パナソニック ✕ Parsons美術大学(ニューヨーク)が挑戦する新規事業の創出とは

パナソニック アプライアンス社

パナソニック アプライアンス社の新規事業公募制度「Game Changer Catapult」(以下、GCカタパルト)。会社内ベンチャーとして同時多発的に「サウス・バイ・サウス・ウエスト」(以下SXSW)に向け複数のプロダクトが誕生している。その流れは、パナソニック内だけに籠ったものではない。パナソニックと産学共同プロジェクトとして、ニューヨークのパーソンズ美術大学(Parsons School of Design)の学生が参加する。なぜ社内プロジェクトの開始と同時に、世界3大美術大学のひとつとコラボレーションすることになったのか。前回に引き続きパナソニック株式会社 アプライアンス社 秋元伸浩さん、小川智輝さんに話を伺った。

海外の複数大学とのコラボレーション

日系企業の産学共同プロジェクトといえば、あたり前の様に日本の大学を選択する。距離の問題もあるが、なんといってもコミュニケーション言語が違う点からだろう。海外大学を選べば、文化性も異なる為ファシリテーションするのが一苦労となってしまうという理由もある。GCカタパルトが、あえて国外とプロジェクトを行った理由はどこにあるのだろうか。

「SXSWを目指して複数のプロジェクトが動いているGCカタパルトですが、大学とのコラボレーションも活動の一つとなっています。具体的な産学共同プロジェクト先は、ニューヨークのパーソンズ美術大学です。長期間に渡って授業を実施し、学内で色々なコラボレーションを生みました。参加者の中で評価が高かったチームと、SXSWに出展します。」(秋元さん)
「SLEEEPWISE」と「Göbi」のメンバー
「SLEEEPWISE」と「Göbi」のメンバー
「パーソンズ美術大学では、単位が付く形の授業として参加生徒の公募行いました。最初24人の参加募集を実施しましたが、倍率も3倍強と多くの人から注目を集める講座となりました。エンジニア2人、デザイナー1人、ビジネスマネージメント1人の計4人でチームを組める様に面接を実施し、計6チームでアイデアを競い合います。産学共同プロジェクトというと研究会の範囲内でやる場合が多いですが、毎週金曜日の午前中3時間で授業を受けもらい、最終発表にてSXSWに行く2チームが選抜されるという形式をとりました。一月からは学校にて缶詰でプロダクトを製作しています。」(小川さん)

「こうした海外の大学とコラボレーションをしている理由は、全世界に向けたプロダクトを製作したいという点と、学生ならではのスピード感を肌で感じたかったという理由があります。実際に講義してみると、何かを作ろうとした時の学生の動きが非常に早いのと遂行能力が高いのが印象的でした。遂行に必要な知識を得る為に校内外の有識者を素早く巻き込んでいくのはアメリカならではでしょうか。そうした授業にて、SXSWへ出展が決まったプロダクトは眠りのサポートデバイス「SLEEPWISEと人と人とが繋がるキッカケを作る「Göbie」です。」(秋元さん)
上:「SLEEPWISE」のSXSWにて配布予定のパンフレット  下:「Göbie」のSSXSWにて配布予定のパンフレット
上:「SLEEPWISE」のSXSWにて配布予定のパンフレット  下:「Göbie」のSSXSWにて配布予定のパンフレット

海外の学生のいい意味での奇抜さ

名門美術大学とのコラボは、当初の期待以上に素晴らしい授業が実施できたという。SXSW出場に選出された「SLEEPWISE」と「Göbie」2つのプロダクトは、どの様な機能を持っているのだろうか?

