一方で、防災的役割だけではなく、平常時も公園を積極的に活用していこうという流れが生まれています。休憩したり運動をしたりという使い方はもちろんのこと、園内にカフェを設置したり週末に青空市を開催するなど、公園をさまざまな形で使っていこうという考え方ですね。さらに、このコロナ禍によって一段と公園が活用されるケースが増えてきています。サラリーマンやノマドワーカーの方などが公園でテレワークをしている姿などを見かけると、そういう方のためのブースが必要になるのではないかなど今後も新しいニーズが生まれてくると思います。在宅勤務者の方にとっては自宅の近くにこうしたオープンスペースがあること自体が心理的なゆとりや安心になっているとも聞きますし、ある意味で公園本来の価値が見直されているのかもしれません」

芦野氏
「これもコロナ禍でより重要度が高まった点ですが、現代の防災公園は人と人との距離が保たれたゆとりある避難場所であることが求められてきています。国交省の調査によると、2019年3月31時点、市民一人当たりに換算した全国の公園面積は10.6㎡。それと比べて、東京23区並びに関東の政令市の一人当たり面積は3.0〜5.1㎡と全国平均の半分以下となっています(全国平均に近い千葉市の「10.0㎡」を除く。本市ではUR都市機構が防災公園として蘇我スポーツ公園46haを整備中)。これは防災公園に絞ってもほぼ同じことがいえると推察されます。そのため、これら全国平均に届かない地方自治体では、防災に資する公園の一人当たりの面積を増やしていくことが必要だと思っております。また、心理的な面では、『さいたま新都心公園』と『大堀川防災レクリエーション公園』の両方に設けている防火樹林帯も新しい考え方に適しています。もし大規模火災が起こっても樹林帯まで辿り着けば守ってもらえるというのは地域にとって大きな安心感に繋がっていると思います」
大堀川防災レクリエーション公園(中央奥が防災樹林。公園の防火樹林と隣地のカシニワの樹木がその役割を果たす)
大堀川防災レクリエーション公園(中央奥が防災樹林。公園の防火樹林と隣地のカシニワの樹木がその役割を果たす)
折原氏
「加えて、自然環境が有する多様な機能を活用し持続可能な魅力あるまちづくりを進めるグリーンインフラへの適応も求められています。実際の施工例として、この『さいたま新都心公園』は芝生広場もその他の舗装部分も緊急時の重車両の搬入に対応する耐圧機能と共に雨水貯留が可能な構造になっています。こうしたグリーンインフラの取り組みはSDGsの考え方にも通じています」

とにかく街の人が愛し、育ててくれる公園づくりを

―防災に強い街を作る上でUR都市機構の強みだと思うところを教えてください。

芦野氏
「造園の技術力とともに、賃貸住宅のノウハウと都市開発のノウハウを融合できることはUR都市機構の強みだと思います。例えば造園の設計や施工、賃貸住宅の設計や施工並びに都市開発の再開発や土地区画整理を経験してきた事務・造園・建築・土木・設備などの様々な職種の人間が集まって、ワンチームで1つの公園をビルドアップします。一例として、当防災公園に携わっている者は、東日本大震災の復興業務の土地区画整理や災害公営住宅、横浜のみなとみらい21などの大規模都市開発などいずれかの経験をしています。当公園は、それぞれが経験してきたノウハウを持ち寄って環境にやさしく賑わいのあるまちづくりなどを目指し、それを災害時に役立つ形に集約して落とし込んで計画推進がなされてきました。これができるのは、UR都市機構が全国での多様なまちづくりに携わってきた豊かな経験や多様な業種のチームワークがあってこそだと思います。

さらに視野を広げると、さいたま新都心の都市開発では、さいたま新都心駅周辺の計約48haにおよぶ区域全体をUR都市機構による土地区画整理事業で基盤整備させていただいたのですが、それだけの拠点的開発を公平中立な視点に立って取り組めることも強みです。これに隣接した北袋町一丁目地区の土地区画整理事業約12haに加えて、さいたま新都心公園約1haの計約13haの整備を進めてきました。当公園にしてもターミナル駅からとても近い場所に造られていて、JRの運行がストップした場合もここを避難場所にできる。このような立地環境のもと、市の目標「さいたま新都心将来ビジョン」に基づき、住民の皆様の防災意識などに配慮した計画づくりを行政、民間企業の要請に基づき、三者調整会議を計17回行い、当初の目標どおりすすめることができました。これは、UR都市機構の意思だけでできるものではなく、地方公共団体、民間企業や地域住民の方々のそれぞれのまちづくりの想い(夢)を尊重して、それを形にしたからこそできるものであります。このように関係者の皆様の英知を結集した結果、開発面積約13haに対して、約13%の約1.6haの公園が開設されました。このように、関係する皆様の意向に関して謙虚に耳を傾けて、まちづくりの想い(夢)を実現して、防災公園などの公共空間を創出しながら、都市の全体をバリューアップして、アーバンルネサンス(UR)実現のお手伝いしていくことも我々の使命だと思っています」

―省庁関連が入る合同庁舎や複合施設などを抱え周辺からの往来の多い街だけに、駅のすぐ近くに防災公園があれば災害時にも大きな混乱が避けられますね。それでは防災公園を計画される際に、クライアントとなる組織や地元住民との間で具体的に大切にされていることは何でしょうか。

