あのWi-Fiルーターレンタル企業のもうひとつの顔ビジョンの成長を支える圧倒的営業力の秘密
いまや海外渡航の際の必須アイテムになりつつあるWi-Fiルーターレンタルサービス。その日本からのアウトバウンド向けレンタルで日本一のシェアを誇るのが株式会社ビジョンの「グローバルWiFi」だ。昨年度のグループ連結売上高は175.5億円。4年連続で10%以上の成長を続け、一昨年12月には東証1部に上場を果たした。
いまや「グローバルWiFi」のブランド名も有名になった同社だが、この「グローバルWiFi」事業と並んで事業の二本柱となっているのが、OA機器販売やホームページ制作サービスなどを行う情報通信サービス事業だ。今回はこの情報通信サービス事業に焦点をあて、取締役上級執行役員営業本部長の大田健司氏にインタビュー。これまでの歩みや現在の事業展開、そして営業力をはじめとした企業の強みなどについて聞いた。
アパートの一室から始まったサクセスストーリー
-ビジョンという企業そのものについては詳しく知らない方も多いと思います。まずは企業の成り立ちについて教えて下さい。
大田氏:1995年創業の当社は、代表の佐野が「日本一の富士山の麓で日本一の会社を作りたい」という決意のもと、静岡・富士宮のアパートの一室で立ち上げたベンチャー企業です。最初の事業は、南米からの外国人労働者向けに提供した割引国際電話サービスでした。そして、そこで蓄えた資金を元に市外電話の割引サービスなどへ事業を広げた後、2002年に本社を新宿に移転してBtoB事業にも進出。コピー機、パソコン、ビジネスフォンなどのOA機器の代理店業務やインターネット広告事業などに事業を拡大していった頃が成長期にあたります。
かつては当社でも飛び込み営業をしていましたが、事業を広げる中でアウトバウンドのテレマーケティングには限界があると気付き、インターネットを活用する方向にシフトしたのが一つのターニングポイントでした。当時はまだインターネット広告が盛んではなかったので、ネットを通じて売れるのかという疑問は社内にもありましたが、他社に先駆けてそこをうまく移り変われたことが現在のポジションにつながっています。
-そうした中で、御社はスタートアップのサポートに力を入れてきたそうですね。新設企業の6社に1社が御社の顧客になっているというデータもあります。
大田氏:本格的にWebマーケティングを始めて解ってきたのは、成長するスタートアップの企業ほどネットを見てモノを買うということでした。当然のことですが、既存の企業は新しい機器を買うとなれば元々付き合いのある業社にお願いすることが多い。それに対して、起業家の方々は情報も付き合いもないのでネットを頼ることになる。ネット販売を始めた当初はお客様の6割がスタートアップの方々だったので、それならば徹底的にスタートアップを応援していこうとなったんです。ちなみに、「グローバルWiFi」も情報通信サービス事業でお付き合いをいただいているお客様の声から生まれた事業でもあります。
新設法人に特化していくと、その会社が成長する中でいろんな商品やサービスを必要としてくださるので、我々にとっては川上戦略にもなります。スタートアップにはどこよりも安くサービスを提供している自負はありますが、ただ安いだけならすぐに他社にひっくり返されるような業界。それだけにお客様の事業に寄り添っていくところが我々のビジネスモデルになっています。
クロスセルを生み出す「エスカ」制度
-現在、情報通信サービス事業ではどのようなサービスを提供されていますか。
大田氏:企業の成長とともに事業を多岐に広げ、現在はWEBサイト関連サービス、法人携帯サービス、電話回線手配代行サービス、インターネット接続サービス、ビジネスフォンやコピー機・複合機の販売・サポートサービスなどを行っており、当社の全売上の4割を占める事業になっています。
-すべての事業の営業活動を統括されている大田さんから見て、ビジョンという企業の強みは何だとお考えですか。
大田氏:ひとつは集団成功主義をチームビジョンに掲げ、社内で情報を共有してクロスセル(関連商品の購入)を生み出せていること。もうひとつは、属人的な部分や無駄な作業をできるだけ無くして、生産性を上げていることです。人海戦術でやるというよりは、限られた人数で知恵を絞りながら最大の利益を上げていくという意識が社内に根付いています。
-事業部間の連携が取りやすいように、組織として工夫されていることはありますか。
大田氏:「エスカ」という当社独特の制度の導入がひとつの分岐点になりました。エスカとは「エスカレーション」を略した言葉で、当社の中では事業部間で顧客を紹介し合うことをいいます。例えば、ホームページ制作を請け負う部署の営業担当が、電話の導入を検討している取引先に自社のビジネスフォン事業部を紹介するといった感じです。
部門ごとの独立採算制を取っていることもあって、当社にもかつてはセクショナリズムのような社内文化は確かにありました。でも、ある日からそれはもう時代遅れなのだと感じるようになったんです。事業部間が協力してお客様を育てていかなければ、ライフタイムバリューの高いスタートアップを獲得するというビジネスモデルもいずれ破綻するのではないかと。
契約を済ませた営業マンが同じ取引先と接触するのはずっと先のことになります。その間に必要になるものがきっとあるはずなので、エスカではそれらを見落とさずに社内で情報を共有し、少しでも親和性があるサービスだと思ったら何でも紹介していくようにしています。
-エスカのような仕組みがあると会社への貢献意識も変わりそうですね。