「「SLEEPWISE」は、寝ている間の動き、温度、湿度、光、音をセンシングし、アプリを介してユーザーの眠りのパターンを学習するデバイスです。5つの情報が家電とつながり、最適な睡眠環境を作ることで快適な眠りをサポートするのがコンセプトです。今まで眠りについて研究された製品は数多く存在し、人気のカテゴリーでもあります。ただ人気であっても、各社別々にプロダクトをリリースし規格がバラバラで、利便性の面で難がありました。従来の家電製品と、眠りのソリューションを横櫛で連携することができる製品です。そして、今パナソニックで取り扱っている、照明やエアコンなどのウェルネスの世界観と合致することも有り、選出されました。」(秋元さん)
最終プレゼンテーションの様子
最終プレゼンテーションの様子
「「Göbie」は、腕に着用するウェアラブルデバイスです。人と人が繋がる為に、イベントや交流会、パーティは日々行われています。しかし、都市生活などを送る中で、人がいるにもかかわらず孤独感を感じる人が多いです。人と触れ合うきっかけを、デバイスとゲームで作るというのがメインコンセプトになっています。数秒で終わるようなハイタッチやハグなどを、デバイスを持つ人同士で実施することで、イベントやオフィスで人の繋がりを感じる事が出来ます。いうなれば、色々な人と接点を持って、心の健康をより良くするというのが目論見です。デバイス側では動きや、接触した回数などが評価される仕組みになっています。今回選出されたもの以外のチームも、完成度が高く、審査の際には難航しました。」(秋元さん)
学生とのコラボレーションといえば、大学側から一方通行で技術やプロジェクト支援するパターンが多いだろう。しかし、パーソンズ美術大学とのコラボにおいてはパナソニック側への新たな気づきも多かったという。

「パーソンズ美術大学は、世界3大美術大学と呼ばれる中の1校です。ビジネスモデルや技術、テクノロジー、アートなどを学生が幅広く学ぶことができます。その為、さまざまな分野に精通している学生が多かったです。また、学生と話す中で一番驚いたのは、彼らのやる気の高さです。産学共同にありがちな学生との関係性を築く為だけのコラボではなく、「SXSWでの展示」と「2年以内の実商品化を目標」とし今回の産学共同プロジェクトの募集を開始しました。先ほどの倍率もそうですが、実際に参加した学生もモチベーション高かったのが印象的でした。」(小川さん)

「最終発表会において、学生はプロトタイプを作るだけでなくPRの為の動画や実際に触る事のできるモックアップを製作しています。併せて、表示や操作する為のスマホ用アプリケーション開発も発表会までに間に合わせて作成してきています。体験できるレベルまで、製品をブラッシュアップしてくるスピードは、企業側からみても惚れ惚れするぐらいでした。4名という最小チーム構成でありながら、完成度の高い製品をスピーディーに作る様は、海外学生のプロジェクト遂行能力の高さを物語っていると思います。」(秋元さん)
アプライアンス社 秋元伸浩さん
アプライアンス社 秋元伸浩さん

SXSWの出展内容について

SXSW出展を勝ち取った、「SLEEPWISE」と「Göbie」。プロトタイプモデルを触って色々な意見を聞けるブースを設営予定だという。

「SXSWの会場は、ある意味お祭りの様な雰囲気で満たされています。まだまだ、日本においては認知度が低いイベントですが、海外においてテクノロジー関係者で知らない人がいないぐらい著名なイベントです。スタートアップ文化が非常に発達し、海外の模範的な役割となっているのがアメリカです。その中でも、特に濃いアーリーアダプターがSXSWにやってきます。従来型の新規商品の作り方ではなく、他のベンチャー企業と同じ場所で新たな企業の軸となる様な製品をアピールしたいと考えています。」(秋元さん)
アプライアンス社 小川智輝さん
アプライアンス社 小川智輝さん
「SXSWでの発表会に合わせて、GCカタパルトウェブサイトにも順次情報が公開されていく予定です。パーソンズ美術大学のプロジェクトを含めて完成したプロトタイプを世界に発信していきます。よりユーザー側の視点に立った新たな製品の開発というのを、SXSWや学生のスピード感などを参考にして加速させていく予定です。」(秋元さん)

SXSWでの出展に向けて、全力を注いでいるパナソニック。産学共同プロジェクトにも比重を高めており、単純な家電開発プロセスでは生まれない様な製品も数多く誕生してきそうだ。パーソンズ美術大学のプロジェクトは、将来的な製品化を目標にしており、学生達のやる気やスピード感というのをヒシヒシと感じられる。このモチベーションの高さや実現性は、SXSW後のパナソニック全体に好影響を与えるのではないだろうか。アメリカでのこのビックイベントを経た後に、どの様なプロダクトが誕生するのか。まだまだ、愉みは多そうだ。

2017年3月10日

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