折原氏
「真っ先に挙げられるのは住民参加型の設計です。基本設計の段階で住民の方に計画をしっかりご理解いただき、それを踏まえていただいたご要望には可能な限り応えるようにしています。この『さいたま新都心公園』の例を挙げると、当初の計画では公園内の園路は回遊出来るようになっていなかったのですが、住民の方々からぐるりと一周を回れるようにして欲しいという要望があり、設計を見直しました。また、パーゴラ下のベンチも対面して話せるように造って欲しいという意見を採用しています。
さいたま新都心公園
さいたま新都心公園
私は、公園というのは地元の方々の手で育てていくものだと思うんです。我々の事業は造ったものを公共団体に引き渡せば終わりなんですけど、本当にそれで終わりかといえばそうではなく、将来的な管理に結びつける取り組みまでが仕事だと思っているんです。住民の皆さんに『私たちの公園だね』って親しみを持っていただいて、その方々が中心になって管理していくのが理想的な形です。私たちは今、過去に造った防災公園がどのように使われているかを調べているんですが、その中には我々の予想を越えて地域住民の方々が積極的に公園を活用しているケースもあります。自分たちの想いだけで造りすぎず、我々はしっかりとした基本的な機能を持つ器を届けて、あとは地元の方々に育てていただく。それがこれからの公園整備事業でより大切になってくると思います」

芦野氏
「柏市の『大堀川防災レクリエーション公園』でも、柏市さんの意向を踏まえ、UR造園の技術力を活かし、昭和からある桜の木を移植して残しました。もともとその土地にあった木を残すというのは、親しまれる公園を造る上で非常に大切なことだと思っています。また、このようなレガシーを残すのは最近の都市開発のトレンドでもあり、ここでは柏市さんの要望に沿って防災倉庫機能付きの管理事務所もかつての市立幼稚園の建物をリノベーションしています。これはUR都市機構にとっても前例のないチャレンジになりましたが、UR賃貸住宅の技術力を活かし、昭和の懐かしさと令和の新しさを感じるようなリノベーションを手がけさせていただきました」
大堀川防災レクリエーション公園(旧幼稚園舎をリノベした管理事務所)
大堀川防災レクリエーション公園(旧幼稚園舎をリノベした管理事務所)
―使われなくなった幼稚園の建物が新しい命とともに残されていくというのは、きっと古くからの住民の方々からすると嬉しいものですね。

芦野氏
「そうですね。お披露目式には地域の代表の方々にも来ていただいて、嬉しい声をたくさんいただきました。中には、リノベされた建物の中を懐かしそうに見ていた方もいらっしゃいました。また、柏市さんのご要望に基づき、子どもたちの防災教育に繋がればという想いで児童向けのパンフレットも作らせていただきました。このように、まちづくりでは地域の歴史的資産をきっちり残していくことも大切だと思っています。都市再生を計画する時も公園を作る時もその土地の歴史的資産を必ず調べて、地域のレガシーをできるだけ活かそうと考えています。今回、地域のレガシーと融合した防災公園のアーカイブをプロモーションビデオに残しましたので、ご覧ください」

URの都市公園受託事業「大堀川防災レクリエーション公園(篠籠田)」ー事業紹介編ー

via YouTube

URの都市公園受託事業「大堀川防災レクリエーション公園(篠籠田)」ー桜編ー

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―昨今、毎年のように大規模災害が起こり、都市の防災機能はますます重要度を増してきています。そうした中で、今後、UR都市機構の防災公園や災害に強いまちづくりはどんな未来を描いていくのでしょうか。

折原氏

「新たな視点として、近年頻発している水害に備えたまちづくりに着目しています。これについては千曲川決壊の大被害を及ぼした昨年10月の台風19号で、UR都市機構が都市公園受託事業で整備した長野市の南長野運動公園の体育館が避難所として使われたケースもあり、それらの経験を踏まえてどんなことができるかを考えていきたいです。その一方で、時代の変化に伴って都市の再編が急速に進んでいて、そういった変化の中で今後は防災公園も含めて、あらゆる公共用地をますますボーダレスで一体的に整備する時代が来るのではないでしょうか」

芦野氏
「『大堀川防災レクレエーション公園』は2020年春にできたばかりですので、昭和の懐かしさと令和の新しさが特徴の防災公園の評価はこれから高まるものと期待しています。『さいたま新都心公園』は2018年10月にオープンしており、景観と防災機能の両立が評価され『2019年全建賞』、官民連携で防災公園街区整備事業手法を活用して限られた面積(約1ha)の中に防災機能を備えた開放的な芝生広場の整備等を評価され『2020年都市住宅学会長賞』を受賞し、また実際に公園をご利用になった方々も含めて、高い評価をいただいくなど、注目が集まっています。
さいたま市さんからはUR都市機構のさいたま新都心でのまちづくりが周辺の建築デザインにも伝播しているというお話を伺い、民間企業、公共団体、地域住民の方々と一緒にまちづくりを行うというUR都市機構のDNAが認められたという手応えを感じています。これからも環境にやさしく賑わいのある空間、防災環境にも配慮しながら『人が輝く都市をめざして、美しく安全で快適なまちをプロデュース』のDNAを持ち続けながら先駆的なプロジェクトに挑み、UR都市機構の取り組みがさらに周辺へのまちづくりに伝播する形を次々と作っていけるとよいと思っています。このような施策を戦略的に政策に取り込み、都市に暮らす市民にとってより良い、暮らし方の変化に合わせた近未来のまちづくりを期待してやみません」

PROFILE

  • UR都市機構 東日本都市再生本部 基盤整備計画部 担当部長 折原夏志(おりはらなつし)

    UR都市機構 東日本都市再生本部 基盤整備計画部 担当部長 折原夏志(おりはらなつし)

  • UR都市機構 東日本都市再生本部 事業推進部 調整役 芦野光憲(あしのみつのり)

    UR都市機構 東日本都市再生本部 事業推進部 調整役 芦野光憲(あしのみつのり)

2021年2月1日

独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)

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