食べ物のカロリー計算。レコーディングダイエットや低糖質ダイエットなどカロリーについて注目されない時はない。だが、カロリー計算は非常に難しい。同じ料理でも作る人により分量や調味料、調理時間が変化してしまうため同じカロリーの料理は存在しない。特に糖尿病の患者においては、計測値が日々の健康状態に影響を与える為、手間や時間をかけて、料理のカロリーなどを常に計算している。そうした状況において一石を投じようとする家電が「CaloRieco(カロリエコ)」だ。パナソニック アプライアンス社が推進する新規事業創出プロジェクト「Game Changer Catapult(以下GCカタパルト)」で注目を集めており、サウス・バイ・サウス・ウエスト(以下SXSW)に出展している当プロジェクトの企画・開発の経緯について海藏博之さん、越智和弘さんに話を伺った。
どんなに無名の料理や、食物ごとの個体差もしっかり計測できる特別な家電
海藏「『CaloRieco』は料理に含まれる、カロリー・タンパク質・脂質・炭水化物などの含有量を測定可能です。従来の測定方法で栄養素を確認しようとすると、食物を粉々に崩して乾燥などをさせる必要があり、1つの料理ごとに2万円前後の費用と2週間前後の時間が必要です。『CaloRieco』は、近赤外線を使用し、独自の研究に基づく検知により皿ごと約十秒で測定することができます。基本的に皿の上に乗る料理であれば何でも測定でき、食品の粉砕の必要もありません」
越智「この『CaloRieco』は、基本的にどんなものでも計測可能です。それこそ誰も計測したことのない様な郷土料理や多国籍料理も皿の上に乗る分には確認できません。また、人からもらった初めて見るお土産やお菓子についても、もちろん計測可能。何の料理か判別して計測するのではなく、目の前にあるものの実際の栄養成分量を測定した上で計算するので」
海藏「『CaloRieco』は、食物毎のカロリー差や成分の違いについてもチェック可能です。例えば、秋刀魚は一尾ごとに、油が乗っているかや大きさなど個体差がありますがそれぞれ区別して調べます。また、やきそばパンなどのように、パンとやきそばがデータベースに別々にカロリー表記されている様なものも、2つに分けることなく計測します」
年間365時間もの時間が、糖尿病患者の料理カロリー計算に費やされている
多くの利用ニーズがありそうなカロリー計測家電。だが、「CaloRieco」チームは、そもそもカロリーなどの成分分析に特化した研究チームではなかった。なぜ計測分野に着目したのか伺った。
海藏「これまでは生体・筋肉や運動関連の研究を行ってきました。その仕事の中で、人工透析の負担や運動療法だけでは糖尿病を解決できないことが、毎日病院でヒアリングをしていく中でわかってきました。特に運動療法については、運動機器を使った治療は必須であるものの、消費だけでなく食事管理の部分まで考えないといけないという事に気が付きました。糖尿病の患者さんは、食事の度に、治療の本やカロリー表記のある書籍などから食べる量を計算して記入します。料理ごとに実際の食材の量を細かく計算する場合もあるため、1回の料理ごとに15分~20分かかってしまっています。多く見積もると、1日食事の前に合計1時間をかけ、年間だと365時間(約15日間)も計測作業だけに時間をかけているのです」
越智「1ヵ月ぐらいまでであれば、我慢して記録を続けていけるのですが、本当に続けられる人は一握りしかいません。その結果、糖尿病治療を諦めるか、カロリーを知っている同じレパートリーでしかご飯をたべなくなって栄養バランスが悪くなってしまうのです。そうした中『CaloRieco』があれば約十秒でカロリー測定ができる事で、ユーザーの大幅な負担軽減につながると考えています」
海藏「一番の想定は糖尿病の患者さんですが、医療従事者やダイエット中の人、アスリートまで幅広い人に興味を持っていただいています。ただ、前述した通り今まで大幅に時間がかかっていた分野ですので、早すぎて数字を信用してもらえないということもありました」
門外漢だからこそ、技術を収集し周りを巻き込みながら開発ができた
海藏「元々二人共、カロリーは専門分野ではなかったですが、こういったらうまく計測できるのではないか?という仮説はありました。ただ専門家と話をすると、できたとしても正攻法で開発すれば7~8年は最低でもかかるという話でした。そこでこの分野の素人ということもあり、色々なモノをかき集めることにしました。カロリー分析の技術とまったく異なる分野である通信関連の人など、多くの人の協力やアイディアのおかげでうまくいっています。この協力関係がなければ、現在のうまくいく計測方法にまでたどりつけなかったと思っています」
越智「プロトタイプは、一番古いモデルから6機種も作成しています。それこそ『CaloRieco』の一番最初のモデルはコタツぐらいの超大型モデルでした。最終的な目標として、外食したいというニーズにも対応できる機器にしたいと考えています。その為、機器は持ち歩けるサイズでなければなりません。ただ皿が入らないと計測できなくなってしまうという問題もある為、設計とデザインは最終モデルで変更になる可能性があります」
「CaloRieco」のこれから
カロリー計測や糖尿病などについては、日本以外にも多くのニーズがある製品と言えるだろう。SXSWの展示計画や今後の「CaloRieco」の展開を最後に伺った。
海藏「アメリカでは普段から高カロリーなご飯を食べる層が多いです。普段食べているステーキなどがどのくらいのカロリーなのかなど、まずは手軽に可視化する事で肥満問題は解決していく気がします」
越智「また、アスリートの人達もカロリー計測に非常に時間をかけているということがわかっています。ダイエットというよりかは、普段から自分を鍛えている人だとあと一かけらパンを食べてよいかどうかという部分にも気を使っているとのことです。その他のニーズとしては高齢者の方々にも利用いただけると考えています。高齢になると段々と食が細くなり低栄養という問題が発生することが介護の現場でも指摘されていります。究極的には、何を食べるべきかなどをコーチングしてくれるくらいまでこの商品を発展させていきたいです」
海藏「2018年や19年頃には『CaloRieco』の発売をできればと考えています。また、現状のモデルですと計測分野に特化していますが「サービス面」でも何か追加機能を用意できたらとも考えています。約十秒で計測ができたとしても、ほんの一部の人はそれに慣れてしまい継続しないのではないか?と危惧しています。慣れてしまって続かなくなるまえに、モチベーションを上げる仕組み作りというサービスまで考えていきたいです」
越智「具体的には、ゲーミフィケーションと呼ばれるゲーム要素を取り入れられたらと考えています。例えば、離れている家族が食べ物をキッカケにコミュニケーションを取ったりなど。毎日計測するのが楽しくなる様な、キッカケ作りを行い、確実な習慣化を実現できるといいなと思っています」
多くの人達の協力により、製品化に一歩ずつ近づきつつある「CaloRieco」。もしかしたら、想定していない様な利用ニーズもあるかもしれない。社会的な意義や高齢者などにも切望されている一品なので、今後の製品化が切望されると確信した。
文・写真:佐藤大介