大田氏:エスカ導入のために会議を何度も重ね検討したのですが、その中で評価基準を変えて、紹介した側にも紹介された側にも等しく評価を付けるということを決めました。その結果、お客様へのヒアリングを重ねたり、自発的に他部署で研修するようになり、エスカが出てくるようになっていきました。エスカを受けた側にもパスを返さなければならないという恩義が出てくる。そもそもお客様のニーズを広くとらえることが求められるため教え合う。そうしたやりとりがいろいろな部署間で行われ、数字以上の相乗効果が生まれています。
ちなみに、最近はエスカが別の方向にも進化していて、エスカを頑張っている人の中には自分で他部署の商品を売ってしまう人もいる。エスカをきっかけに研修を受けているので、自分で売れてしまう。我々はそういう人材を「マルチセールスレップ(MSR)」と呼んでいて、何でも売れる営業マンが増え始めています。
「優秀な人材ほど辞めていく」営業会社のやり方を変える
-御社は営業担当一人当たりの契約数も高いそうですね。例えばコピー機の契約数においても、月5〜6台が平均とされる同業他社に比べて、御社の営業担当は3倍近い数を獲得していると聞きました。
大田氏:当社の場合、営業担当が営業電話でアポイントを取る他社とは前提条件がまったく違います。営業電話を100件かけても1件会ってくれればいいほう。たとえ会えても、それが必ず契約につながるとは限りません。さらにはその労働コストは商品の価格に跳ね返ってくるので、良い策とはいえません。
それに比べて、当社は営業とは独立したマーケティング部門を有し、Webマーケティングとエスカの仕組みが営業活動のアドバンテージになっています。アポがけの数では他社に負けると思いますが、結果として少ない人数で効率良くチャネルを駆使して販売しているので、必然的に契約数も利益率も上がってくるし、個人の年収も上がっていくという自然な流れができています。
旧来のようなやり方では鋼のハートを持っている人でなければ続かないので、営業力や人間力があるかないかとは別の問題で辞めていくことが多いんです。我々は、どこにでもいるような若者でも頑張って結果を出すことができるところに価値をおいているので、簡単に辞めない会社であることも経営にとって大切なことだと思っています。
-営業担当は営業業務に集中できるということですね。
大田氏:その点では佐賀県に置いている「カスタマー・ロイヤリティ・チーム(CLT)」の役割も大きいです。営業はしっかり受注の獲得に特化させたいという意図から、契約後のアフターフォローはこのCLTに委ねています。営業は営業活動に集中できて、CLTはコンシェルジュのような対応を届けられるので、お客様にとっても満足度の高い対応ができています。
CLTが拠点をおく、佐賀県佐賀市のコネクトセンター
-御社では現在、営業担当者を募集中ということですが、ここまでのお話を踏まえて御社を志望する方に求めたい資質があれば教えてください。
大田氏:従来の営業会社と比較するとノウハウが一人の頭にしかないというのはリスクになるので、情報を惜しみなく外に出せることがミニマムスキルですね。また、我々はこの20年間でいくつも新たなチャネルを生み出してきたので、次に続く新しい何かを創れる人材を期待します。
「ビマケ(Vision Business Market)」を起業家たちのプラットフォームに
-今後の情報通信サービス事業の方針について教えていただけますか。
大田氏:今後もより積極的にスタートアップ企業の契約獲得を狙い、今の6社に1社という状態から、4社に1社、さらには2社に1社へと、当社との取引企業の割合を増やしていきたいです。それと同時に、そうしたお客様に親和性の高いサービスを増やしていこうと考えています。また、上場によって企業の認知度をはじめ、いろいろなことが変わってきたので、今後は外部の企業とも手を組みながら、今までの当社にない商品やサービスを生み出していきます。
-昨年には、御社の提供されているサービスのほか、オフィス家具や空間デザイン、引越し業社などの情報などを紹介する、企業のための総合支援サイト「ビマケ(Vision Business Market)」をオープンしました。こちらも新しい取り組みの一環ですね。
大田氏:そうですね。我々はスタートアップを応援すると言いながらも、自社の持っている商品・サービスしかアプローチできていないのが現状なので、そもそも起業をしたいと思った人たちがまず見てくれるサイトを作ろうと思って企画したのが「ビマケ」です。サイト内ではもちろん我々の商品も紹介していますが、我々以外の企業のサービスや起業家の方々のインタビューも載せています。
ゆくゆくは会員数を増やして、ユーザー同士がビマケ上で商いできる環境にしていきたいですね。
例えば、事務所を移る人と事務所を探している人をここでマッチングしたり、会議室や機材の貸し借りのようなシェアリングエコノミー的な使い方もできると思います。これから企業を成長させていこうという方々が交流できるプラットフォームを作りつつ、当社のサービスについても知っていただけるようなサイトにしていきます。
起業家たちのプラットフォームを目指す総合支援サイト「ビマケ」
右肩上がりの成長を続けるビジョン。「エスカ」などの斬新な制度、WebマーケティングとCLTが連動した組織分担で、精神的にも体力的にもタフさを求められる営業という業種のイメージそのものを変えている。同社では現在、営業担当者を募集中だ。自分の営業力やアイデアを存分に活かしたい、あるいは今後成長するスタートアップを様々なサービスでサポートしたいという方は、一度公式サイトの採用情報をチェックしてみてはいかがだろう。
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